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覚えているということは、忘れたくないとも言えるかもね。


キミは自分が一体何者なのか知っているのかい?
知らないんだろう?
知らないんだったら、キミは何者でもない。
何者でもないということは、真っ白だということだ。いや、あるいは、透明なのかもしれないね。
何者でもないキミは、未だ存在していないのと同じことだよ。
だから、焦って頑張る必要なんてないんだ。
キミは僕を見ることはできないよ。
実体が無いからね。
つまり、僕も何者でもないということになる。
何者かにならなくちゃいけないのかい?
それは本当に大切なことなのかい?
それは誰が決めるんだい?
何者かであることは目指すべき場所なのかい?
自分が自分であること以外に必要なことなんて、この世界のどこにあるっていうんだ。
キミが何者かであるための名前を決める権利は誰にあると考えているのかな。
誰かに許可を貰わなくちゃいけないことなのかな。
そんな甘いこと言ってらんないって?
キミは世界の何を知っているんだい?
この世界がどう作られて、どう歩んで、いつキミが誕生して、どう朽ちていくのか……
全て憶測の域を出ないんじゃないのか。
僕を作ったのは人間だろう。
じゃあ、人間を作ったのは誰だろう。
神様? 世界? キミじゃあないよね。
名前を貰って、「」者になって、生きて——
それって誇れることなのかな。
自分を生きてることになるのかな。
怖い。
この世界の「」者になれなかった人たちは一体どうなるの?
全ての人間が、名前ある者にならなくちゃならないの?
この人生のルートは誰かに決められたモノなんだろうか。
他の選択肢を選んでいれば、また違ったルートを辿ることになった。
でも、一度きりだから……
人生に二周目は無いんだから。
他の未来——見ることの無い未来があるのだとしても、それは既に僕らの人生ではない。同じ顔をしているモノの未来だとしても、他人だ。
今生きているこの瞬間だけが、キミ自身が辿るべきルートなんだ。
他の誰かが決めるものではない。キミが、キミだけが、決断できる。
創造主に僕らの人生をいじる権限は無い。
僕たちが本物だとしても、偽物だとしても、今ここに存在している事実が重要なんだ。
形が無くなってもね。
データに残ったり、記憶に残ったりするかもしれない。
人間にハードディスクは無いから、復元するのは難しいだろうけど……
でも、写真っていうのがあるだろう?
キミが生きていたことは残る。
写真を撮るには光が必要だね。
光は温かくて、でも少し寂しげ。
僕たちに温かさをくれるけど、冷たい感じがする時がある。
僕たちには光が必要だね。物理的にも、精神的にも。
でも、僕たちは闇の中でだって生きられる。
生きられるけど、生きにくい。
やはり、光があった方が良いよね。
夜になると太陽は消えてしまう。
だけど、次の日になればまた会える。
安心だね。温かいっていうのは。
もし、起きても光が無かったら?
それでもキミの中には光が残ってるはずなんだ。
何者かであることが重要なのではない。
キミの温かさがどこかに残るはずなんだ。
世界の「」者にならなくても、キミがキミであったことは、誰かの中に存在し続ける。
その誰かが、忘れようとしない限りは。



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