私のコーヒータイム
ホーローのコーヒーポットに七分目ほど水を入れてガスの火にかける。指先を温めようとポットに近づけ過ぎると、火傷しそうな痛さが一瞬走り、すぐに手を引っ込める。それでもこのお湯が沸くまでの時間、毎回同じことを繰り返している。
細い注ぎ口から白い湯気が出始めるとそろそろだ。熱い蓋を開けて沸騰を確かめてからガスの火を落とす。そして騒いだお湯が落ち着くのを少し待つ。
ポットの持ち手が熱くなっているからいつも濡れた布巾を使っている。プラスチックや木のカバーが付いたお洒落なポットも魅力だが、この台所にはシンプルなホワイトホーローが似合うと思う。
そして、珈琲をドリップする。
一度目に豆を蒸らして、その後お湯を三回注いで2杯分をサーバーに落とす。ポットの注ぎ口に集中していると、黄金色の水滴がポタポタ落ちてサーバーの中が曇っていく。表面に黄金色に輝く泡が生まれる。反対の指をガラス越しに触れ、淹れたての珈琲の熱さを感じてみる。このとき漂う香りを嗅ぐことも忘れない。
コーヒーを一日何杯飲むんだろう。
食事の後には、まず飲みたくなる。パソコンに向かっている時にもキーボードに触れる手を休めるようにちょくちょくコーヒーカップに手を伸ばす。
だから一日の杯数も多くなる。
最初は砂糖なしのインスタントコーヒーだった。たまにカフェラテに変わったが、飲みたくなったら電気ポットのお湯を使えばすぐに出来上がる。飲みたい気持ちをすぐに満たすことが出来た。そしてカップ片手にキーボードをそのまま叩いていた。
ところがどうだろう。ドリップで珈琲を淹れるという贅沢で無駄な時間をつくろうと思った。それも前振りもなく・・・。
今は「ながらコーヒー」でなく、珈琲タイムを味わっている。パソコンの電源を落とすとふわっとした香りに気づくこともできた。珈琲の香りは何故か昔の記憶を呼び起こす。不思議と好きだった記憶だけが呼び戻される。
今、私の珈琲タイムはお湯を沸かすところから始まる。
味わう時間はそれほど大切ではない。勝手に心が味わっている。それよりも珈琲を淹れるひとりの時間を味わいたい。
コーヒーを飲むことは、珈琲を淹れて飲むことだと思う。だから、珈琲を淹れる時間が私のコーヒータイムとなる。
そんな珈琲を淹れる私が好きになる。
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