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Vol.3「科学ってなんだろう?/私たちがキヅキランドをつくるわけ」
あの夏の日、僕はまだ小学生で、毎日のように土井くんと一緒に遊んでいた。
ある日、近所にある橋の高架下にでかけ、すみっこに捨てられていたぼろぼろのラジカセを見つけた。小学生はときに、遊びのためなら破壊行為もいとわない。普段は音楽を奏でるその機械の中身がどうなっているのか、分解してみたい衝動に駆られ、僕たちはコンクリートの壁に何度もラジカセを叩きつけた。やがて現れたのは、色とりどりの細かい部品がたくさんついた緑色の板だった。銀色の線が高速道路のインターチェンジのように入り組んで走っている。今思えば、それはただの電子基板なのだが、ビルが立ち並ぶ都会のジオラマ模型のように見えたその謎の部品に、僕たちの目は釘づけになった。これはいったいなんだろう──。
こんにちは。キヅキランド発案者の「稲盛財団」より、前回に続きふくだがお届けしています。こどもの頃の思い出におつきあいいただき、ありがとうございました。
さて、「私たちがキヅキランドをつくるわけ」第2回は、科学ってなんだろう? に迫ってみたいと思います。
1965年にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎博士は、こんな言葉を残しています。
「ふしぎだと思うこと
これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること
これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける
これが科学の花です」
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つまり、科学のはじまりは「不思議だと思うこと」のようです。僕があの夏の日にラジカセを叩き壊して飛びだした謎の部品に魅せられたように。僕はたまたま人工的に作られた電子部品に興味をもちましたが、ある人は、昆虫の鮮やかな色や変わった歩き方に、また別の人は、植物の種のかたちに惹かれるかもしれません。
なんだっていいんです。何かに驚いたり、不思議に思ったりしたら、それが科学のはじまりだと僕は思います。
こどもたちは日常の風景の片隅に不思議を見つけるまなざしを持っている
もうひとつ。1949年にノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士は「詩と科学──こどもたちのために」という随筆のなかで、科学は詩と「何だか近いようにも思われる」と書いています。続きを見てみましょう。
どうしてだろうか。出発点が同じだからだ。どちらも自然を見ること聞くことからはじまる。薔薇の花の香をかぎ、その美しさをたたえる気持と、花の形状をしらべようとする気持の間には、大きな隔りはない。
科学も詩も「自然を見ること聞くこと」からはじまり、美しいと感じることと、調べたいと思う気持ちは似ているのでは、と湯川博士は言っているのです。
二人の偉大な科学者が言う「不思議に思うこと」、「自然を見ること聞くこと」、「美しいと感じること」の間には、何かつながりがありそうです。
先ほどの湯川博士の文章にはこんな続きがあります。
ごみごみした実験室の片隅で、科学者は時々思いがけなく詩を発見するのである。しろうと目にはちっとも面白くない数式の中に、専門家は目に見える花よりもずっとずっと美しい自然の姿をありありとみとめるのである。
この文は、こんなふうに言い換えられるかもしれません。
「いつも遊んでいる公園の片隅で、こどもたちは時々思いがけなく詩を発見するのである。大人の目にはちっとも面白くない風景の中に、こどもたちは目に見える花よりもずっとずっと美しい自然の姿をありありとみとめるのである。」
そんなこどもたちのまなざしに気づいていますでしょうか。
朝永博士は、ふしぎだと思うことが「科学の芽」だと言いました。それでは「科学の種」はどこにあるのでしょうか。
実は、キヅキランドは、どうすれば科学の種が芽を吹きだすか、どうやったらハテナがふくらむかを、たくさんの大人が集まって約2年、真剣に遊びながら試行錯誤を重ねて生まれたものなんです。次回はキヅキランドがどのようにして誕生したのか、をお話したいと思います(1月26日公開予定)。
こんなふうに、こちらのnoteではキヅキランドについての記事をいろいろお届けしていきます。よかったらぜひフォローしてください。
それではまた!
*今回ご紹介した湯川博士の「詩と科学──こどもたちのために」に興味をもった方は、ぜひ『STANDARD BOOKS 湯川秀樹 詩と科学』(平凡社)などで、全文を読んでみてください!
Illustration: Haruka Aramaki