ほのぼの童話(7) 「こどものきらいなかみさま」
(絵/橋谷 桂子)
むかし経ケ岳のふもとの小さな村に、こどものきらいなかみさまがいました。このかみさまは、かみさまのくせに、いろいろないたずらをしては、こどもたちをこまらせていました。わらぞうりが、かたほうなくなったり、ものかげからきゅうに手をひっぱられたりなどのいたずらは、しょっちゅうだったのです。
ある日、こどもたちは、神社の石だんのところに集まりました。
「みんな。かみさまが、ぼくたちを好きになってくれるには、どうしたらいいと思う?」
こどもたちは「うーん」とくびをかたむけましたが、なかなかよい考えがうかびません。
そのときです。いちばんちいさなこどもが、ポツンと言いました。
「ぼく、おばあちゃんに聞いたことがある。この村のかみさまは『しりとり遊び』が、大好きなんだって!」
こどもたちは、ハッと顔を見あわせました。
「よーし、じゃみんな、こんや七時に、ここに集まろう!」
こどもたちは、こっくりとうなずきました。
その夜。こどもたちは、七時きっかりに、神社のけいだいにあつまりました。
ひとりのこどもが、ろうそくに火をつけると、大きな石の上に、そうっとおきました。
「こうすれば、かみさまは僕たちのすぐそばに、来てくれるはずだから」
そう、たしかにかみさまは、こどもたちのすぐそばで、ようすをうかがっていたのです。
( 何だ? こいつら・・・・
フフフ、また、いたずらしてやるか )
その時です。ひとりのこどもが、大きな声でさけびました。
「すいかっ」
つぎのこどもが、言いました。
「かめらっ」
( おお、おおっ?「しりとり」じゃっ )
かみさまはうれしくなって、からだじゅうを、ぷるぷるっと、ふるわせました。
「らじお」
「・・・・えーと、えーと・・おならっ」
かみさまはおもわずプッとふきだしそうになりました。でもかみさまですので、声を出すわけにいきません。かみさまが、おなかをさすっているあいだにも、『しりとり遊び』は、どんどんつづいていきます。
「ろしあっ」
「あめりかっ」
「か・・・、か・・・、かめらっ」
「おいっ、かめらはさっき言ったろう」
「あ、そうか。えーと、えーと・・・・」
その時です。
「か・み・さ・まっ」
玉のころがるような美しい声が、こどもたちの、すぐうしろからきこえました。
「うまいっ!」
こどもたちは、こわさもわすれて、いっせいにはくしゅしました。かみさまは、すっかりうれしくなりました。もともと、かみさまがこどもたちにいじわるをしてきたのも、ただただ、みんなといっしょに、遊びたかったからだけだったのです。だって、かみさまは神社のなかで、いつも一人ぽっちでしたから。
それからというもの、かみさまのいたずらはパッタリとなくなり、こどもたちはげんきに、村中を遊びまわれるようになりました。
そして、てんきのよい夜には、
( ろしあ・・あめりか・・かみさま・・)
という、すみきった声が、神社のおくのほうから、聞こえるようになったということです。
(2001.1 福井新聞「おはなしトントン」入選作/
橋谷桂子様、素敵な絵をありがとうございました)
(作者ひとこと) このお話を書いた頃、創作童話を募集している新聞社をいろいろ調べて、次々に応募しておりました。福井新聞「おはなしトントン」には2回掲載して頂きましたが、選者の方がとても辛口で、いつも手厳しい批評を書かれ泣いておりました。今となっては懐かしい思い出ですが…
「おはなしトントン」の魅力は、当時としては珍しくカラーの挿絵を加えてくださった事でした。このお話にどんな絵を加えて下さるか、楽しみにしていたのですが、かみさまがモロ西洋人だったのにビックリ! 私はヤマトタケルの埴輪みたいな、可愛いかみさまを想像して書いたため、しばらくはそのギャップにのたうち廻る事となりました。
なお、このお話も新美南吉の「こどものすきなかみさま」の、完全なイミテーションであります。ゆえに、南吉先生に少なからぬ後ろめたい思いを持っていたのですが、最近愛知県半田市の「新美南吉記念館」が、「ごんぎつね」のその後のお話を募集されていた事を知り、このような世界に共感してくださる方は、たくさんいらっしゃるのだ、と少し気が楽になった次第です。(2020.8.9)
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