ほのぼの童話(4) 「青みかんと黄みかん」
(絵/ 金子 玲子)
「らっしやぁーい。みかんが安いよぉーっ」
さあ、味覚の秋です。スーパーの入り口には、青々とした冬みかんが丸いザルに山盛りにされています。そのずっと奥に、透明なパックにつめられた、黄色い温室みかんが置かれていました。
「おいこら、青いのっ」
パックの中の黄みかんが言いました。
「え?、僕たちのことかい」
ザルの青みかんが、びっくりして答えました。
「お前ら青くて、いかにもスッパそうだな」
「そんなこと言ったって・・・僕たち冬みかんは、今の時期にはこういう色をしているのが普通ってもんだ。それを何だい、まだ秋になったばかりだというのに、そんなに黄色くなっちゃって!」
「おれたちはな、この季節でもおいしく食べてもらえるように、最新の技術で黄色くなっているんだ。
お前らみたいな青くさいのを、世の中では『未熟』って言うのさ!」
「なにイ、この野郎っ、表へでろっ」
青みかんは、真っ赤になって怒鳴りました。
「まあまあ、気にするな・・・売り場を端っこに移されて、ひがんでいるだけなんじゃから」
別の青みかんが言いました。
「のう、黄みかん君。君たちも、人間においしく食べてもらうのが、一番の願いじゃろ?」
「う、うん。まあそうだけど・・・」
「だったら、わしらと一緒じゃ。つまらない言い争いをせず、人間たちがわしらのどちらを選んでくれるか、静かに待とうじゃないか」
みんなが納得して、けんかはおさまりました。
その時、太ったおばさんがやって来ました。
( あのおばさん、わしらを買ってくれそうじゃのう・・・)
青みかんがつぶやきました。でもおばさんは黄みかんのパックを手に取り、分厚いめがねにぐっと近づけ、張ってある値段シールをジイッと見つめました。
「まあ、高いことっ!」
そう言うとおばさんは、黄みかんのパックを元の場所にドンッと返したのです。
「いてててて・・何て乱暴なおばさんだっ」
黄みかんがパックの中で悲鳴をあげました。
おばさんは、こんどは青みかんのザルを手に取ると、自分のかごの中にザザーッと入れました。
「黄みかん君、お先にーっ」
おばさんの買い物かごのなかで、青みかんたちは勝ち誇ったように呼びかけました。
「おれたちの方がずっと甘くて美味しいのになぁ・・・」
黄みかんが悔しそうに言いました。
「人間なんて、しょせん品質よりも、値段の高低で物事を決めるものなのさ」
別の黄みかんが、分かったような顔をしてつぶやきます。
「まあ、おれたちの本当の価値を分かってくれる人間が現れるのを、気長に待つとしようや」
「そ、そうだよな」
黄みかんたちは、うなずき合いました。
「らっしやぁーい。みかんが安いよぉーっ」
スーパーの昼下がりが過ぎていきます。
( 2000. 10.1 中日新聞「みんなの童話」入選・掲載)
中日新聞社のご了解をいただき、新聞掲載時のイラストを転載させていただきました。
金子玲子様、素晴しいイラストをありがとうございました。
(作者ひとこと)
中日新聞サンデー版「みんなの童話」入選第4作目です。
これまでの入選3作はいずれも曲名をタイトルとした音楽物語で、作者自身はこれからもこの路線で行こうと思っていたのですが、ややパターン化してネタ切れ気味だったこともあり、気分転換にまったく気楽な気持ちでファンタジー物を書いたのが、この作品です。これを読まれたあと「だから、どうだって言うんだ!」と言われてもしかたが無いような他愛のない内容なので、正直言って入選は予想外でした。
「青みかんが未熟といわれて真っ赤になって怒る」ような場面が面白いと思っていただけたのかも知れません。
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