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チェリッシュの「落葉の喫茶店」

 チェリッシュといえば1971年に大ヒットした「なのにあなたは京都と行くの」で有名な、団塊の世代にとっては懐かしいグループだ。そのチェリッシュの数々の作品の中で、私には迷うこと無くまず最初に挙げたい名曲がある。それが「落葉の喫茶店」だ。
 この「落葉の喫茶店」は1972年10月、チェリッシュ4枚目のシングルとして発売された「古いお寺にただひとり」のB面にあたる。「古い・・」と同じく、山上路夫・作詞、鈴木邦彦・作曲、青木望・編曲による作品である。(余談ですが、EPジャケ写真はタイトルに反し「古いお寺にただ二人」状態ですね…)
 曲の歌詞のストーリーは、「いつも何げなく付き合っていた男性が、ある日遠くの町に移ってしまう。その時初めて彼の事を思っている自分に気がついた女性が、よく彼とおしゃべりをしていた喫茶店に今日も一人で訪れ、彼の事を思い出していると、いつか落葉が舞い散る淋しい季節になってしまう・・・」といった、いかにも歌謡曲によくあるパターンなのだが、悦ちゃんの素晴らしいボーカルによって、この作品は不滅の価値を与えられた、と言えるだろう。当時21歳であった彼女の、人生の中でまさに「この時しか無い」という一瞬の輝きは、まさに筆舌に尽しがたい。 特に曲中間部で何度も現れるハイトーン (C♯) の初々しさといったら・・・私には、いかなるコロラトゥーラ歌手の超絶技巧にも勝る。おそらくスタッフさえも、これほどの出来栄えを予想していなかったのではないだろうか。青木望のアレンジも素晴らしい。冒頭から多用されるアコースティック・ギターとチェンバロとの絶妙のコラボレーション、そして何よりストリングスの美しさ!! 当時ビクターでは、ストリングスのアレンジを得意とする高田弘というアレンジャーがいた。彼のアレンジによる麻丘めぐみのデビュー曲「芽ばえ」(1972) のストリングスに、思わず鳥肌を立てたファンも多いのではないだろうか。青木のアレンジも高田に負けない。中間部でクレッシェンドする部分など、マントヴァーニさながらだ。この作品を聴いていると、恥ずかしながら私はいつも、青春の頃の甘酸っぱくもやるせない思いにかられ、時には涙してしまう。
 思えばこの頃は、歌謡曲にも旋律やハーモニーの美しい作品が数多くあった。また歌手のボーカルもみな素直で、ありのままの心を歌ったものが多かったように思う。例を挙げてみよう。今ではほとんど忘れられているフォーク・デュオ「とんぼちゃん」の「遠い悲しみ」「ひと足遅れの春」など・・・。
 最近のいわゆるJ-POPはやたらウルサく、奇を衒ったアレンジ、そして英語なまりの思い付きとしか思えない汚い歌いまわしのボーカルなど、そのほとんどは聴くに耐えない。やはり「美しくない日本」という時代を反映しているのだろうか・・・
 たとえ少々クサクとも、私は「落葉の喫茶店」のような、真に美しい作品を愛したい。
なおこの「落葉の喫茶店」はCDでは現在、「チェリッシュ BOX 」という7枚組 (DVD付) のアルバムでしか聴くことが出来ないようだ。以下にその詳報を付記する。

チェリッシュBOX (VIZL-208) \12,600(税込)

レコード
(EP) 「古いお寺にただひとり」「落葉の喫茶店」  SF-34 (1972.9)
(LP) チェリッシュベストコレクション(1972.11) SF5005〜6

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