「薬剤師」が基礎造形と出会ったら
桑沢デザイン研究所の基礎造形専攻には、様々な背景をもった方が学びに来ています。基礎造形と出会ったきっかけや、造形課題を通して感じたことなどを、綴ってもらいました。
「薬剤師である私」について
私の職業は、調剤薬局の薬剤師でした。
処方箋を元に薬を調剤することをはじめ、患者さんに服薬指導(薬の正しい使い方を伝えること)をしたり、健康相談を受けて治療のサポートをしたりする、「人や地域の健康を守る仕事」です。
10年かかって、決まった覚悟
小さいころから絵を描くことが好きで、中学から高校まで美術部に所属していました。
進路選択を意識し始めた頃には、美大に対する漠然とした憧れも出てきて。
けれど、「自分の実力では、絵が嫌いになるだけだな……」という想いもありました。
好きなだけでは、その道を進み続けることは難しい……。
そう思った私は、別の道を探すことに。
当時の私は「やりたいことは、とくにない」高校生。理系科目の中では生物が得意だったので、薬剤師を目指しました。
その時の選択から、10年。
薬を患者さんに届けることは世の中に必要な素晴らしい仕事だけれど、「もっと絵やデザインに触れていたい」という気持ちが、日に日に膨らんでいきました。
「これから、どうしていこう……」と悩んでいたとき、ふと「10年間、絵を描くことを続けてこれた」という事実に気づきました。
下手かもしれないけれど、10年間努力を重ねてきた。
今でも、絵を描くことが好き。
10年続けられたんだから、きっとこれからも努力していけるはず。
この10年という歳月により、覚悟が決まりました。「自分のやりたいことからはきっと一生逃げられない」という、ある意味での諦めを含んだ、「絵とデザインに向き合う覚悟」です。
「考え方の方程式があるんじゃないか?」
働く時間の隙間を縫うように、創作活動を続ける日々。けれど、作る度に「自分はかっこいいものがつくれない」「自分にはセンスがない」と感じていました。
イラスト制作の解説本や、色彩構成の本なども読みましたが、パターンのピース一つ一つを理解できても、どう組み合わせたらいいのかわからない。
「世の中の人はどうしているんだろう?」と考えていた時に、「センスだけじゃなくて、組み合わせを考える上での、ルールや方程式があるんじゃないか?」と思うようになりました。
考え方のルールや方程式がわかれば、自分ももっとかっこいいものが作れるかもしれない。
それを知るには、きっとデザインの基礎を学んだ方がいい。
「夜間 基礎 デザイン」をキーワードにネットで学校を調べていたとき、桑沢デザイン研究所の基礎造形専攻を見つけ、入学することにしました。
基礎造形ではぐくんだのは、「要素を分解する視点」
どの造形課題にも気づきはありましたが、私は特に「色材表現研究」と、「形態理論 点・線・面・立体」という課題が印象に残りました。
「色材表現研究」では、身の回りにある色を付けられるものと、色を広げる画材を使って、色の表現を探っていきます。
先生から出された注意事項は、「模様やパターンを意図的につくらない」「絵を描かない」という2つ。
色を付けられるもの、色を広げる画材を集めます
こすったり、垂らしたり、押したりしながら、色と遊びます
「形態理論 点・線・面・立体」では、形を作る要素となる「点」「線」「面」「立体」と、様々な表現をかけあわせて、新たな形をつくっていく課題です。
各要素と表現を掛け合わせて、新たな形を作ります。
なかなかプリントを埋められず苦戦。
「色材表現研究」では、クラスメイトの人が作ったものを見ることで、「自分のパターンの引き出し」が増えていきました。
「形態理論 点・線・面・立体」では、講義の中でネガ/ポジ表現、加法/減法(加えることで形を変える、減らすことで形を変える)なども教えてもらえたため、「何かを見たときに、どう分解したらいいかの視点」が身につきました。
これこそまさに、自分が求めていた「考え方のルールや方程式」だったのです。
基礎造形で得た「もう1つの考え方」
基礎造形で得られたのは、デザインの技法だけではありません。
「基礎造形はとても楽しい。でも、基礎造形のカリキュラムが終わった後、どうしよう?」
修了後の進路についてぼんやり悩んでいたとき、先生からもらったヒントがありました。
「デザインは、社会の触媒みたいなもの。薬剤師も、薬学知識を届ける触媒みたいな仕事。デザイナーも薬剤師も、やってることは一緒だよね。」
なるほど!
私にとっては目から鱗でした。
触媒というのは、化学反応を助ける物質のこと。
例えば、その問題が「ものづくりで解決できること」なら。問題と、困っている人の間にデザイナーが助けに入ります。
例えば、その問題が「健康の悩みに関わること」なら。薬剤師が服薬指導や健康相談を通して、困っている人を助けます。
世の中には難題がたくさん転がっているけれど、それぞれの専門知識を生かすことで、もっと滑らかで、心地よい社会をデザインする。
職業が違っても、目指すところは同じ。
そう気づいたら、自分の進んできた道と、これから目指す道が繋がりました。
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私は来年からは、桑沢デザイン研究所のビジュアルデザインコース(夜間)に通います。
もっとデザインを学んで、知りたいと思っています。
ここまで辿り着くのに随分と遠回りをしましたが、回り道に挑戦したから見つけられたものがあります。
もし、このnoteが道に迷っている誰かに届き、ひと匙の勇気を分けられたら幸いです。
- ポートフォリオ
@hiro_neneko
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