OKINAWA
一人になると、気付いたらいつもあのことばかり考えてしまう。
だから一人にならないようにしていた。
余計なことをいつまでも話して、考えないようにしていた。
そのことを、すっかり忘れて来てしまった。陽気な南国へ、一人で。
動揺をごまかすように、いつも聴いていた馴染みの音楽をかける。
あ、でも。さみしい。
・
どうして来たのか思い出せない。
気づいたらホテルにいた。
東京の一角だと言われても疑わないだろう。
しかし明らかにここはーー温かい。
ホテルの窓から見える景色は、案の定都会の街とさして変わらなかった。
結局、どこにいても、私のすることは変わらないのだ。
雑踏の中、君を探してる。
性懲りも無く、君だけを。
不機嫌そうなあの、強い瞳を。
君はどこにもいなかったけど、本当はどこにでもいる気がしたから。
・
その証拠に、東京から遠く離れたこの南国にも、君はいた。
県庁前駅のエンダー2階。
そこから見える交差点。
不機嫌そうに自転車を漕ぐ君、なびく痛んだ髪、媚びることなく一瞬にして視界から消えてしまう横顔。
思わず笑ってしまう。
これは諦念の笑みだ。
ああ、結局私は、変わらない。変われない。
逃亡の旅は、どうやら失敗だったようだ。
・
多くの人が集まる賑やかな場所へ行った。皆私に優しくて、冷たかった。
少し変わってるって言われない、と聞かれた。
これまで何度も聞かれたことだ。
そしてこんなことを言われるたび、私は相手とのこの先埋まることはない絶対的な距離を感じ、しまいには君を思い出すのだった。
私を自然に受け入れてくれた人。
それが君だった。
君がいないと、私はひとりぼっちなんだ。
隙間を埋めてくれるのは、君しかいないんだ。
・
幻だろうか。
国際通りの雑踏の中、喧騒、片隅で、猫の海、ガラスのネオン。ピンクと黄色。ときどき水色。
ぜんぶがぬめって、こなごなになる。
どれが現実で、どれが嘘なのか、私には分からない。
もう一度だけ話がしたい。
本当に話したかったこと。
キャッチャーインザライのこと、ジェームスディーンとピアアンジェリのこと、なついたきつねのこと。
もう一度だけで良い。
孤独な夜に現れて。
そしてそのまま話しつかれてねむって、私はもうそのまま、二度と目を覚ましたくなんてないんだ。
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