すごい

　深夜、私はしょんぼりしていた。それは、もう布団にくるまって眠る直前のこと。土曜の夜で、そばには好きな男もいる。彼はもう半分眠っていた。幸せであるはずなのに、私はしょんぼりとしていた。
　なぜか。
　右足の小指の爪、そのはじっこが、割れていたからだ。
　ふかふかの掛布団の中に足を入れたとき、その割れた爪が引っかかった、痛い。このまま寝たら、寝ているうちにもっと引っかかって、さらに痛い思いをするかもしれない。爪切りを借りて切ろうか、でも完ぺきに引っかからないように処置するなんて無理だ、だけど切ったらちょっとはましになるかな、うーん、余計に引っかかるようになる可能性も無きにしも非ず……。
　もうこのまま、痛みにおびえ、足をのびのびと伸ばすことをあきらめて眠りにつかなければいけないのだろうか。悲しい。なぜ私がこんな目に合わなければいけないのか。気がつけば、
「今さ、足の小指の爪が割れちゃってて、寝てる間にそれが布団に引っかかっちゃいそう」
と、すでに眠りかけている彼に訴えてしまっていた。やっかいな女である。解決したいわけではなく、ただ悲しいので共有したかった。すると、
「じゃあバンソウコウ貼っておけば？」
と言ってむくりと起き上がってさっと手を伸ばし、どこから出したのか、中くらいの大きさの箱を手渡してきた。開けてみると、絆創膏がたくさん入っている。
　確かに、これを上から貼っておけば、爪が引っかかることもない。
　ありがたく一枚もらって、小指にぐるり。巻きつけた。布団に潜り込み、さっそく足をうんと伸ばしてみる。大丈夫だ。気持ちいい。
　すごい。絆創膏を貼ればいいなんて、自分のことなのに思いつかなかった。それなのに彼は、眠っていたところに急にその話を少しきいただけですぐに解決策を提案した。そして、そのために必要な絆創膏を持っていた。それがすぐに出せるところにしまってあった。そして眠いのに労をいとわずに取り出して渡してくれた。すごい。ドラえもんみたい。すごい。
　ほかほかとした気持ちで、すぐに眠った。