ネコゴコロとヒトゴコロ その20

一宿一飯の恩義

 義理堅い猫、ミミの話です。
 我が家にご飯を食べにくるようになってどれくらい経ったか、だんだん部屋の中でもくつろぐようになり、自然と我が家の一員になった猫がおりました。丁度、その数か月前に22年間一緒に暮らした猫が他界してしまったので、その子と入れ替わるようにちゃっかりと。

 ミミと名づけたその猫が律儀な性格だと思い知ったのは、それから間もなくのこと。
 目が覚めたら、枕の横で猫がこっちの顔を覗いてるのです。ご飯の催促なのかと思って、顔をミミのほうに向けてギョギョッ!枕の端っこに子ネズミがいるではありませんか。しかも、上半身しかないやつが・・・・!

 どうやらそれは彼なりの“お礼”だったようなのです。まあ、一宿一飯の恩義とでも言いましょうか。猫、特に自分で猟もできる元野良猫ってそういう義理堅いところがあるんですね。
 中国の戦国時代に広まった風習に“食客”というのがありました。家の主に客として衣食住をあてがってもらうお礼に、自分の持つ能力を発揮して主を助け、対等の立場と待遇を得るというもの。野良から家猫になったミミにはそうした仁義を重んじる任侠精神みたいなものがあったのかもしれません。

 ミミからはそんなお礼を一度ならず二度もいただきましたが、三度目はありませんでした。
 というのも、その頃我が家の外壁工事が始まり、連日ゴリゴリガーガーと
うるさくなってしまい、その振動と騒音に辟易したミミはある日突然、姿を消してしまったからです。まさに「犬は人につき、ねこは家につく」の典型のような出来事でした。居心地の悪い家に、ミミは未練を残さなかったのです。

 私たち人間にも、義理堅い人はいます。
 人は恩を受けたとき、その相手に何かしらを返そうという意識が働きますが、そうした心理を「返報性の原理」と言います。
 義理堅い人はその心理がより強く働きます。彼らは、ささいなことでも恩を返したり、約束を守ったり、責任感を持って物事をやりとげたりするので、必然的に周囲からの人望も厚くなります。ただ、時には自分や家族を犠牲にしても恩を返そうとするので、周囲を戸惑わせることもあるのですが。

 知合った人が義理堅いかどうかを知りたいなら、デパートやスーパーの試食コーナーに連れて行くといいかもしれません。
 無料で食品を提供する試食は、何も慈善事業でやっているわけではありません。食べさせることでお客に返報性の心理を芽生えさせて買ってもらうための戦略です。なので、試食をして迷うことなく商品を買ってしまうようであれば、義理堅い人である可能性は大であると思われます。



 

 
 

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