見出し画像

ネットに漂うCDショップ ~音楽はたそがれない 7⃣

*今回のおススメBGM:Keith Jarrett / The Köln Concert


誰にでも人生の局面というか岐路というか、後あと振りかえるとここぞという重要な瞬間がある。
人生なんて大げさなことじゃなくても、趣味の世界でも同じようなものだ。
私の音楽人生にとってキース・ジャレットとの出会いがそうだった。

大学時代の夏休みに帰省していたとき、行きつけのJAZZ喫茶ではじめてこのレコードを聴いた。
それまで洋楽のロックばかりを聴き、やっとジャズの取っ掛かりについたばかりの耳にはこれ、ジャズ? え、SWINGじゃないの?ってカンジだった。

このレコードをかけたとき、マスター(佐藤蛾次郎似)のアタマのなかはおそらくこうだ。
「ムツカシそうな面してSWINGにのってる、兄ちゃん姉ちゃんたち。 こんなオンガクもあるんやで。どや、まいったか」
自分がピアノ弾いてるワケでもないのに、得意満面で。
そして私は足もともおぼつかない薄暗い店内に掲げられたレコードジャケットを目に焼き付けて近所のレコード屋に走りこんでそれ以来、この歳までずっと聴きつづけている。

今までどれくらい聴いたかわからない「part 1」 やがて「part 2a」に耳が移り「part 2b」へと。
そしてピアノという楽器が語る究極のメロディ、「part 2c」

因みに…って思い出したように言うけど、これらの演奏はキース・ジャレットのオリジナルだけど、あらかじめ作曲して用意されていたものではない。楽譜もない。
そう。 なんと即興演奏なのだ。
演奏しながらメロディを創造していく、インプロヴィゼーション。 
約67分全篇が。

私の音楽人生を円グラフにしたら、おそらくその10パーセントはキース・ジャレットが占めているにちがいない。
人生の10パーセントって、すごくないか? 
今にして思えば、あの時佐藤蛾次郎似のマスターがこのレコードをかけてくれてなかったら、私の音楽人生は別のものになっていたはずだ。

だけど…これが今回のもうひとつの結論なんだけれども。
もしかして私は人生のどこかで別の大事なポイントとすれ違って、あるいは気がつかずに画期的な出会いを逃してきたかもしれない。
人生の別の10パーセントを占めていたかもしれない別の重要なパーツを。

そしてもうひとつ言いたいのだけれど、この文章を読んでこのアルバムに興味をもってCDショップを訪れようとしてるあなた。
残念ながらたぶん売り切れてますよ。
なんでかっていうと、先日星野源がTV番組でこのアルバムを取り上げて、しばし涙ぐんだりしながら絶賛してたから…

もちろんこの8月末に閉店した私がいたCDショップでも、このアルバムは絶対的な基本在庫だったよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?