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CDショップ閉店 顛末記 ~CD業界のたそがれ 最終回

*今回のおススメBGM:Χάρις Αλεξίου /Gyrizontas Ton Kosmo LIVE ’92-‘96

名まえだけは知っていたが、その唄を聴くのは初めてだった。
ビルの八階の半分屋外のようなテラスで聴いたその歌声は、見下ろすビル街に響きわたるようだった。 もう三十年ちかくも前のことか。 

日本語で書くと「ハリス・アレクシーウ」  ギリシアの国民的歌手だ。
シャンソンのようでも、フラメンコのようでも、カンツォーネのようでも、ファドのようでもあるし、シャンソンでもフラメンコでもカンツォーネでもファドでもない。
世の中にこんな唄があったのかと驚く半面、いつもどこかで聴こえている市井の唄という普遍的な魅力がただよう。
初めて聴いたとき見下ろすビル街に響きわたるようで感動したが、ほんとうは小さなライブハウスで静かに聴きたいオンガク。



まさかまさかの天変地異…
というのは大げさだが、予期せず台風がやって来たせいで閉店直前のキモチに文字どおり水をさされた。
29日30日の二日間休業ということになってしまったのだ。
なんとか、最終日の今日はいつも通りに営業できるのでヨカッタ。


いよいよのいよいよだけど、思いのほか感傷的な気分にならないのが不思議なカンジだ。
営業はおしまいになっても、そのあとしばらくは商品返品や売場の後かたづけなどで出勤するし、スタッフたちともまだ会えるからかなぁ。

この店には13年あまりいた。
今の自分の年齢での13年と、たとえば30歳代での13年はあたりまえだが年月の長さの感じ方がちがう。 もうあまり感傷的にならないというのは、そういうことか。

先日テレビで「石田組」という弦楽合奏団のライブを見た。
あぁ、ナカナカおもしろい。 これはCDの問い合わせがあるだろうなと思ったが、すぐにそうか、もういいんだと気がついた。
好き嫌いに関係なく、いろんなメディアにアンテナを張って得た音楽情報を仕事に生かす緊張感はもう持たなくていいのは楽だけど、何か物足りなくもある。

思い返せばおもしろいやりがいのある業界だったけど、CDというメディアがすたれていっていずれなくなってしまう業界なんだろうな。

今でも憶えている。
ある時、当時の店の社長があるレコードメーカーの新商品説明会から帰ってきて興奮気味に一声。

「おい、レコードが12センチくらいのプラスチック盤になるらしいぞ。 コンパクトディスクというそうや」

そうか、もうあれから40数年もたつのか…

さぁて、出勤するか。 最後の一日へ。

                          (おしまい)


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