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シルエット「紙風船/ラバーズ」にて

2024年11月2日(土)14時の回
@山小屋シアター

「紙風船」
作:岸田國士 演出:澤雅展

「紙風船」の戯曲を初めて読んだのは大学生の時。全集だったので他にもいくつか読みました。もう10年ほど前なのに、どんな話かしっかり覚えていました。
名作ながら、上演を生で観たのは今回が初めて。
大学生の頃は結婚なんて想像していなかったから、新婚1年目の夫婦のお話ってだけで「大人だな〜」と感じていたけど、今観るとなんだか可愛らしいやり取りのお話に思えました。
結婚1年目って現代ではもうちょっとラブラブじゃないかな・・・いや、人によるけど。男性は仕事・女性は家庭という当時の構造がそうさせるのでしょうか。今はマイカーで気楽にお出かけできるし、身支度も洋服だからそこまで時間がかからないし。当時の社会は、結婚1年目であそこまでの閉塞感を感じてしまうものだったのかしら・・・と、およそ100年前の日本に思いを馳せました。

気づけば演劇に出会ってざっくり10年は経って、毎週のようにとにかく演劇公演をたくさん観なければと思っていた時期もあったけど、最近は観劇の回数がちょっと減ってきていて。
その間に、人並み程度に映画やドラマを観たり音楽を聴いたり漫画や小説を読んだりしているうちに、なんで演劇を観るんだろう、演劇のどういうところが面白いんだろう、と立ち止まって考えるようになってしまって。
シルエットの俳優お二人の身体表現や会話の雰囲気が綺麗だなと以前から思っていたので、何か気づきがあるんじゃないかと期待を持って観劇に行きました。

観て思ったのは、パフォーマンスする俳優さんの関節の音とかコップに波打つカルピスの新鮮さは確かにここで観る面白さだなということ。作品を作る側の人たちと小さな空間で作品を共有しているということ。当たり前のことですが改めてそう思いました。共有してもらえているという実感が持てるお二人の演技だからこそ、そう思えたのかもしれません。


「ラバーズ」
作:大迫旭洋 演出:澤雅展

「紙風船」と併せて上演する作品を書き下ろすことがまず難しいと思いましたが、アイデアとユーモアが随所に散りばめられたサービス精神旺盛な作品でした。
「紙風船」が大正末期に書かれた作品なので、「ラバーズ」は1時代スライドさせ、昭和末期に書かれた戯曲に取り組むという設定。
俳優のお二人の緻密な演技力もこの作品では笑いの種となり、軽快なやり取りにクスッとくるところが色々とありました。
ラストに突如挿入される女性の告白・それに誘われて吐露される男性の告白が、公演パンフレットにも書かれていたテーマそのもの。「紙風船」におけるラストの紙風船とは何か・・・という考察は文学研究として必ず取り上げられる話題かと思いますが、「子ども」のモチーフに見えるなと今回は感じました。ラストに突如放り込まれる紙風船の役割を「ラバーズ」の突如の告白という構造に置き換えたのかなとも思いました。

「紙風船」は時代を超えても穏やかな気持ちで眺められたのに対して、「ラバーズ」の劇中劇にはなぜか終始モヤモヤ。作中の課題として取り上げられている濡れ場の演じ方の問題以前に、自分にとっての妻(恋人)と産みの母の役割を一人の女性に両方担わせようとしている男性が終始グロい。
作品のラストで女性が「子どもはいらない」と宣言することでその場を現代の価値観に一気に引き戻し、これまでのグロさにNOを突き付けた・・・ようにも思える。でもその後に続く「女性としての身体がこの世に何かを遺したがっている」という言葉は、劇中劇と同じくらいグロい。

そういう言葉に自分が過敏になりすぎていると言われればそれまでなのですが、ラストの女性の告白は、本来もっと丁寧な前後のプロセスの中で観客に提示されるべき言葉だと私は思いました。もちろん告白に至るまでのプロセスが全くの無関係であったとは思いません。ただ、提示した言葉に対しては希薄に思えたのです。

産める機能を備え付けられているがための悩みって、本当にたくさんある。そのことについて考えない日はないくらいに。
私にとって真剣な悩みなのに、それを藪から棒に出して作品が閉じられていく様を観客席でただ眺めなければいけないのは・・・痛いところに急に触れられて、そのまま放り出されたような感じで。居心地が良くないなという気持ちが優ってしまって、素直に面白かったと思えませんでした。

ただそんな時でも持ち帰れるのは、私はこういうことが嫌なんだ、許せないんだという発見。そしてそれを当たり前のように許容できる他者もたくさんいて、その人たちも決して悪人ではないんだという発見。あまり嬉しくはない発見だけれど、たまにはそういう現実も見なければならない。

とにもかくにもシルエットの澤さんと小林さんの多様なチャレンジ、それが技術により叶えられていく様を鮮やかに観せていただける2作品で、重厚ながらもフレッシュなまさに旗揚げ公演。これからお二人がどんな戯曲や手法やテーマを選んで上演を行なっていかれるのか、それは観客として素直に楽しみです。

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