研究ノート 森重晴雄さん(元三菱重工業エンジニア、耐震工学)が実施した福島第一原発1号機の簡易モデルでの耐震評価の欠陥

地震の影響について

地震について考え方を整理しておきますが、地震エネルギーは、モーメントマグニチュード(Mw)で表示され、震源から離れたサイトの影響は、地震加速度(gal.)や震度(六とか七とか)で表示されますが、地震の影響は、Mwと距離で決まり、たとえ、Mw=9.0の地震が発生しても、震源から無限に離れていれば、影響は、ゼロになり、逆に、Mw=6.0くらいでも、震源から近い距離にあるサイトでの影響は、大きくなるため、地震の影響の評価は、震源位置、Mw、震源からサイトまでの距離、さらに、サイト内に大きな施設(例えば原発)があれば、サイト地表面と大きな施設内での地震加速度は、大きく異なるため、何処の何を論じているのか、明確にしておく必要があります。

サイト地表と大型施設内の地震加速度の相違について

地震加速度の値は、何の定義の説明もなしに、いきなり、400 gal.とか500 gal.のように表示されますが、暗黙の了解事項として、地震振動周期0.02 secの値であり、振動周期により地震加速度は、大きく変化し、分布しており、専門的には、そのような分布のことを地震応答スペクトルと言い、原発であれば、振動周期の短い0.02-0.2 secの地震加速度が機器・配管の振動に大きな影響を与え、サイト地表と原発内では、地震加速度に大きな差があり、原発内の原子炉建屋地下二階では、サイト地表面の約半分です(東電編『福島第一原子力発電所 東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について』、2011.9)。

基準地震動や原子炉建屋基盤地震と三次元地震加速度分布の関係について

基準地震動は、地下の特定の特性を有する岩盤で、上の土を取り除いた解放基盤面で観測される地震加速度(より詳しくは地震応答スペクトル)で定義され、原子炉建屋内の暗黙の地震加速度は、地下二階床面(基盤地震と定義)の振動周期0.02 secの値で、基準地震動と基盤地震の間には、地下深さや地質の相違により、基準地震動≒基盤地震動(浜岡原発)の場合も、基準地震動>基盤地震動(東海第二原発の解放基盤面は、地下370 mであるため、地震波は、吸収され、半分以下に減衰、地下150-200 mに解放基盤面のある柏崎刈羽原発も同様)の場合もあり、さらに、原子炉建屋内では、地震加速度(地震応答スペクトル)は、一階上がると20 %増加するため、四階床面では、二倍、屋上では四倍、ですから、浜岡原発では、基準地震動≒基盤地震動<三次元的各階地震動分布となります。

原子炉建屋内の地震動の表示における注意点について

地震が発生した場合、原発への影響の評価は、原発の重要な機器・配管が収められている原子炉建屋内の各階の地震加速度の基づき、暗黙の了解事項として、原子炉建屋地下二階の基盤地震動で表示され、たとえば、福島第一原発1号機の耐震安全性の検討において、東電資料(特定原子力施設監視・評価検討会 (第109回) 資料2-1 1号機 ペデスタルの状況を踏まえた今後の対応に関する 指示への対応状況について 2023年10月5日)では、基盤地震動として、Ss600(0.02secで600 gal.想定、原子炉頂部では、約二倍の1200 gal.)とその1.5倍のSs900(0.02 secで900 gal.想定、原子炉頂部では、約二倍の1800 gal.)を想定した耐震解析を実施し、原子炉格納容器内のコンクリート(コンクリートペデスタル下部高さ1 mが壁厚の半分の溶融損傷まで考慮)・機器・配管に発生する応力が、設計許容応力の30-40 % であり、Ss600とSs900でも、耐震安全に問題ないと結論しています。

森重晴雄さん(元三菱重工業エンジニア、耐震工学)が実施した福島第一原発1号機の簡易モデルでの耐震評価の欠陥について

私は、森重さんの経歴からして、最初、問題提起の内容を信じていましたが、私の安全論と耐震評価法から判断して、疑問をつのらせるようになり、森重さんは、複雑な原子炉格納容器内に対し、コンクリートペデスタル(損傷考慮)の上に原子炉が乗っている簡易モデルで、原子炉の倒壊問題を検討し、335 gal.で、原子炉倒壊と結論していますが、簡易モデルでは、正しい値は、算出できず、簡易モデルの条件からすると、335 gal.の位置は、コンクリートペデスタルの高さ方向の半分位置から原子炉の高さ方向の半分くらいをカバーする範囲の値であり、基盤地震動に直すと三分の一以下となるため、100 gal.と言う非常に小さな地震でも原子炉倒壊が発生すると主張していることになり、まったく、素人の問題提起のように解釈できますが、森重さんは、原子炉建屋内の地震加速度の三次元分布の意味を認識しているのか、疑問に思わざるをえません。

正しい計算モデルについて

簡易計算で正しく耐震評価することは、不可能であり、厳密計算するには、原子炉格納容器内のコンクリート構造物や機器・配管など、縦方向と横方向のすべての構造物に対し、有限要素法で三次元超詳細モデル化してから、計算しなければならず(私の推定では計算に約3000万円かかる)、簡易モデルでは、特に、横方向の支持構造物の影響が無視されてしまうため、非常に不安定な条件になり、倒壊しやすくなります。

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note本欄バックナンバー記事参照。




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