量子相撲
α関の体長は10^(-11)cm 。横綱の名にふさわしい堂々たる体躯だ。対するβ関は小兵ではあるが、粘り強い立ち会いで知られていた。二人は加速器の両端で睨み合う。
唸りをあげて加速器が作動する。これは筒の中の粒子を亜光速にて衝突させることで崩壊せしめ、本来分かちがたく結び付いている諸要素の分離を図る装置だ。瞬く間に中央で合間見えた両雄は、そこでがっぷり四つに組みあった。されどその肉体が四散することはない。彼らの体そのものが力士――陽子、中性子等と並ぶ物体の最小単位――なのだから。
そのまま二人は完全に『重なりあった』。刹那、言葉を持たない彼らの思いが交差する。「思いっきり来い」「応」分離ののち、急角度を描いて再び衝突の軌道へ。生まれては消える反物質、輝きながら飛び交う光子。ここには何一つとして不変のものはない。そのさなかで粒子の横綱は確かに……笑った!
【It's a "Sumou" world…! 】
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