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コンゴで何が起きているのか?紛争の被害と傾向を分かりやすく解析してみる

2025年2月現在、コンゴ民主共和国東部で武力紛争が激化しています。
この地域は30年近く内戦が続いていますが、今回はコンゴ民主共和国東部にある大都市「ゴマ」が武装勢力によって陥落したことで、国際的な注目と懸念が高まっています。

今回の紛争には、コンゴで活動する反政府武装勢力M23、およびそれを支援していると言われているルワンダ軍と、コンゴ政府軍とそれを支援する近隣諸国、地域機構、そして国連平和維持部隊など多様なアクターが関与しています。

日本でもメディアによる報道がされていたので、ご存じの方も多いかもしれません。一方で、コンゴで今起きていることに関する情報が限られており、戦闘の状況や被害も明らかでないことのほうが多いです。

そこで、今明らかになっている情報やデータを利用して、できる限り分かりやすく、今回の紛争の現状、傾向や被害状況を明らかにしてみたいと思います。

ゴマ陥落に至るまでの武装勢力M23の動向

M23関連の紛争による死者数の推移(2022‐2025)

グラフ:2022年1月から2025年2月までの武装勢力M23に関する紛争の死者数。
ACLED (Armed Conflict Location and Event Data)より筆者作成

まずは、今回の紛争の主要なアクターである反政府武装勢力M23による紛争の傾向を見てみます。M23が結成されたのは2012年であり、一旦勢力を失ったものの、2022年以降再び活発化しています

グラフは2022年1月から2025年2月までのM23が関与した紛争による死者数の推移です。厳密にはM23が少なくとも交戦主体の紛争において、巻き込まれた死者の数を示してます。データはサセックス大学のClionadh Raleigh教授を中心とする研究チームであるACLED(https://acleddata.com/about-acled/our-team/)に依拠しています。

実はM23が武装勢力ゴマに攻勢をかけたのは今回が初めてではありません。実際、2012年には短期間ながら一度ゴマ市を占領しています。また、2022年以降もゴマ市に接近し、特に2022年11月から12月にかけてはゴマ市北部の10数キロまで迫り、緊張が高まりました。同じ時期に死者数が上昇しているのがわかります。

また、2025年1月のゴマ攻撃だけで800件以上の死亡が確認されていることから、短期間で多くの犠牲者が出ていることがわかります。混乱する情勢のなかで明らかになっていない点も多く、今後も調査や遺体の発見により死者の数は増えていくと予想されます。

こちらについてはベルギーの研究グループであるIPISが詳細かつわかりやすいデータを公開しています。https://ipisresearch.be/publication/shifting-frontlines-visualizing-the-evolution-of-the-m23s-territorial-influence-in-early-2024/


ルワンダ側から見たゴマ市の景観。2022年12月22日筆者撮影。
ゴマ市に実際に入国はしていない。2025年2月現在、筆者がこの写真を撮影したルワンダのギセニ市に対しても、日本大使館は立ち入りを控えるよう警告している。

M23関連の紛争の地理的な傾向

図1:2022年から2025年までのM23が関与した紛争地点のプロット。ACLEDおよびHumanitarian Data Indexに基づき、Pythonを使用して筆者作成。

こちらはグラフと同じデータを使用して、2022年から2025年までに紛争の地点ごとの移り変わりを可視化したものです。ここから、2022年には東側(=ルワンダ国境近く)で活発化していたM23が、2023、24年にかけて西側に移動していることが分かります。そして2025年以降、ゴマ市に接近していることがデータから窺えます。

図2:2024年1月から2025年1月にかけての紛争件数をヒートマップで可視化。ACLEDを基に、QGISを用いて筆者作成。

より直近の傾向を見てみます。上の図2はQGISというソフトを使用して、2024年から2025年までのM23関連戦闘件数の多さを可視化したものです。赤色が濃いほど最新の戦闘であることを示しています。

ここから、M23はゴマに隣接するサケ(Sake)の北方から南下し、サケ周辺で大規模な戦闘が行われたように見えます。

ゴマ市街戦による被害状況の可視化

図3:2025年のゴマ市で行われたM23関連の紛争の死者数をヒートマップで可視化したもの。ACLEDを基にQGISを使用して筆者作成

より細かく、ゴマにおける戦闘で生じた被害を見てみます。図3はM23関連の戦闘で生じた死者の数です。図から、市街西端、および東側のゴマ国際空港周辺で大勢の死者が出ていることが分かります。

さいごに

今回の簡単な分析でも、メディアの報道通り、紛争で大規模な被害が出ていることが分かりました。まだまだ情勢は混乱しており、調査が進むにつれて今回使用したデータの精度も高まり、変わっていくはずです。

今回の紛争はルワンダでの留学を経験した私によってはとてもショックなことでした。コンゴ人の学生やゴマ出身の友人もいるなかで、彼らが今をどのように過ごしているのか不安に感じます。日本にいる自分に出来ることはないかと思い、今回の記事公開に至りました。

データや分析方法に関するご質問やアドバイス、記事に関するコメントがあればコメント、ご助言いただけると嬉しいです!読んで頂きありがとうございました。

補足

コンゴ紛争に関する日本語記事

ルワンダが用いるイスラエルの論理:コンゴ民主共和国東部の混乱 | アゴラ 言論プラットフォーム
その他、日本の非営利団体Rita Congoはコンゴ紛争に関する詳細な調査報告、情報を発信しています。

コンゴ紛争、M23に関するレポート等:
今回のコンゴ紛争の背景やM23の歴史に関する情報はこちらのレポートがわかりやすいです。From CNDP to M23”, Rift Valley Institute, 2018. 
英文かつ長いレポートなので私は苦労しましたが、M23の結成に至る情報が詳細に公開されていたので、とても勉強になりました。



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