桜恋 #1
主な人物
長谷川香奈(17) 高校3年生
友坂楓(26) 教師
浅野花音(17) 香奈の友人
山岡史都(17) 香奈の友人
長谷川文子(47) 香奈の母親
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〇城山高校・校門前(朝)
制服を着た学生たちが登校している。
校門前で教師が生徒たちに挨拶をしている。
校門の入口には桜が満開に咲いている。
〇同・屋上(朝)
長谷川香奈(17)が屋上から校門の方を真顔で
眺めている。
下を歩いている女子学生が、
女子生徒A「おはよう! 春休み、マジ短いんだけど。何してたー?」
女子生徒B「東京、行ってきたー」
女子生徒A「いいなー」
と、校舎に入って行く。
香奈、視線を空に向け、目を閉じる。
風が吹き、香奈の髪がなびく。
香奈は振り向き、向かい側にあるベンチを
しばらく眺める。
そして、出口に向かって歩き出す。
〇同・3年C組教室・中
30人ほどの生徒が自由に話している。
香奈が教室に入ってきて、窓側の一番後ろの
席に座る。
そこに山岡史都(17)がやってきて、
史都「香奈、今年は同じクラスだな」
香奈、そっけなく、
香奈「そうだね……」
史都「今年は受験だし……あれだったら、勉強教えてやるよ!」
香奈、史都の顔を見上げて、
香奈「……」
そこに教頭と友坂楓(26)が教室に入って
くる。
教頭「ほら、席に着きなさい!」
生徒たちが席に座り、教頭を見る。
楓、教頭の横に立ち、下を見ている。
教頭「本来、このクラスの担任には木本さくら先生がなる予定でしたが、ご家族のご病気で、急遽休職されることになりました」
がやがやする生徒たち。
前の席に座っている浅野花音(17)が
香奈の方に振り返り、
花音「香奈、知ってた?」
香奈、窓から校庭を眺めながら、
香奈「……うん」
花音「そうっか。
さくら先生と仲良かったのにねー、香奈」
香奈、頬杖をついて、外を眺める。
教頭「そして、今日からこのクラスの担任になっていただく、友坂楓先生です……じゃ、友坂先生、あとよろしく」
教頭、教室から出ていく。
楓、教壇に上がり、黒板に名前を書く。
楓「……友坂楓です。よろしくお願いします」
楓に注目する生徒たち。
男子生徒A「先生、若いね! 何歳?」
楓「そういうことは、ちょっと言えないんで」
女子生徒C「んー、25歳ぐらい? 27?」
楓、慌てて生徒名簿を開き、
楓「はい! 出席をとります。赤羽剛!」
と、出席確認を始める。
香奈が真顔で楓を見る。
ボサついた髪、ラフな服装の楓。
香奈、頬杖をついて、空を見る。
〇同・体育館(夕)
屋内の部活動が体育館で練習をしている。
バレーのネット前に楓と男性教師が立ち、
20名ほどの部員が二人を囲んでいる。
香奈が一番後ろから二人を見ている。
男性教師「ということで、木本先生の代わりに友坂先生が女子バレーの顧問になりましたので、みんなよろしく。部長は? おい! 長谷川!」
香奈、真顔で後ろから男性教師の前に出る。
男性教師、香奈を差して、
男性教師「友坂先生、部長の長谷川香奈です」
楓を見る香奈。
楓「……よろしくお願いします」
香奈「よろしくお願いします」
男性教師「とりあえず今日は、いつもの練習メニューやって。じゃ、僕はこれで」
男性教師が、男子バレー部の方に向かう。
香奈、楓に向かって、
香奈「じゃ、練習始めます」
楓「は、はい! お願いします」
香奈「じゃ、ランニングから!」
部員一同「はい!」
コートの周りを走る部員たち。
トス練習をする部員たち。
コート横のパイプ椅子で、メモを取りながら
部員たちを見ている楓。
横目で楓を見る香奈。
試合形式で練習をする部員たち。
香奈「集合!」
楓の周りに集まる部員たち。
楓、部員たちの顔を見渡し、
メモを見ながら、
楓「えっと……木本先生から引き継ぎで、再来週、栄明高校と練習試合があります」
ざわつく部員たち。
楓「木本先生も、今回は勝てるとおっしゃってましたので、頑張ってください」
部員一同「はい!」
楓「で、では、今日はこれで終わります」
部員一同「ありがとうございました!」
と、楓に頭を下げる一同。
解散する部員たち。
体育館から出ていく楓。
女子部員A「友坂先生、なんかかわいいね!」
女子部員B「ね! なんか天然っぽいよね」
楓の後ろ姿を真顔で見ている香奈。
〇香奈の家・外観(夜)
古い平屋の一戸建て。
自転車に乗った香奈がやってきて、
家の中に入って行く。
〇同・居間(夜)
居間でテレビを見ながら、
ビールを飲んでいる長谷川文子(47)。
香奈の声「ただいま」
文子、玄関の方に向かって、
文子「おかえりー」
香奈が居間に入ってくる。文子を見て、
香奈「お母さん! また飲んでるの?」
文子「そう! 今日仕事休みだからねー」
香奈「もう、それで終わりにしてよ」
文子「はーい!」
香奈、テーブルに置かれた空き缶を持って
台所に向かう。
〇同・台所(夜)
香奈が流し台にやってくる。
シンクには、空き缶と食べ終わった皿などが
乱雑に置かれている。
香奈、それをじっと眺める。
そして、冷蔵庫横のエプロンを取り、
身に着け、片づけを始める。
居間で文子が大声で笑っているのが
聞こえる。
香奈、黙々と皿を洗う。
〇城山高校・屋上
ベンチに横になり、空を眺める香奈。
横には菓子パンの入ったビニール袋が
置かれている。
雲が流れる空。
香奈「……先生、なんで居なくなっちゃったの?」
香奈の目から涙がこぼれる。
屋上の入口から弁当を抱えて、
不安そうに香奈を見ている花音。
そこに、史都が走ってやってきて、
史都「おう! 香奈いる?」
花音「いるけど、今はやめた方がいいかも」
史都「え? なんで?」
花音「さくら先生がいなくなって、ちょっとへこんでるから」
史都「なんで木本がいなくなって、香奈がへこむんだよ?」
花音「なんか、いろいろ相談してたみたい。家のこととか、将来とか」
花音、階段を降り始める。
そして、振り向き、
花音「だから、山岡! 今じゃない」
花音、史都を睨む。
史都、慌てて、
史都「はぁー? 何が? 別にー」
と、階段をダッシュで降りていく。
〇同・職員室(夕)
デスクでバレーのルール本を読んでいる楓。
そこに香奈がやってくる。
香奈「先生、今日はどうしますか?」
楓、香奈を見上げて、
楓「え? 何を?」
香奈「練習です」
楓「あ! とりあえず昨日と同じで」
香奈「分かりました」
楓「よろしく」
香奈、ルール本を見る。
香奈「……」
楓「?」
香奈「先生、一ついいですか?」
楓「はい?」
香奈「もうちょっと、ちゃんとしてもらえますか? っていうか、経験あるんですか? バレーの」
楓、ビクッとして、
楓「……ない……です」
香奈が怖い顔で楓を見る。
肩をすくめる楓。
香奈「じゃ、せめてちゃんとしてください」
楓「ちゃんとって?」
香奈「先生らしくしてください!」
と、香奈が足早に職員室から出ていく。
楓「らしく……?」
と、首をかしげる。
〇同・体育館(夕)
バレー部の練習を見ている楓。
声を出して、真剣にプレーをする香奈。
楓、香奈を見つめる。
つづく
※photo by Pexels
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