桜恋 #11完
主な人物
長谷川香奈(17) 高校3年生
友坂楓(26) 香奈の元担任
浅野花音(17) 香奈の友人
山岡史都(17) 香奈の友人
木本さくら(26) 香奈の担任
高岡茂雄(69) 香奈の祖父
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○城山高校・屋上
香奈がベンチに仰向けで寝転び、手紙
を空に掲げて、眺めている。
封筒の宛名には、『友坂先生へ』と
だけ書いてある。
空は曇天。葉がほとんどなくなった
木から枯れ葉が一枚落ちる。
〇同・3年C組教室・中
生徒たちが着席して、教壇に立つ楓を
見ている。
楓「今日で皆さんとはお別れになりますが、皆さんが無事卒業することを祈っています。本当にありがとうございました」
と、深く頭を下げる楓。
チャイムが鳴る。
楓「じゃ、みんな元気で」
楓が教壇から降り、教室を出ていく。
生徒たちががやがやと帰りだす。
香奈、立ち上がり、楓を追いかける。
手には、手紙を持っている。
○同・廊下
帰りだす生徒たちの中に去っていく楓
の背中が見える。
走り出す香奈。
香奈「先生っ!」
楓、振り返る。
香奈、目を潤ませている。
香奈「先生! 先生、あたし……」
楓、香奈に近づき、
楓「長谷川……いろいろありがとう」
泣きそうになる香奈。
手紙を持っている手が震えている。
楓が香奈の頭に手をのせて、
楓「あきらめるなよ……自分探し」
香奈、下を向いている。
楓「じゃ、元気で」
と、去っていく楓。
楓の背中を見つめる香奈。
涙がこぼれる。
○香奈の家・外観
家の前に引っ越し業者の軽トラが
止まっている。
○同・居間
香奈が段ボールに荷物を詰めている。
キッチンの方から花音が皿を持ちながら
やってきて、
花音「ねぇ、香奈。あそこの横にあるやつも詰めるの?」
香奈「あぁー、あれは処分のやつ。棚の中のやつだけ、お願い」
花音「了解―」
と、キッチンに戻っていく。
すると、庭から軍手をはめた史都が
やってきて、
史都「香奈、外のやつはどうする?」
香奈、庭先に駆け寄って、
香奈「あぁー、それは処分するから、ビニールに入れといて」
史都「オッケー」
と、作業し始める。
茂雄の声「あぁー‼」
振り返る香奈。
茂雄の持った段ボールの底が抜け、
本が床に散らばる。
香奈「おじいちゃん! 腰悪いんだから、いいよ!」
と、段ボールを受け取る香奈。
茂雄「まだ力はあるっ! 年寄り扱いするな!」
と、本を集める茂雄。
笑う香奈。
○同・外観(夕)
引っ越し業者の軽トラックが荷物を
載せて出ていく。
庭からそれを見ている香奈、花音、
史都と茂雄。
○同・庭(夕)
香奈の家を見上げる4人。
香奈「終わったー!」
花音「そう言えば、香奈。調理士学校、行くの?」
香奈「うん」
史都「なんで調理士学校?」
香奈「今はそれに興味あるから? おじいちゃんのお店も繁盛させたいし。ねぇー、おじいちゃん!」
茂雄「香奈が継いでくれるなら、安心して引退できるな?」
と、笑う一同。
○城山高校・外観
青い空。桜が満開に咲いている。
○同・屋上
香奈がベンチに寝転んで、空を眺めて
いる。手には卒業証明書が入った筒を
抱えている。
木本さくら(27)がやってきて、
さくら「香奈! 何やってるの? みんな下に集まってるよ!」
香奈、起き上がり、さくらを見て、
香奈「先生、あたしちゃんと卒業できた」
香奈の横に座るさくら。
さくら「いろいろ大変だったね」
香奈「うん。でも、支えてくれた人がいたから卒業できた」
さくら、香奈の顔を見て、
さくら「……好きな人?」
香奈、にこっと笑って、
香奈「でも、もうどこにいるか、分かんない」
と立ち上がる。
さくら「運命なら、また会えるんじゃない?」
香奈、さくらの方を見て、
香奈「そうかな……また、会えるかな?」
さくら、立ち上がり、
さくら「会えるよ、いつか」
笑顔で桜を眺める二人。
○喫茶サボテン・外観
○同・香奈の部屋
テーブルの上に登山の雑誌。
部屋の片隅に登山グッズが置いてある。
○登山道
緑が生い茂る登山道を歩いている
楓の背中が見える。
完
※photo by naomono さん
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