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地方財政あるある#21.借金しがち(臨時財政対策債1)

-お弁当ですか。めずらしいですね。

そうやねぇ。なんとなく出前で弁当をたのんでみようと思ってん。

-中華ですか?

そう。付け合わせが美味いわ。

-いいっすね。

ところで、今日は臨財債の話やったやんね。

-はい、お願いします。

◆まずは地方交付税の復習から

臨財債は何の略だったか覚えてる?

臨時財政対策債、でしたっけ?

そう。地方債の一種。これがまたややこしいねん。地方交付税の財源不足対策として編み出された技やねんけどな。

-はい。

せやから、うーん、どこから話したらええかなぁ。まずは、地方交付税の趣旨を再確認するところからかなぁ。もう一回確認するけど、地方交付税の趣旨は何やった?

-財政調整機能、でしたよね。

そう。もう少し細かく言うと? 2つあったと思うけど。

-えーっと、1つは、地方自治体の財政力格差を解消する「財源調整機能」で、あとは、、、すみません、思い出せないです。

いやいや、謝らんでええよ。もう1つは、各自治体が一定水準の行政サービスを提供するために必要な財源を国が保障する「財源保障機能」。

-そうでした。だから、地方交付税は一般財源という話でした。

そうそう。臨財債を理解する上で大事なのは、地方交付税の2つめの機能「財源保障機能」やねんな。

◆地方交付税の財源が足りなかったらどうする?

で、国が地方交付税を各自治体に配分するわけやけど、当然、国の財源も有限やんな。地方交付税の財源が何かって話、前にチラッと言ったと思うんやけど、覚えてる?

-あー。記憶にないです。。。

細かい話やから、覚えてなくてもかまへんよ。地方交付税の財源は所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税の一定割合と、地方法人税の全額やね。ちなみに、その割合のことを法定率とか地方交付税率とか言ったりすんねんけど、その率も法律で決まってる。

-はい。

ポイントは国の財源が有限やっちゅうこと。で、限りある財源を各自治体に配分して終わり、ってだけなら話は早いんやけど、そうはいかへんねんな。なんでやと思う?

-えーと、地方交付税に「財源保障機能」があるからですか?

その通り。国が各自治体の財源を保障するという地方交付税の趣旨があるから、配分する財源が不足する場合が出てくんねんな。で、そうなったら、自分やったらどうする?

-そうですね。法定率をあげるとか、ですかね。

せやね。実際、法定率は基本的には上昇傾向にあるし。でも、法定率を自由に上げられるかって言うと、それはなかなか難しい話で。意味分かる?

-はっきりとは分かりませんが、なんとなく難しそうという気はします。

地方交付税を配分するのは総務省やけど、総務省が法定率を上げようとするってことは、総務省の予算を財務省に認めてもらわんとあかんしな。国家財政も厳しいし、財務省の査定がそう簡単に通るわけもなく。じゃあ、どうするかって話で。

-どうするんですか?

総務省は「足りない分を自治体に借りてもらう」という荒技を考えた。

-え?

「地方交付税として配りたいけど、財源が足りないから、その分は自分の自治体で借金して~」って言うて。

-なんかスゴい話ですね。

そうやろ?

◆交付税措置率100%!

でも、「借金してね~」って言われて、素直に借金せんわな。

-そうですよね。

で、総務省は何を考えたか。

-???

「その借金を返す分、つまり元利償還金分は、交付税措置します!」ってことを思い付いた。

-え?

「元利償還金分は全額、交付税バックします!」って。

-なるほど! スゴいこと考えますね。後で借金返済分は交付税で措置するから、現に今足りない分は借金するように、ってことですよね。

そう。その通り。こうして地方公共団体に起債させる地方債が臨時財政対策債。略して臨財債。やっとたどり着いた。

-なかなかスゴい話ですね。

せやな。っちゅうわけで、地方交付税の話から地方債の話につながるわけやな。で、起債する上で重要な視点の1つに「元利償還金の交付税措置率」ってのがあるんやけど、要は、借金返済分の一部を交付税バックするという仕組みがあるという話。前にめちゃめちゃサラッと触れたんやけど覚えてる?

-交付税バックの話は、たしか、実質公債費比率とかで出てきたんでしたっけ?

覚えてるね~。そう。実質公債費比率を算定するときは交付税バック分は分子(つまり「公債費」)からは除くよって話。あと、将来負担比率を算定するときも、交付税バック分は分子(つまり「将来負担」)から除くよって話で、登場したやつな。今は脇道の話やけど。

で、その借金返済分の何パーセントが交付税バックされるかっていうのが交付税措置率。当然、これも法律とかで決まってるんやけど、今の文脈で言うと、臨財債は交付税措置率は何%?

-100%ですか?

正解。交付税措置率100%の地方債。めちゃくちゃトリッキーやねんな。

-でも、なんか怪しくないですか。

と言うと?

-「今はお金がないけど、将来はお金を出すよ」って、めっちゃ怪しいじゃないですか。

うん。実に怪しい。なので、臨財債はその制度自体、疑問視されてる部分もあって、まあ賛否両論やな。

-先輩はどう思われるんですか?

正直、分からん。

-と、仰いますと?

「地方交付税として手に入るべきだったお金なので、借りた分が交付税措置される以上は借りておくべき」というのが基本的な考え方ではあるとは思うんやけどな。

-まあ、そうですね。

でも、それって結局、今の負担を後年度に送っている話やし、やっぱりあまりスジがいい話ではないかな。

-スジが悪い、ですか。

うん。地方債の機能、覚えてるか?

-はい。年度間調整世代間公平でしたよね。

そう。

そこまで覚えてるなら、スジが悪いというのも分からへん? 世代間公平の観点から。

-公共施設とか、将来世代も受益があるものについてはその負担を将来世代も負担しようという考え方でしたよね。たしかに、臨財債って、そういう性質ではないですよね。

そうやねん。地方債は金欠でするもんじゃないって言ったけど、臨財債はある意味で金欠やから借金するみたいなところがあんねんな

あと、国が交付税措置してくれるって言うけど、穿った見方をすれば、そんな保障はどこにもないとも言えるというの問題。

-たしかに。でも、それを言ってしまったらおしまいじゃないですか。

そやね。今言った理由から、臨財債での借り入れは抑制するという自治体もあるにはある。けど、やっぱり基本的には可能な限り借り入れしている自治体が主流じゃないかな。「国を当てにするのはいかがなものか」という反論もあるかもしれんけど、「国の財政も地方の財政と表裏一体みたいなところがあるから、国がやばくなった時点で既に地方財政もやばいわけやから、そんなこと気にするな!」って。

-まあ、それはそうですけど・・・。

あと、交付税措置率が高い起債を、条件がいい起債という意味で「有利な起債」って言ったりすんねんけど、臨財債はそういう意味で「超有利な起債」。

-そうですね。

せやけど、ここでミクロとマクロの話を思い出してほしいんよな。交付税措置で返ってくるお金っていうのはミクロ?マクロ?

-個々の自治体目線なので、ミクロですね。

そう。で、国家予算から見た地方交付税をマクロと言うって話は前にしたところやんね。で、重要なのはミクロの金額を積み上げてマクロの金額を求めるということではない、ってところ。あくまでマクロの金額を各自治体に配分する、その金額の計算がミクロ。

-はい。それが今の話にどう関係してくるんですか?

交付税バック分もミクロ、でもミクロの積み上げがマクロではない。ってことは、各自治体が有利な起債をバンバン借り入れるってことは、将来に国から配分される地方交付税を”奪い合っている”ということになるの分かる?

-たしかに。

そもそもそれって、”正常な”ことなんやろうかという気もしないでもない。

-たしかに。

と、まあ、いろいろ理屈を並べてきたけど、現実問題、臨財債を借り入れしないとやっていけない自治体も少なくないんとちゃうかな。統計とかで確認したわけじゃないけど。

-う~ん。

う~ん、って感じやんな。そういうもんやと思うわ。以上が臨財債の話のさわりの部分。

-まだ続きがあるんですか!?

全然ある。臨財債の話はマリアナ海峡並みに深いねん。

-そ、そうなんですね。

あ、もう昼休み終わるやん。はよ食べな。あー、ザーサイうまっ! これがホントの“りんざーさい”っちゅうてな。

-・・・。

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【2021.9.26 訂正】

公開時、臨財債は「借りないと損」という記述をしていましたが、これは誤った理解でした。臨財債の元利償還金の交付税措置は、借り入れた分に対してではなく、借入可能額に対して措置されるものでした。お詫びして、訂正いたします。

(参考)訂正前=誤った内容を含む箇所

-先輩はどう思われるんですか?
正直、分からん。短期的に見ると「借りないと損」って思うし。
-借りないと損?
そう。10億借りたら、後で10億手元に入ってくるし。要はプラスマイナスゼロで10億使える。でも、借りなかったら、使えるはずの10億は手に入らないままっちゅうことになるしな。
-たしかにそうですね。


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