地方財政あるある#17.貯金も悪と思われがち(基金)
前は地方債、つまり借金の話。じゃあ次は?
-貯金ですよね。
-あれ? 先輩、いつもと入りが違いますけど。僕から声掛けるのがお決まりじゃなかったんですか?
たまにはええやん。
-いや、いいんですけど。
というわけで、貯金、すなわち基金の話するで。
◆そもそもなぜ貯金するのか?(基金の目的)
例によって、地方自治法の条文から。眺める程度でええけど。
(基金)
第二百四十一条 普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、特定の目的のために財産を維持し、資金を積み立て、又は定額の資金を運用するための基金を設けることができる。
2 基金は、これを前項の条例で定める特定の目的に応じ、及び確実かつ効率的に運用しなければならない。
3 第一項の規定により特定の目的のために財産を取得し、又は資金を積み立てるための基金を設けた場合においては、当該目的のためでなければこれを処分することができない。
4 基金の運用から生ずる収益及び基金の管理に要する経費は、それぞれ毎会計年度の歳入歳出予算に計上しなければならない。
5 第一項の規定により特定の目的のために定額の資金を運用するための基金を設けた場合においては、普通地方公共団体の長は、毎会計年度、その運用の状況を示す書類を作成し、これを監査委員の審査に付し、その意見を付けて、第二百三十三条第五項の書類と併せて議会に提出しなければならない。
6 前項の規定による意見の決定は、監査委員の合議によるものとする。
7 基金の管理については、基金に属する財産の種類に応じ、収入若しくは支出の手続、歳計現金の出納若しくは保管、公有財産若しくは物品の管理若しくは処分又は債権の管理の例による。
8 第二項から前項までに定めるもののほか、基金の管理及び処分に関し必要な事項は、条例でこれを定めなければならない。
とりあえず今は、地方自治法に条文があるということ、基金は条例の定めによってつくられ、その条例(いわゆる基金条例)に目的や使途が定められているというぐらいの理解でいったんOKかな。
-わかりました。
で、そもそも自治体がなんで基金と言う名の貯金をすると思う?
-それは、なんかあったときの備えじゃないんですか?
広く言えば正解。厳密に言えば不正解。
-と、仰いますと?
さっきの条文では「特定の目的のために」ってあるから、「なんかあったときの備え」が「特定の目的」と言えるかどうか微妙やってことやな。総務省のホームページを見ても、自治体の基金は大きく3つに分類できると説明されてるけど、「なんかあったときの備え」という位置づけはしてないっぽいし。
①財政調整基金:地方公共団体における年度間の財源の不均衡を調整するための基金。
②減債基金:地方債の償還を計画的に行うための資金を積み立てる目的で設けられる基金。
③その他特定目的基金:①②以外の基金。特定の目的のために財産を維持し、資金を積み立てるために設置される基金。(例:庁舎等の建設のための基金、社会福祉の充実のための基金、災害対策基金等)
ただ、財調については処分できる場合として、地方財政法4条の4に書かれているような規定が条例で定められている場合がほとんどやし、実質的に「なんかあったときの備え」と言ってもほぼ差し支えないかな。
(積立金の処分)
第四条の四 積立金は、次の各号の一に掲げる場合に限り、これを処分することができる。
一 経済事情の著しい変動等により財源が著しく不足する場合において当該不足額をうめるための財源に充てるとき。
二 災害により生じた経費の財源又は災害により生じた減収をうめるための財源に充てるとき。
三 緊急に実施することが必要となつた大規模な土木その他の建設事業の経費その他必要やむを得ない理由により生じた経費の財源に充てるとき。
四 長期にわたる財源の育成のためにする財産の取得等のための経費の財源に充てるとき。
五 償還期限を繰り上げて行なう地方債の償還の財源に充てるとき。
-分かりました。財調って、財政調整基金のことですよね。
そう。略してそう言われることが多いねん。
◆基金の積立てはいいことなのか、悪いことなのか?
ところで、地方財政法で、最低でも実質収支の半分は積み立てなあかんって規定されてんねん。
(剰余金)
第七条 地方公共団体は、各会計年度において歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合においては、当該剰余金のうち二分の一を下らない金額は、これを剰余金を生じた翌翌年度までに、積み立て、又は償還期限を繰り上げて行なう地方債の償還の財源に充てなければならない。
積み立てなくても、地方債の繰上償還に充ててもいいってなってるけど、いったんその話は置いとくとして。で、剰余金の半分以上を積み立てることは可能で、実際そうしている自治体も少なくないみたいなんやけど、それはいいことなのかどうなのか。そこら辺、直感でもええし、どう思う?
-貯金は多ければ多いにこしたことはないと思うのですが。
ちっちっち。
-違うんですか?
ちっちっち。チッチキチー。
-言いたいだけですよね?
・・・。
-・・・。
えー、貯金は多ければ多いにこしたことはないし財政的には安心できるけど、行政としてそれでええのかというと? この議論、どこかでしてなかった?
-あ!
思い出した?
-「実質収支の黒字は大きければ大きい方がいいのか」の話ですよね?
ご名答!
自治体は利益の追求が目的じゃないから、実質収支、つまり剰余金が大きすぎるのであれば、もっと行政サービスの向上にお金を使うか、住民の負担を軽減させるかすべきという判断になるという話。基金も同じことやね。
-基金に積み立てるぐらいなら市民サービスにお金を回すべきとも言える、ということですね。
そのとおり。実際、基金の積み立て過ぎというメディアの論調も見かけるし。
さらに言うと、国レベルでも地方自治を所管する総務省は基金はできるだけ使ってほしいと思ってんねんな。なんでか分かる?
-・・・。全然分からないです。
せやんな。総務省は地方自治体にお金を少しでも多く回したいと思ってくれているはずで、国全体の予算から地方自治体に回すお金を引っ張りたいと思ってる。でも、その地方自治体が貯金を貯めこんでいたとしたら?
-総務省もやる気がなくなりますよね。
うん、まあそうかな。それ以上に、財務省が「地方自治体が貯金を貯めこんでいるんだったら、別に地方自治体にお金を回さなくてもよいよね!」と言って、総務省予算の確保が難しくなるという側面があんねんな。だから、総務省としては、基金はできるだけ使ってほしいと思っているはず。
-なるほど。
ただ、感覚やけど、最近はちょっと風向きが変わったような気もすんねんな。
-と、仰いますと?
コロナやね。コロナ対策で財政調整基金が底をつきそうっていう自治体に関する報道がちらほら出てきてるし、財政調整基金があったからこそできたコロナ対策も数多くあるという事実があって。要は、財政調整基金を一定貯め込んでおいたことに意味があったんだ!という認識ができてきてると思うねん。そうなると、無下に「財調使え!」とは言えなくなるわな。
-なるほど。確かにそうですね。
◆基金残高は円グラフからは分からない
そうなると、基金はいったいどれぐらい積み立てておけばいいのかって話になるわな。どう思う?
-いやあ、見当もつかないです。
せやんなぁ。正直、これも答えがない世界やな。少なすぎると不安、多すぎると使えと言われる、どうしたらええねんって感じやな。まぁ、一般論としては財調は標準財政規模の10%~20%が適正とか言われてるけど、あくまで経験則の話で、学問的な根拠は特にないみたいやわ。
-そうなんですね。そういえば、前に「どれだけ貯金を取りくずしても大丈夫かという問いに対して明確な答えはない」って仰ってましたよね。
そやったっけ?
-はい。「とりあえず円グラフにしがち」の話のときに。
-「じゃあ、どれぐらいまでなら借金しても大丈夫か、どれぐらいなら貯金を取りくずしても大丈夫なのか、その問いに対してバチっと答えるのは相当難しい。でも、今どれぐらいの借金があるのか、今どれぐらい基金があるのか、そこと予算額を比べると感じるところはあるかもしれへんな。予算上、基金のとりくずしを5億円としていても、基金が20億あるところと6億しかないところではインパクトが違う。」って言ってます。
ほんまやねぇ。
-で、「ただ、今どれぐらいの借金があるのか、今どれぐらい基金があるのか、これは円グラフでは分からへんねんな、これが。家計簿を見ても、今、どれぐらいローンが残っていて、どれぐらい貯金があるのかが分からんのと同じ理屈。」とも仰ってました。
ほんまやねぇ。じゃあ、どこ見たら今どれぐらいの借金があるのか、今どれぐらい基金があるのか、もう分かるやんな?
-決算カードですか?
正解!
基金に関しては、そんなところかな。
-ありがとうございます。
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