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地方財政あるある#16.借金が悪と思われがち(地方債)

あ。小銭ないやん。コーヒー買えへんやん。

-あ、先輩。お疲れさまです。

ちょうどよかった。ちょっと小銭、貸してくれへん?

-どうしたんですか?

缶コーヒー買おうと思ったら、ちょうど小銭がなくって。

-あ、いいですよ。

ありがとう。助かるわ。施されたら施し返すし、ちゃんと。

-まさかの大和田常務。施したわけではないですけど。

せやな。

-ところで、この前の話の続きをお伺いしたいのですが、明日のお昼は大丈夫ですか?

ええよ。じゃ、例によってマクドで。

◆お金を借りるの理由は「金欠」にあらず?

(翌日、マクドナルドにて)

-お疲れさまです。

おう。今日はオレが持つわ。昨日の借りの返しな。

-い、いいんですか!?

施し返しや。

-ありがとうございます! お言葉に甘えて。

で、オレの借金を返済したところで、地方債の話やったね。まずは問いかけから。なんで自治体は借金すると思う?

-えっ? それは、お金が足りないからじゃないんですか?

そう思うよな。ここが地方債を理解するポイントで、「金欠だから借金する」と思ってしまうと、おかしなことになるんよね。

◆そもそもなぜお金を借りるのか?(地方債の機能)

そもそもなぜ自治体がお金を借りるのか。とりもなおさず、地方債の機能とは何ぞやという話やね。いろいろあるけど、まずは大きく2つの基本を抑えましょう、と。

-はい。

まず1つ目は「年度間調整」。まあ言ってみれば財政負担の平準化ってやつやね。公共施設の建設とか災害復旧とか、一時に多額のお金が必要な場合に調達するという意味合いやね。で、その費用はその年度だけで賄うというのも無理があるので借り入れをして、後年度に少しずつ返済するという形で負担を平準化するっちゅうことやね。

-なるほど。

広い意味では「お金がないから」やけど、いわゆる「金欠」とはニュアンスは違うよな。住宅ローンみたいな。なんとなく分かってくれる?

-はい。なんとなく分かります。

OK。次、2つ目は「世代間公平」。たとえば学校の建替費用が20億円かかるとして、その20億円をその年度の歳入とか基金で賄ったとしたら受益者と負担者がズレてしまうっていうことは理解できる?

-えー、ちょっとよく分からないです。

この場合、20億円を負担したのは誰?

-税金を納められた方々でしょうか。

ざっくり言うとそのとおりやね。負担の形は納税だけはないから100%完璧な回答じゃないけど、いったんその理解でええで。ポイントは過去から現在の世代が負担したというところやね。一方で、建替後の学校を使うのは誰?

-これからの住民さんですよね。

そう。将来世代の住民。これで分かったやんな。受益者は将来世代の住民、負担者は過去から現在世代の住民。ここにズレができるわけや。そこで地方債の出番やねんな。学校の建替費用を借り入れして、今後に少しずつ償還、つまり返済していくことで、負担を将来世代の住民に移すというわけやな。

-なるほど~。

◆限られた場合にしかお金は借りられない

というわけで、単に金欠だから借金するという理解は違うという話をしてきたわけやけど、なんでそんなことを言えるかというと、法律上、限られた場合にしかお金は借りられへんと規定されてるからやねんな。財政課ではあまりにも有名な地方財政法5条

(地方債の制限)
第五条 地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもつて、その財源としなければならない。ただし、次に掲げる場合においては、地方債をもつてその財源とすることができる。
一 交通事業、ガス事業、水道事業その他地方公共団体の行う企業(以下「公営企業」という。)に要する経費の財源とする場合
二 出資金及び貸付金の財源とする場合(出資又は貸付けを目的として土地又は物件を買収するために要する経費の財源とする場合を含む。)
三 地方債の借換えのために要する経費の財源とする場合
四 災害応急事業費、災害復旧事業費及び災害救助事業費の財源とする場合
五 学校その他の文教施設、保育所その他の厚生施設、消防施設、道路、河川、港湾その他の土木施設等の公共施設又は公用施設の建設事業費(公共的団体又は国若しくは地方公共団体が出資している法人で政令で定めるものが設置する公共施設の建設事業に係る負担又は助成に要する経費を含む。)及び公共用若しくは公用に供する土地又はその代替地としてあらかじめ取得する土地の購入費(当該土地に関する所有権以外の権利を取得するために要する経費を含む。)の財源とする場合

要は「原則は借金はダメ。但し、公共事業とか災害対応の場合はOK」って書いてある。これ以外にも例外的に借り入れができる場合があるんやけど、今は話がややこしくなるから、やめとくな。

◆改めて、実質公債費比率や将来負担比率は低ければ低い方がよいのか問題

で、ここまで話をして本題。はたして実質公債費比率とか将来負担比率は低ければ低い方がええのか、と。

-あ、忘れてました。

前に財政指標の話をしたときに問題提起したやつやね。

で、どう思う?

-やっぱり率は低い方がいいように思うのですが。借金返しの額とか、借金そのものの額は小さいにこしたことはないですよね。今日の話とどう関連するか、あまりピンと来ていないのですが。

結論から言うと、率は低い方が“財政的には”いいことには違いない。

-ですよねぇ。

改めて聞くけど、「借金していない=よいこと」なんかな? 今まで説明してきた地方債の機能から考えるとどうや?

-地方債の機能・・・。年度間調整と世代間公平・・・。借金していないってことは将来世代にツケを回していないことなので、やっぱりいいことだと思うんですが。

「借金=悪」のイメージが強いなぁ。じゃあ聞き方を変えてみるけど、「借金が少ない=借金する必要がなかった」と言い切れるんかな?

-???

むずいかな。じゃあ、答えを言うてまうけど、「借金が少ない=必要な投資を行ってこなかった」という可能性もあるねんな。例えば、ボロボロになった学校の建替えをしなかったら借金しなくて済むから将来負担比率は低いままになる。けど、ほんまにその建替えはしなくてよかったものなのか、と考えることもできる。

-はい。

で、これから複数の学校を一気に建替えていくとなると、一気に借金の額が大きくなる。つまり将来世代の負担が一気に大きくなる。過去の世代の負担がそれほど高くなかったとしたら、それは地方債の機能の言葉を使うと「年度間調整と世代間公平がはかれていない」って言えへんのとちゃうか?

-なるほど。

というわけで、借金をことさらに悪く言う人がたまにいるけど、大事なことは借金しないことではなくて、①必要な投資の時期を考えて計画的に借金をすること、そして②返せる範囲内で借金すること、やねんな。

-だんだん分かってきました。

で、将来負担比率との関連で言うと、①は比率はできるだけ一定であること、②は比率が大きくなり過ぎないこと、と言えるわけや。比率は低いにこしたことはないし、低い方が安心はできるけど、比率が低いこと以上にこの①②の両方を視野に入れておくことだ大事やと思うねんな。

-ちょっと意外な話でした。てっきり、財政課って「お金を使わない、借金しない」を絶対と考えているものだと思ってました。

中にはそういう人もいるかもしれんな。でも、行政の役割は住民の福祉の向上やから、必要なものにはお金をかけるのは当然のこと。せやし、「お金を使わない」やなくて「“無駄な”お金は使わない」と理解するのが正確なところやね。

あと、借金、つまり地方債で言えば、その金額の大きい小さいが問題じゃなくて、返せるかどうかが問題。これ、めちゃめちゃ重要なポイントやね。

-はい。

そう言えば、だいぶ前に、どれぐらいまでなら借金しても大丈夫かバチっと答えるのは相当難しいって言ったような気がするけど、覚えてる?

-あー。たしか、歳入の円グラフの話のときでしたっけ?

そうそう。

-思い出しました。円グラフを見ても、今どれぐらいの借金があるのかは分からないとも仰ってましたよね。

そう。

どれぐらいまでなら借金しても大丈夫か。明確な答えを出すのは難しいけど、将来負担比率は一つの目安にできるから、財政指標としてはめっちゃ大事ってことは理解してもらえたかな。

-間違いなく大事ですね。

ちょっとでも感じ取ってもらえたようでよかったわ。ま、そこら辺の話は、例によって総務省のホームページにも載ってるけどな。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000604089.pdf

-また見てみます。あ、また昼休みギリギリですね。いつもすみません。

全然ええよ。

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