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地方財政あるある#12.いつも黒字決算と言いがち(4つの収支②)

-先輩、前の続きお願いします!

あー、びっくりした。欲しがるねぇ。その意気込み、よし!

◆4つの収支

まずは復習から。4つの収支って何やった?

-形式収支、実質収支、単年度収支、実質単年度収支、でしたよね。
●形式収支=歳入決算-歳出決算
●実質収支=形式収支-翌年度に繰り越すべき財源
●単年度収支=当年度実質収支-前年度実質収支
●実質単年度収支=単年度収支+実質黒字要素-実質赤字要素

スライド16

すばらしい。で、前はどこまで話したっけ?

-「平成30年度は、実質収支が赤字の市町村は1つ。単年度収支が赤字の市町村の数は900。」という状況をどう理解するかというお題だけ頂いて終わってました。

せやったね。

◆実質収支の理解の仕方

まず実質収支からいこうか。前に「実質収支は前年度以前からの収支の累積」って説明したん、覚えてる?

-はい。なんとなく。

分かりにくい所やから、もう一度、前と同じ図、見とこか。

実質収支と単年度収支

で、そんな定義やから、実質収支が黒字やったらその自治体は黒字団体、赤字やったら赤字団体って呼ぶねんけど、この実質収支が赤字だったらかなりやばい状態だと言えるってのは理解してもらえる?

-はい、これもなんとなく。

基金、言うてみれば貯金を取り崩せば歳入を伸ばせるけど、その基金が底をつくと歳入を伸ばすことすらできず実質収支が赤字にならざるを得ないということやねん。そういう意味で、赤字団体が全国で1団体しかがないことはなんとなく分かると思うねんけど、どやろか。広報で「今年度は黒字決算でした」みたいなことが書かれてることがあるけど、実質収支が黒字であることをもって「黒字でした」と書いてある場合、基本的には「あたり前やんけ!」と突っ込まなあかんやつやねん。

-そうですね。

で、ここからがおもしろい話やねんけど、実質収支の黒字は大きければ大きい方がいいのかっていう話。どう思う?

-それは、その方がいいんじゃないですか? 黒字は多いに越したことはなさそうですけど。

と思うやろ? それがそうとも言い切られへんねんな。実質収支の黒字が大きいっていうのは、それだけ剰余金が大きいということ。自治体の場合は利益の追求が目的ではないから、剰余金が大きすぎるのであれば、もっと行政サービスの向上にお金を使うか、住民の負担を軽減させるかすべきという判断になるわけよ。

-なるほど! たしかに。実質収支の赤字はやばいけど、黒字が大きすぎてもよくなくて、適度な黒字が理想的ということですね。

そう。でも、どの程度が適度なのかと言われるとツラいけど。『地方財政小辞典』の四訂版には経験的には標準財政規模の3~5%程度が望ましいと考えられるって書いてあったけど、六訂版では削除されてるし。やっぱり具体的な数値目標って、一概には決められへんってことなんとちゃうかな。あ、ちなみに標準財政規模って何?という疑問は今はナシで。めっちゃ話が長なるから。

◆単年度収支の理解の仕方

-分かりました。ところで、単年度収支が赤字の団体が900あるって、ちょっとやばくないですか?

ちゃうねんな、これが。

-違うんですか?

前に、単年度収支は「今年度実質収支-前年度実質収支」で、実質収支がどれぐらい拡大したか、あるいは縮小したかを表すものって説明したと思うんやけど、改めてじっくり落ち着いて考えみたら分からへんかな?

-うーん、分からないですね。

そうか。じゃあ、単年度収支が黒字ってことは実質収支が拡大するってことやから、単年度収支の黒字が続くってことは?

-あっ! 単年度収支の黒字が続くと実質収支が膨れ上がってくるから、実質収支が大きくなり過ぎるのは財政運営的には望ましいとは言えないってことですよね。

そう。そういうことやねん。単年度収支は黒字にするのが基本やけど、黒字続きは不自然な話で、赤字になる年がある方がむしろ自然という側面があるってことやね。せやから、単年度収支が赤字といってスグに財政の良し悪しは判断でけへんということやねん。

-目からウロコです。

ということで、4つの収支の図のタイトルが「赤字が悪と思われがち」「黒字が善と思われがち」というところ、納得してくれた?

-はい。よく見たら、図の下の文章、そのまんまでしたね。

実はせやねんな。黒字とか赤字とかでスグに財政状況の良し悪しを判断してしまいそうやけど、そんな単純な話ちゃうねん。予算のところでも話したけど、しっかり見ようと思ったら過年度からの推移を見なあかんということやな。なかなか奥深いやろ?

◆財政の健全性はどう見る?

あと、一応付け加えておくけど、単年度収支が赤字でも実質単年度収支が黒字ということもあり得るのは分かる?

-えー、実質黒字要素が大きければ、そうなりますよね。

そう。それってどんな場合?

-えーと、財政調整基金の積み立てを行った場合でしたよね。

そう。財政調整基金に積み立てた場合、会計からお金を出すということで歳出計上することになるけど、それって「実質的に歳出じゃないよね」ということで、その分は収支的に黒字に扱おうということやねんな。そんな感じで、実質単年度収支の意味は分かってくれた?

-はい。たぶん。

ということで、実質収支が黒字でも実質単年度収支が赤字やったら、前年度までの黒字分で当該年度の実質収支が黒字になってるっていう状況やと分かるわけや。

なので、地方財政の健全性を見ようと思ったら、実質収支が黒字かどうかを見るだけではダメで、さっきは経年変化を見るべしって言ったけど、単年度収支や実質単年度収支も併せて見なあかんってことやな。

「4つの収支」の話は以上!

-そうですね。いやー、今日の話はなかなか難しかったです。

そやろなあ。お疲れさん。

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