地方財政あるある#5.とりあえず円グラフにしがち(歳出予算)
-先輩。前回の続き、いいですか?
OK、マニュファクチャー。
-・・・。どう反応したらいいんですか?
スルーしてもらって構わない。言いたいだけやし。
-・・・。
・・・。歳出予算の話やったね。
-はい。お願いします。
まず、例によって予算の円グラフ。
-気になってたんですけど、支出、じゃなかった、歳出予算はグラフが2種類ありますけど?
そう。目的別分類というのと性質別分類というのがあんねん。区分の仕方が違うというぐらいの認識でええけど、念のため、ちゃんと説明しとこか。
前に触れた地方自治法206条に、もう一回登場してもらおか。
(歳入歳出予算の区分)
第二百十六条 歳入歳出予算は、歳入にあつては、その性質に従つて款に大別し、かつ、各款中においてはこれを項に区分し、歳出にあつては、その目的に従つてこれを款項に区分しなければならない。
ということで、法律上は目的別で区分することになってるんやけど、分析する上では、性質別分類の方が何かと都合がいいということで、歳出は2種類の円グラフが登場することが多いねんな。
-そうだったんですか。
で、歳入のときと同じように、まず主な歳出項目を見てみよか。と言っても、だいたい名称で見当もつきそうやし、重要な概念だけ説明するわ。何と言っても重要なのが、性質別分類の人件費、扶助費、公債費、この3つ。
-人件費、扶助費、公債費。
そう。この3つをまとめて「義務的経費」って言うねんな。
・人件費:行政職員の給料
・扶助費:社会福祉関連経費
・公債費:借金返し
と理解してもらえればOK。支出が法令とかで義務付けられてて、任意に減らすことができないという意味で「義務的経費」って言うねん。人件費は、民間企業とは違って、地方公務員法上、リストラとか給与カットを自由にできひんので減らせへん。扶助費は基本的には法令に基づいた福祉サービスの提供に要する経費なんで、これも減らせへん。借金返しの公債費が減らせへんのは当然のことやね。
家計でイメージすると、食費や光熱費、あるいは住宅ローンの返済みたいな固定費に相当するものと思ってもらったらええかな。家計を管理する上で、固定費の割合はできるだけ低い方がいいというのは直感的に理解してもらえると思うけど、財政の場合も同じ。義務的経費の割合はできるだけ低い方が望ましい、ってことで、この義務的経費の金額だったり割合は意識しておいた方がいいということやねん。
-なるほど。
あとは歳入と同じで、前年度比とか経年比較で見るのがいいかな。金額とか割合が大きくなっている項目があれば、それはその分野に重点的にお金を使おうとする自治体の意思の表れなので、そういう点で見ればいいんとちゃうかな。どういうことにお金を使おうとしているのかは、だいたい併せて示されているはずやし。
-確かに、そうですね。
ただ、たとえば他の自治体と比べて教育費の金額や割合が小さいからと言って、必ずしも「教育費を大きくすべき」という論理にはならないという点は注意が必要。
-と言いますと?
「他の自治体でもやっているからウチもやるべし」みたいな考え方をする人がたまにいるけど、他の自治体と前提や状況が違う以上、「他の自治体でもやっているからウチもやるべし」という理屈は必ずしも成り立つわけでもない。あくまで自分の自治体の目指す姿とか目の前にある課題から出発して施策は決めるべきで、そういう意味で「他の自治体と比べて教育費の金額や割合が小さいから教育費を大きくすべき」というような論理展開は、論理の飛躍と言っていいと思うわ。
-あ~、確かにそこは陥りがちかもしれませんね。
ただ、自治体の総合計画とかに「教育のまち」みたいなスローガンを掲げている場合だったらまた話は変わるけどな。言うてる方向性とお金の使い方が合ってないやん、ってことになるし。
ごちゃごちゃ言ったけど、要は、歳出予算について他の自治体と比較する意味は、あくまで自分の自治体のお金の使い方の特徴をつかむという点であって、そこから善し悪しを見て取るのは慎重にしないといけない、ということやねんな。たしか、歳入の時も同じことを言ったような気がするけど。
-はい。ちょっと深い話ですね。
せやねん。で、このことを円グラフから読み取れるかというと?
-あー。無理ですね。
無理やねん。前年度の情報とか、他の自治体の情報とか、諸々の情報を総合的に見てようやく辿り着くような話やねん。難しいなぁ。
-難しいですね。
ということで、円グラフだけを見つめていても、そこから何か見て取れるかと言うと、なかなか難しい。けど、円グラフを見る視点のとっかかりぐらいは感じれたんとちゃうかな。
-うーん、多少は。
うん、まずはそれぐらいの感覚でいいんじゃないかな。まずは、自分の自治体の財政規模をざっくり抑えること。歳入は税収の割合と自主財源比率、歳出は性質別分類で義務的経費の割合を見てみること、行政職員なら自分の部署に関する経費に関する情報、ぐらいから見てみたらいいんじゃないかな。
そうそう、大切なこと言うの忘れてた。けど、ちょっと長くなったし、この辺にしとこか。
-そうですね。ありがとうございます。
全然ええよ。
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