地方財政あるある#19.原課にめっちゃ資料要求しがち(地方交付税2)
「今日はねぇ、交付税の誤解を解いていきますよぉ。」
-誰ですか?
わからん? 「今日はねぇ、美味しい卵焼きをつくっていきますよぉ。」
-まじで分かりません。
「こんばんは。土井善晴です。」
-無理っす。
無理か。。。
◆いくらもらえるのか?
で、まじめな話、今日は地方交付税の3大誤解を解いていこうと思ってな。
-3大誤解。
そう。別にそんな言葉は無いんやけど、地方交付税は制度自体がややこしくて、誤解も多いんよ。
-そうなんですね。
で、まずは制度の根本にある地方交付税、特に各自治体に交付される普通交付税の金額の決まり方について確認しとくな。
-お願いします。
一言で言うと「普通交付税額=基準財政需要額-基準財政収入額」。図にするとこんな感じ。
-めっちゃ単純じゃないですか。
まぁまぁ、そう焦らんと。
◆基準財政需要額の決まり方
じゃあ聞くけど、基準財政需要額って、どうやって計算すると思う?
-あ。すいませんでした。迂闊でした。。。
前に地方交付税法上の「基準財政需要額」の定義は「各地方団体の財政需要を合理的に測定するために、当該地方団体について第十一条の規定により算定した額」って言ったん覚えてる?
三 基準財政需要額 各地方団体の財政需要を合理的に測定するために、当該地方団体について第十一条の規定により算定した額をいう。
-なんとなく。。。
で、要は「合理的に測定する」ための方法はどういうことかってことやねんけどな。
-はい。
一般的な表現で言うと「基準財政需要額=単位費用×測定単位×補正係数」やねん。で、単位費用っていうのは測定単位一単位当たりの単価、補正係数は自治体の自然的・社会的条件の違いからくる行政経費の差を反映させるためのもの・・・と言ってもピンと来いひんやなぁ。
-ええ。
せやし、例をあげて説明するな。たとえば市町村の消防費でいこか。令和2年度の場合、消防費は、住民1人あたり11,400円の経費がかかるものとして計算する、と法律で決められてるんよ。
-そんなことが法定されてるんですね。
せやねん。で、この11,400円っていうのが単位費用。ほんで、消防費の場合、測定単位は人口ということで、たとえばX市の人口が8万人やったら、11,400円×8万人=912,000,000円になるわな。要は、人口8万人の市なら、普通、9億1,200万円の消防費がかかるよね~、と考えられるってことやな。
-はい。
ただ、人口が同じでも面積が広いと、言い換えると人口密度が低いと、費用が割高になるやんな。せやし、人口密度が低めな自治体については、150人/㎢なら×1.04、100人/㎢なら×1.07、50人/㎢なら×1.16しましょうみたいに決められる。これも「普通交付税に関する省令」っていうので計算式が定められてるんやけど、この乗率が補正係数。
-はい。
で、たとえば今のX市の面積が広くて、結果、人口密度がめっちゃ低くて50人/㎢だったとしたら、9億1,200万円×1.16=10億5,792万円。これがX市の消防費の基準財政需要額。厳密に言うと補正係数は他にも種類があるけど、ここではいったん割愛。こんな感じやけど、どう? 分かった?
-なんとなく理屈は分かりました。
そう。基本的な理屈はそんなに難しくはないねん。ただ、今は単純化した例説明したけど、この計算をする項目数が異常に多かったり、複雑やったりすんねん。
-そうなんですね。
で、基準財政需要額を求めるために、財政課は事業課にいろいろ照会すんねんな、「地方交付税の基礎数値、教えて~」って言うて。だいたい4月から5月頃かな。土木費の道路橋りょう費やったら、市内の道路の総延長と総面積、幅員ごとの延長、とか。教育費の小学校費やったら、児童数とか学級数、学校数とか。ざっくり言うと単純やけど、その項目がものすごく細かいので、めっちゃ大変。
-うーん、あんまりイメージが湧かないですね。
せやんな。報告物の実物をみたらイメージ湧くかもしれへんな。さっきも言ったけど、だいたい4月から5月に基礎数値を報告してるから、それを見せてもらうと大変さが伝わるかも。あと、7月アタマに国から計算結果、要は普通交付税の交付額が通知されるんやけど、その交付額が間違ってないかを確認せなあかんねんな。確認するって言っても、方法はひたすら地道に計算するしかなくて、ほとんど夏休みの宿題って感じ。っちゅうことで、その確認用の計算シートのことを「ドリル」って言ったりして。
-ドリル?
そう。せやから、財政課に行って「ドリル見せて!」って言ったら、見せてくれると思うで。それ見たら、少しは大変さが伝わると思うわ。
ところでちょっと脱線するけど、財政課が基礎数値を事業課に報告してもらうって言ったけど、この報告が間違ってると、どえらいことになんねん。
-交付税の金額が変わってきますもんね。
そう。で、こんなことになったりもすんねん。
-めっちゃ怖いですね。
怖いやろ? せやから、財政課は事業課から基礎数値を報告してもらう時に、その根拠資料を付けてもらって、入念に確認すんねんな。
-なるほど~。
事業課からすればめっちゃ面倒に思われるかもしれんけど、財政課としては絶対に間違えられない戦いがそこにあるわけや。ほんまに気ぃ付けてほしいところやね。
-分かりました。今後、財政課からの照会があったら、めっちゃ注意します!
ありがとーな。
◆基準財政収入額の決まり方
ほんでや、まだ話は半分しか進んでないんやけど。
-そうなんですか?
まだ基準財政需要額の方しか話してへん。収入の方がまだやで。
-そうでしたね。
で、例によってざっくり計算式から。「基準財政収入額=標準的な地方税収入見込額×(原則)75%」。これも例えばで説明した方がええな。
-はい。
市町村民税の個人住民税(均等割)の例で言うと、標準的な地方税収入見込額は、納税義務者1人につき3,500円と決まってるから、人口8万人やったら3,500円×8万人。ただし、滞納する人もいるから標準的な徴収率は98.5%として、3,500円×8万人×98.5%=2億7,580万円が、標準的な地方税収入額。これに75%をかけた2億685万円が市町村民税の個人住民税(均等割)の基準財政収入額になるわけやな。分かった?
-そうですね。単純な例だとは思いますが、ここまでは大丈夫です。ただ・・・
何?
-75%を掛けるって何ですか?
思うよな、それ。75%じゃない方、要は25%部分の方を留保財源って言うんやけど。
-留保財源。
そう。自治体の手元に残る、つまり留保される財源。概念上の話やけどな。
-ちょっとよく分からないです。
せやな。留保財源が何なのかを理解するよりは、なんで留保財源みたいなややこしいことを考えないといけないのかっていうのを理解した方が分かりやすいと思うし、そこを説明するな。
-お願いします。
なぜ留保財源なるものが存在するのか。その理由としては大きく2つのことが言われててな。1つ目は「基準財政需要額算定の限界」、2つ目は「自治体の税源涵養意欲の促進」。さっぱり分からんよな?
-はい。さっぱり分からないです。
せやな。まず1つ目の「基準財政需要額算定の限界」っていうのは、基準財政需要額で標準的な行政経費を計算したものの、やっぱりカバーしきれない各自治体独自の行政需要ってのがあるから、その分は地方交付税を減らさないでおこうという理屈やね。
普通に考えたら、需要額を増やしたらいいと思うかもしれんけど、そうじゃなくて収入額を減らすことで地方交付税を増やそうとしているのはなんでかって言うと、、、俺も知らんねん。まあ、そんなもんやと思っといてくれる?
-はい。とりあえず分かりました。
ありがと。次に「自治体の税源涵養意欲の促進」の話。多分、こっちの理由の方が一般的によく言われてると思うねんけど。たとえばいろんな施策を打って人口を増やしました、で、税収も増えました。一方、納税義務者数も増えたので、さっきの例で言うと個人住民税の基準財政収入額も増えました。そうなると、普通交付税額はどうなるかと言うと?
-減ります。
正解。「普通交付税=基準財政需要額-基準財政収入額」やし、基準財政収入額が増えると普通交付税が減る。ってことは、せっかく頑張って人口を増やして税収も増やしたのに、その分まるまる普通交付税が減ってしまうということになってまうやんな。
-そうなりますね。
それも具合悪いので、その分まるまる普通交付税が減らないように、その税収増分の一定割合は基準財政収入額に算入しないようにしましょう、って考えるわけ。で、理由は分からんけど、その割合が25%。そうやって、25%分を自治体の手元に「留保」したのが留保財源っちゅうことやな。
-えっと。分かったような分からないような。。。
そんなもんや。ゆっくり何回も考えてみ。だんだん分かってくるから、多分。
-はい。
で、ようやく解きたい3大誤解の話ができるんやけど、もう頭パンパンやんな?
-はい。もう無理っす。
ほな、今日はこの辺にしとこか。
-ありがとうございます。
それでは、また!
-なんで“なすなかにし”なんですか!
そこは通じるんや。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?