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大学における学びを考える:企業とのコラボも「課題の切実さ」がポイント?

今年は,神戸大学ESD(持続可能な開発のための教育)演習でパタゴニア日本支社と協働することになった.そのきっかけは,パタゴニアWorn Wear プロジェクトである.衣類を修繕する体験ができるリペアカーが大学にきて,Worn Wear プロジェクトをともに実施する予定であったが,結局,Covid-19の影響で中止になった.中止になったものの,パタゴニア日本支社の社員の方々にESD演習にスポット参加していただくことになった.

大学にくる相談を授業として取り組む
わたしたち教員は,こうした企業とのコラボを授業で進めるにあたり,どのようなことに留意する必要があるのだろうか.
大学の教員でもある研究者には,企業や地域から様々な相談がくる.それを学生と一緒に取り組んだら学生たちの勉強にもなるのではないか,と安易に考えたり,逆に,学生に関わってほしい,という強い要望に押し切られて進めることがある.
鈴木眞理(2004)は,社会教育による学習活動の支援と,ボランティアの関係を論考するなかで,学習の目的を 「課題解決志向型」「自己実現志向型」に分類している.
 「課題解決志向型」は,きわめて自発性の高い行動であり,社会性・公益性の強い学習行動の成果は,学習者自身にとどまらない.これはボランティア活動の特徴と合致する.「自己実現志向型」は,社会性・公益性が弱く,当座は学習行動の成果が学習者自身に帰属するということになるという.
 企業や地域とコラボする授業では,しばしば「課題解決志向型」が優先されるがあまり,学生にとっての学びにまで落ちないこともしばしばある.また,学生の学びが優先され,企業や地域にとっては「あまり成果が出ませんでしたね」という形で期待外れとなってしまうこともある.では,そのバランスをとるにはどのようにしたらよいのであろうか.

大学における学習活動の支援と社会教育
基本的に,大学における学びは,知識伝授型の一方向なものから,双方向型なものへの移行が求められつつある(各科目が対応しているかは別として).ここでいう双方向とは,教員と学生とが学びあう「教員と学生とがともに授業をつくる」ということをさしている.学生と豊かにコミュニケーションをとっていたり,学生同士で対話するグループワークが入っているだけでは,双方向型の授業になっていない.その学習支援の枠組みは,大学教育の新しい形として議論されることもあるが(『学生主体型授業の冒険』など),主体的で自律的な学びを支援する枠組みについて検討してきた「社会教育」の考え方と比べると,まだまだ「定型的」で学校教育的であるように思う.それは,学習者が自ら集団をつくり,学びの計画を立てたりするような余地を残していないからである.

※人々の教育・学習は,制度的・社会的に認知された教育・学習活動と,自律的に新たに生まれつつある教育・学習運動に区別して論じられ,前者の代表が学校教育で,後者が社会教育である.

人間の生活やいのちに直結するさまざまな社会的な課題を解決しようとする取り組みが,社会教育・生涯学習実践である(津田英二ほか,2015)

 津田らは,「社会教育・生涯学習研究のすすめ」のなかで,社会教育・生涯学習実践を上記のように捉えている.先に述べた大学や地域の要望は,社会的な課題に密接していることが多く,その解決を目指して学びを進めるプロセスは,社会教育実践そのものであろう.そうであるならば,企業や地域からのニーズは,学校教育的になりすぎている大学の学習を崩す,あるいは,社会教育実践として離陸するためのツールともなりうる.そういう意味では,相談をもちかけてくる企業や地域の課題が,「人間の生活やいのちに直結する切実さ」として,学生たちに届くことがポイントとなってくる.

大学生という存在とそこに関わる大人のあり方
現在の青少年は「感覚」が直接「行動」に移行してしまう傾向があるという(鈴木,2014).企業の「うまいプレゼン」にすっかり傾倒し,そのまま批判的に検討することなく企業の課題解決に同期する可能性がある.だからこそ,他者とともに,プレゼンについて語り,多様な意見があることを知り,自分だけの考えだとおもしろくないな,という感覚をもってほしい.学生たちのグループ討議はまずその機会として位置づければよいと考えている.
 企業の方からのプレゼンのあと「失敗した例とか,これまでにうまくいかなかったこととか,ありますか」という質問があった.それはいま思えば「企業で働くあなたの本当の悩みは何ですか」という問いだったのかもしれない.その問いが私たちは,そのあなたの悩みをともに解決する準備をしようとしている,という意思表明だったのであれば,「課題の切実さ」をオープンにしてくださるような関係性を企業との間で構築しなければ,「課題解決志向型」と「自己実現志向型」のどちらかで悩むというスタートラインにもたっていない.学生たちと企業や地域がwin-winの関係で学習を進めていくためにはまだまだ試行錯誤が必要である.

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