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どんぐりに全集中してみえてきたもの

ちゃめっこはくぶつかんの山中亜季子さんと小島まみさんがデザインされている「くらべっこ!ドングリ」ワークショップが、丹波篠山の子育て広場「Petit Prix」で親子連れの皆さんを対象に行われた。私は「どんぐりが好きな人」役で少し登場したが、そのワークショップにおいて子どもから教えてもらったことをご紹介します。

どんぐり、と聞くと「野生動物たちの貴重な食べ物!」とすぐに動物との関連を考えてしまう私に、どんぐりだけに集中してひと言!と言われ、言葉が詰まってしまった。
「じーっとここにあるどんぐりを見てると、お尻がこうなってるな。とかシワがこうだな、とかそんな違いがみえてくるでしょう?」そうあっこちゃんに言われるものの、気の利いた言葉が出てこない。唯一言えたのが「ちょっと表面がこなっぽいよね」ということだった。とはいえ、「じゃあなんで他のと比べてこれだけこなっぽくなってるの?」と聞かれても、勉強不足でその理由を答えられないため、私はある意味「どんぐりが好きな人」失格であった。

若干3歳くらいの子どもさんとどんぐりをみていた。
シラカシの枝についているどんぐりはまだ緑色で、それを見ていたお子さんが、突然、自分の手の中にある茶色のシラカシを見るや、「同じ!」といって、緑のどんぐりと茶色のどんぐりを見比べている。シラカシというどんぐりの「茶色と緑」が同じであることに気がついたのである。
私と彼はその発見に大いに喜び、その喜びをかみしめていた。

これは弁別同定反応(小林芳郎、1974)の一種なのだろうか。
子どもが、分割された図形をみて、同じかどうかを尋ねる小林(1974)の弁別同定反応実験では、年齢が高くなるにつれ正答率が上がり、4歳半から5歳半になると偶然を超えるレベルで正解するようになるという。3歳の場合の正答率は40%程度である。

この経験を機に、自然界に存在する種について「これとこれ、おんなじだね。」とわかる「同定」の能力がどのように発達するのかについて、急に興味が湧いてきた。自然界に存在する生き物の「種」にはものすごいバリエーションがある。それらが「同種」だとわかるというのは改めてすごいことだと、その子に教えてもらった。また、初めて同定した瞬間にい合わせることができて本当に幸せだと感じた。

ちゃめっこさんたちは、研究者たちがこれまで溜めてきたマニアックな発見を、おもしろおかしく子供たちに伝える術をもっている。こうした人々は自然教育では「インタープリター」と呼ばれるが、あっこちゃんたちの場合は、自然を素材にしているがファシリテーターの方に近いだろう。
今回の事例に沿って違いを述べると、インタープリターは、自身も自然と一体化しようとする存在なので、自分の気づきをベースにどんぐりのことを語る。「マテバシイだとニホンザルが頬袋に溜め込んだ時、こんな風に転がり落ちるんだけど、スダジイだとこうなんだよ」といった感じである。ファシリテーターは、どんぐりを多角的な観点で捉え、相手に「発見の自由」を与えるための仕掛けをつくる。

「見えるものを通して見えないものを見る」“from tangible to non-tangible”
(Donaldsonへの1998年のインタビューから:親泊、2015)

こういうワークショップができる人になりたいものだ、とつくづく感じたが、私はどうしてもインタープリター寄りになってしまうんだな。だからこそ、あっこちゃんたちのような存在がいてくれることが、研究者にとってはとてもありがたいことで、そうした人材の育成が重要だと改めて思う(もうかれこれ10年以上前からそう思い続けていますが)。


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