二国家は成り立つのか①
以下の動画を見た感想を述べます。
パレスチナ国家は、パレスチナ人たちが望んでいない
エイナット・ウィルフさんの発言や著書を読み、10月7日以降特に、パレスチナというものの本質が何となく見えてきました。彼女は左派政党の国会議員であった経歴を持ちますが、パレスチナ人の現実を直視するようになった方です。
力の均衡によって成り立つ空間世界
その現実とは、「中東では、力によってしか意思伝達ができない」ということです。
つまり、パレスチナ人は、自分たちの中にユダヤ人の主権があること自体が占領であり、植民地支配だと考えるのであり、そこからの解放は、イスラエルという国がなくなることに他なりません。二国家、すなわちユダヤ主権の国と、パレスチナ主権の国が隣り合わせに平和共存するということを考えていません。
彼らが「占領」という時は、イスラエルが無くなって解放されることを意味し、「帰還」と言えば、イスラエルが消滅した後に帰還することを意味します。
「初めから、交渉など存在しなかった」
エイナット・ウィルフさんによると、10月7日について、人質解放のための交渉がハマスと続いていますが、実は、そもそも「取引などない」と、ウィルフさんは言いきっています。この11カ月間、何一つ、ユダヤ人国家と合意など持つ気がないことが、はっきりしたと言っています。
世間では、ネタニヤフ政権が譲歩していないから戦争が続いていると言われていますが、事実からかけ離れています。ハマスがすべて合意事項を蹴っています。それだけでなく、彼らは、10月8日の状態に戻すことしか考えていないと、彼女は解説します。
つまり、あれだけの残虐なことをイスラエル人に対して行い、6名の人質も殺しておきながら、そのつけを全く支払うことなく、10月7日以前の状態に戻すことだけが彼らの条件なのです。その条件は条件ですらなく、「忌まわしいこと(abomination)」と言っています。
ちなみに、この「忌まわしいこと」という言葉は、かつて、エルサレムの神殿に、豚の血を振りまき、祭壇の上で献げさせ、ゼウスの神像を設置するのを強制した、ギリシアの王、アンティオコス・エピファネスに使われた言葉です。(ダニエル書)イエスも、将来の反キリストとして語られています。(マタイ24章)
徒労に終わっているイスラエル国内議論
彼女は、20年間、自分が願っていること、二国家案を横に置いて、パレスチナ人の言っていることを聞き続けました。特に諜報など必要とせず、彼らが語っていること、そのものを受け入れればよいとのことです。それは、「合意」という言葉、考えはそもそもないということです。
今、イスラエル国内が、「合意すべきだ」「すべきではない」と議論していますが、「いや、合意について、相手側から何も聞いていないけれども」と、ウィルフさんは言います。
ではどうすればよいのか?ということについて、イスラエル人たちは、合意に向かって前進していると思っているかもしれないですが、実は何も前進しておらず、10月8日のままなのだと。
だから、ハマス排除の計画を実行し続ける必要があり、交渉相手などという思いは一切抱いてはいけない、と。「人質はどうなるのだ?」と思うかもしれないが、こちらが譲歩したところで、彼らを飢えさせ、殺していくことには変わらないのだ、と。
参考記事:「イスラエルは、フィラデルフィ回廊を放棄しては決していけない。」
交渉なしの軍事的圧迫
だから、ガザ境界を封鎖、食糧供給はしない。ガザ市民はどんどん南に追いやり、北部から1㌔ずつ南下し、ハマス掃討を続けると。人質を解放するまで、これをやり続けると、言っています。
これは最低限のことであり、他にも良い考えがあるかもしれないが、イスラエルが11カ月、作戦をした結果、10月8日と同じようにハマスが要求をしてくるのは、忌むべきことだと言っています。
彼女は、今の極右政権に対して批判していますが、それは、「譲歩しない強硬だ」という左派の批判とは裏腹に、同政権が「11カ月も、外交的手段で作戦を決行しているが、ハマスは何も変わらず、要求だけしてきている。」ということで、批判しています。
以上ですが、私も、これを薄々、感じていました。例えると、近くに悪人がいるとします。その悪人にどう対峙すればよいのか、仲間の間で意見が割れて、対立してしまっているという状態です。しかし、この悪人が何の変化もなく、人さらいをしているのです。だから、最初に戻って、この犯人を殺すしかない、ということです。
力による平和共存を獲得したイスラエル史
パレスチナ・アラブ人との交渉は、外交ではなく、力でしかできないというのは、建国前から右派の人たちが言っていました。右派のリクード党が支柱としている思想家、ゼエヴ・ジャボチンスキーは「鉄の壁」という論文を書きました。
しかし左派の人たちも、結局はその選択肢を取っていきます。ベングリオンは、アラブ人との平和共存を願っていましたが、アラブ大反乱を経験して、自分たちが独立するというものなら、徹底的に攻撃してくることを悟り、それでIDFの前進ハガナを強化し、戦いの準備をしたのです。
独立戦争、六日戦争、ヨム・キプール戦争などで、戦った結果、相手はようやく交渉の場につかざるを得なくなります。そうやって長いことかかって、エジプトと平和条約、次にヨルダン、そして、イランの脅威が出てきたので、湾岸諸国がアブラハム合意を結んだのです。
テロリスト精神から離れないパレスチナ自治政府
そして、PLOと和平合意を結んだオスロ合意によって、パレスチナ暫定自治政府が生まれました。しかし、PLOはテロ組織であり、その議長アラファト氏は、近代テロリズムの父とも呼ばれます。
したがって、テロリスト精神はパレスチナ自治政府にも、しっかりと残っています。暴力による抵抗運動を信じており、テロリストの遺族には潤沢に生活保障をします。子供への教育で、ユダヤ人憎悪を吹き込みます。これは、テロリストだけでなく、パレスチナ人の心の奥深い部分に埋め込まれています。
今、多くのパレスチナ人と共存できているのは、一時的な休戦のような形であり、それをいかに反復的に続けていくのか?ということしか考えられないと思います。彼らに理想を語らせれば、「パレスチナの解放」=「イスラエルの滅び」しかないからです。
イスラエルを認め、国民国家パレスチナを求める人々
もちろん、少数のパレスチナ人は、国民国家としての二国家案をなんとかして実現させようとしています。けれども、そのほとんど全員は海外に住んでおり、ごく少数です。かなり勇気をもって発言しています。こういう西欧近代国家の考えを持った人々が、パレスチナに戻り、統治をする時には、今の二国家案は機能するでしょう。
(二国家は成り立つのか②に続く)