東京ありがとう連載 「こけしの恩返し」始めます。
私は今年の秋に東京を離れることを決めた。
理由は、自然のある場所へ身を置きたいから。
思えば、子どもの頃から田舎に住みたいと思っていた。
私は長野県の塩尻市という場所で産まれ育ち、東京に比べたら田舎と言える土地ではあったのだが、私が求めていたのはもっと自然の近い場所だった。
家の近くに小川が流れ、あぜ道には小さなかわいい花や草が風に揺れ、もりもりとした大きな木に守られ、土の道が続くような場所。
ある日、となりのトトロを観たとき、これだ! と思った。
私の理想の風景、暮らしがそこに描かれていた。
ビデオのテープがすり切れるくらい、何度も何度も観ながら、いつかあんな場所に住めたらいいな、と、幼心に何度も思ったものだった。
そして時は飛び、
私は大学進学と共に東京へ出てきた。
私の幼心の欲求とは逆の方向へ進んでいった。
でも、その時は、そんなことよりも、自分のやりたいこと、自分の可能性、そういうことの方が大事すぎて、それ以外のことは心の奥隅に押しやってフタをした。
そのフタが、数ヶ月前に開いた。
今年でちょうど、長野と東京のくらしが半分半分になる。
人生の半分を東京で過ごしたことになる訳だ。
長かった、けれど、人生は案外短い、という感覚もある。
たくさんのことがあった。
いろいろな人と出会った。
たくさんお世話になった方々がいる。
かけがえのない時間を、かけがえのない経験を、東京は与えてくれた。
あと数ヶ月、東京にいる間に、私は東京へのご恩を、そして、お世話になった方々へのご恩を、言葉や絵にし、そしてそれを発信することで、私なりの感謝の形として表現したいと思った。
そんないきさつで、連載を始めます。
東京に出てきたころからのことを、私の偏った見解と心の思うままに、時系列で描いていきたいと思います。
ほんのちいさなある偏った人間のほんのささいな東京珍道中、と思って読んでいただけたら幸いです。