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戦国軍隊の編制方法【万川集海と軍法侍用集、現代陸軍の編制の比較】
戦国時代、また江戸時代の軍隊の編制と規模について整理し、現代の軍隊とその規模を比較してみる。
戦国軍隊を考える上での注意
戦国時代は長く戦乱が続き、そのため兵員の増減や戦術や兵器の進化・発展があり確実にこれが戦国軍隊の編制で、また規模とは言い難いが、基準を作らなければ話が始まらないので、ここでは伊賀・甲賀流の忍術書『万川集海』陽忍 物見編より「敵勢の大積り」を元に戦国軍隊の編制と規模を仮定して話を進める。
(また戦国時代は国、大名ごとに軍隊編制・用兵思想が異なるので一概にこうであるとも言い難い。)
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江戸軍隊を考える上での注意
次に江戸時代の軍隊編制だが、これは小笠原流の兵法書『軍法侍用集』を元に編制と規模を見てみる。太平の江戸時代になると、実際に合戦で役にたつ実利的な側面よりも儀礼的な側面が出てくることも踏まえて見てほしい。(全てが儀礼的ではなく、儀礼的な要素が追加されている)
なお役職名の記載順序は『万川集海』に習い、戦闘員(戦場で働く人数)と非戦闘員に分けたため『軍法侍用集』記載の順序とは異なる。
日本全国が江戸幕府に統一された江戸時代であっても、軍隊の用兵思想(兵法)は諸藩によって異なるものがあるから、一概にこれが江戸時代の軍隊とは言い難い。しかし、儀礼的になる傾向があることは他の流儀の兵法書(例えば長沼流。pdfを参照)を見ても感じるところがある。
儀礼的な要素が出てくる理由はいくつかあるが、一つに雇用している武士の人数に対して役職が不足して溢れる者がいるため、わざわざ役職を追加したと考える。これは『万川集海』と『軍法侍用集』を見比べてみれば分かるが、江戸時代の軍隊編制には太鼓・鐘・法螺貝などの合図の役人が明記されていることなどから推測した。
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軍隊編制の基本となる「五位の法」
さて、戦国軍隊と江戸軍隊の変化を知る上で当時の軍隊編制の基本となるものがある。それは「五位の法」というもので、陰陽五行思想に基づき、軍隊編制は5人組の伍からスタートして伍を5つ集めた両(25人)、両を4つ集めた卒(100人)、卒を5つ集めた組(500人)…以下略…というものである。
戦国時代も江戸時代も兵法には様々な流儀があるが、大方編制の基本はこれになっている。これは日本兵法の多くが古代中国の兵法思想を参考にしながら日本の環境に合わせ独自に発展したところがあるからだろう。
「五位の法」とは陰陽五行思想の五行で木火土金水のことだが、この五行は東西南北中央という方位に当てはまる。これに基づき軍隊編制も前後左右中央を固める陣を組む。
前は先鋒で軍隊の主力であり戦闘正面になる。左右はそれぞれ先鋒(または本体)の右翼左翼を固める支援部隊になる。中央は軍隊の本体でここに指揮官である大将が居て全体の指揮を取る。最後に後は遊軍で予備兵力となる。
「弓隊・鉄砲隊・槍隊・騎馬隊・歩行隊・旗隊」6種の兵科
戦国時代・江戸時代を通して軍隊編制の兵科(兵種)は、弓隊・鉄砲隊・槍隊・騎馬隊・歩行隊(徒歩の武者)・旗隊の6種しかない。この内弓・鉄砲・槍・旗隊員はメインが足軽(現代軍隊でいう兵卒クラス、戦国時代は雑兵、江戸時代では下級武士)で、騎馬・歩行は武士(現代軍隊でいう士官クラス、戦国・江戸時代ともに武士)と考えられる。
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「備」とは混成部隊で現代陸軍の戦闘団
複数の兵科を混成した部隊編制を、現代の軍隊用語では混成部隊や諸兵科連合と呼ぶ。おおよそ弓・鉄砲・槍が100人ずつ(もしくは鉄砲が200人とか)で騎馬・歩行・旗が合計100〜200人、これら戦闘員合わせて500人規模(五位の法では「組」、組の単位で一備を示す旗を与える)になるが、これは現代の軍隊編制の戦闘団(混成部隊)の単位と同じになる。つまり、時代を経て普遍的に混成部隊を編成するには500人規模を最小単位とするのが人間が指揮しやすく戦術的な運用が可能であると考えられる。
異なる兵科を混成するメリット
ここでなぜ兵科を混成しなければならないか説明しておくと、単一の兵科では弱点があり、そこを敵に突かれると簡単に負けてしまうからである。例えば槍隊の槍襖(槍兵を一列に並べ中段に構えさせて敵勢の進撃を阻止する)は敵騎馬隊の突撃を防げる可能性はあるが、鉄砲や弓などの遠距離攻撃には刃が立たない。
混成部隊は互いの弱点を補い、強みを活かすための部隊編成で、鉄砲隊は遠距離で敵を制圧・拘束(動きを封じる)し、弓隊は鉄砲の装填時間の隙を補い、槍隊は敵部隊の突破を防ぎ拘束し、騎馬隊は主力として機動力と破壊力をもって敵の防御を崩す。
戦国時代と江戸時代の軍隊規模
『万川集海』の軍隊編制は戦闘員が500人であり、その他非戦闘員が250人ほどで合計750人の一備(部隊)を形成する。『軍法侍用集』の軍隊編制は500石の武士が大将を勤めた場合、戦闘員が2,800人、その他含めて合計3,400人規模の軍隊となり戦国期より約4.5倍の兵力となるが、各部隊を指揮する頭の人数から推測すると一備ではなく五備が集まった軍隊(そのため実際の運用は5つに分ける)と考えられる。
騎馬(武士)について回るお供「従僕」
騎馬には従僕(お供の陣夫、人夫で雑兵足軽)がつくが、これは主人の兜を持ったり槍などの各種武器を持ったり、馬の世話(餌やりや下馬戦闘時の管理)を行う者で基本的には非戦闘員だが、合戦場では主君とともに行動するため戦闘に巻き込まれるし、主君が戦ってるのを呆然と見てるだけ…ともいかないので横槍など助太刀を行う補助戦闘員となる。
『万川集海』と『軍法侍用集』の騎馬1騎に付き添う従僕の人数を比べると『万川集海』は4人に対して『軍法侍用集』では14人まで膨れ上がっている。儀礼的、また権威を示すために実利的に考えれば無駄な要員(非戦闘員の従僕)が江戸時代の軍隊編制には追加されていると考えられる。これは『日本戦陣作法辞典』で著者の笹間良彦氏も無駄な人員であり、実際に戦うことを考えれば足軽に動員した方がいいだろうと言っている。
また、『万川集海』では軍隊編制の規模について「人数の少ない(主に従僕のこと)戦国時代の見積もりであるから、現代(江戸時代)の編成には合わない。私(著者の藤林)は現代では騎馬一人につき雑兵(従僕)15人までつくと考える。」と言っている。このことからも無駄な人員が江戸時代には追加されていると考えられる。
なお従僕という名称は『兵要録』に習ってここでは用いている。
鉄砲を重視した江戸時代の兵法
『軍法侍用集』の軍隊編制を見ると、鉄砲隊の兵数200名に対して弓隊は100名である。他流の長沼流の兵法書を見ても鉄砲は弓の倍を用意するとある。『万川集海』の戦国時代の編制では鉄砲は100人で弓100人と同数である。しかしこの差は単純に戦国時代は予算等の都合で鉄砲を増強することが厳しかったためと考えている。
戦国時代と江戸時代の役職
『万川集海』と『軍法侍用集』に記載されている兵の役職を見ると、『軍法侍用集』の方がやたらと役職が多い。主に追加された役職は次の通り
『軍法侍用集』に追加された役職
・軍者(軍師)
・物見
・太鼓
・鉦(鐘)
・貝(法螺貝)
・窃盗衆(忍者)
・児小性騎馬(元服前の小姓)
・大工
・鍛治
・矢細工
・弓細工
・弦指
これは軍の規模が5備分(総兵力が『万川集海』の4.5倍)あるとか、『万川集海』は物見の術で敵勢の計算方法だから省略されているからとかも考えられるが、同じく1備分の編制が記載される『兵要録』を見ると「鼓手」「鉦手」「吹手(法螺貝)」「豎児(児小性)」が居ることから儀礼的に増やされたと考える。
また、騎馬の共については4人から14人にまで膨れ上がっている。内訳は次の通り
『軍法侍用集』の騎馬の共14人
・甲持(兜の管理):1人
・歩行の者(護衛):3人
・鑓持(槍の管理):2人
・草履取り:1人
・馬取り:3人
・小者:2人
・人足:2人
『万川集海』の方には供の内訳が無いが、4人しか共がいないなら甲持、鑓持、草履取り、馬取りといったところだろうか。
まとめ
これ以外にも読み取れることはいっぱいあるだろうし、忍術的観点からの話もあるのだが、この記事では一旦これくらいにして、戦国軍隊の編制と規模を知り理解する手掛かりとしておこうと思う。
「敵勢の大積」データ資料配布
「敵勢の大積.pdf」は『万川集海』『軍法侍用集』『兵要録』「五位の法」「現代陸軍の部隊編制」の5種の軍隊編制を整理してまとめたものになります。
本資料の無断転載・配布は禁じます。個人利用を超える目的での使用時はご連絡ください。
忍道・忍術・日本兵法の研究と発展を目的に公開した資料ですのでどうぞご理解ください。
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