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「働く幸せ」の道

◆今日のお悩み
この春から社会人になります。就職活動がうまくいかず、志望していた就職先ではないこともあり、働く意欲がわきません。どうすればいいでしょうか。


「働く」という字は、じつは漢字ではありません。日本でつくられた「国字」の一つで、使われはじめたのは明治以降。それ以前は「はたらく」とひらがなで用いられてきました。「端(はた)」を「楽(らく)」にするという語源を持つ大和言葉です。


英語では「work」が意味の近い言葉ですが、成り立ちからして異なります。workの語源であるwergとは「作る」であり、「やっかいな」という意味のirksomeと同じ語源を持つといいます。


「働」という字は「人」のために「動」くと書きます。このように日本人は古来、労働を単に金銭を得るためだけの手段としてとらえていませんでした。根底には、関わる人の役に立ち、その結果として自らも幸せになるという労働観があります。


生前、「働くとは、人のために動くこと」を信念とする経営者がいました。


2019年3月に86歳でなくなった大山泰弘さんは、父が創業したチョーク製造業「日本理化学工業」を23歳で承継。4年目のとき、本人いわく「ちょっとした同情心となりゆき」により、二人の知的障がい者を雇用することになりました。


雇用といっても2週間程度の実習です。当時、「終えればお帰しするつもり」と大山さんは考えていたそうです。


ところが、二人の熱心な働きぶりに感化された社員たちが正式な雇用を懇願。以来、障がいのある社員がまず今ある能力で仕事ができるように、そしてより能力を高めていけるように作業方法の工夫・改善を行い、環境づくりに努めてきました。現在、同社の社員の70%以上が知的障がい者です。


しかし、その道のりは平たんではありませんでした。「理念だけで会社を経営することができるわけではありません。理念を『形』にする必要があります」と大山さんは自著『「働く幸せ」の道』で記しています。


同社の歴史は、障がい者の能力に合わせて健常者と同じ結果が出るようにする「工程改革」の歴史であり、理念を形にするための収益力向上の歩みでした。「ダストレスチョーク」「ホタテ貝殻チョーク」、さまざまな用途で使える筆記具「キットパス」といった独自性を持った商品による市場創造があってこそ、理念は形になります。


同社の工場敷地内に立つ「働く幸せの像」の台座には、大山さんの次の言葉が刻まれています。


「導師は『人間の究極の幸せは、人に愛されること、人にほめられること、人の役にたつこと、人から必要とされること、の四つです。働くことによって愛以外の三つの幸せは得られるのです』 と言われました。その愛も一生懸命働くことによって得られるものだと思う」


筆者の手許にある著書には、大山さんの直筆で「利他の歩みこそ、より大きな自己実現への道」と書かれています。「これこそが、私が彼らに教えられ、導かれた人生の意味なのです」と大山さんは言います。


あなたも、利他の道を歩み、その先に広がる自己実現への道を進んではいかがでしょうか。その道は険しいかもしれませんが、実りも多いことでしょう。


#お悩みへのアドバイス

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※このブログは、東海道・山陽新幹線のグリーン車でおなじみのビジネスオピニオン月刊誌「Wedge」の連載「商いのレッスン」を加筆変更してお届けしています。毎号、興味深い特集が組まれていますので、ぜひお読みいただけると幸いです。また、オンラインメディア「Wedge ONLINE」でもお読みいただけます。

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