老いない魔女7
■7 老いない魔女と揺り椅子の手紙
◆6に登場した手紙の内容。全て老人の独白台詞です。
◆『老人』
親愛なる湖畔の魔女殿。
このような形であなたに言葉を残すことが、私にはいくらか卑屈に思えてしまう。
これから私が行なうことは、おそらくは私自身のエゴだとか妄執といった類のものだろう。
そしてこの手紙があなたの目に留まるとしたら、その妄執が形を得たということだ。
魔に通じる者の端くれとして、私があなたの呪いを調べていたことは今更であると思う。
私はその過程で呪いに蝕まれ、まもなく命を終えようとしている。
それがあなたの知る私の現状だが、実のところ、これは正確な事実ではない。
私は呪いの培養を試みた。
私自身の肉体と魂によって。
そうすることが、あなたの呪いを知り、時を戻す一番の近道だと考えた。
初めからそうしていたのではない。
妻の手が、私の指から滑り落ちたその晩に、私の中で決心がついた。
私が呪いを解析し終えるのが先か、呪いが私を蝕み終えるのが先か。
幸いにして……いや幸いであるよう祈るばかりだが。
私は、この呪いを私の魔力に適合させることに成功した。
願ったような結果ではない。
これが出来たからといって、あなたの時間を流すことは叶わないだろう。
だが代わりに、ひとつの可能性が目の前に現れた。
この呪いの具現化だ。
あなたと再び会った日、共に交わした言葉を覚えているだろうか。
あなたが街を出たあの日。
共に旅立っていれば、何かが変わったろうか、と。
あなたは、変わらないと行った。
いずれ私を置いて行ってしまう、と。
そうではない。
私たちが、あなたを取り残してしまう。
今の私には、もうあなたと共に旅をすることはできない。
だがそれだけが私にとって気がかりとなっていた。
私の願いは二つ。
あなたの呪いを解くか、あなたの孤独を埋めるかだ。
前者は、私の手に負えるものではなかった。
だから私はせめて、あなたの時を和らげたいと思う。
私の魔力を吸い変化した呪いは、血によって私の孫へと引き継がれるだろう。
私では足りない魔力を孫で補い、そしてあなたの魔力に触れた時、呪いは全く別の存在となる。
あなたにとって、これは迷惑な話かもしれない。
しかし私は、せめて彼女を残したいと思う。
あなたと共に歩める、もう一人の存在を。
それがせめて、あなたの生きる目的になってくれればいい。
眠ることを恐れずに済む、あなたの支えになってくれればいいと。
今はただ、それだけを願う。
どうか叶うならば、この手紙を読む日が、あなたの言う湖畔の小さな木の家の中であるように。
……追伸。
これは、私の孫に。
否応なく巻き込んでしまったことを、まず謝らせてほしい。
すまなかった。
私は私のエゴによって、お前の人生さえ歪めてしまうかもしれない。
そこまでわかっていてもなお、私はかつて追えなかった旅への未練を選んでしまった。
許せないというのなら、この手紙を処分してほしい。
これは私の、最後の魂を使って記したものだ。
今更何をと思うだろうが、祖父として、お前の旅路がどうか健やかであることを願う。