老いない魔女1
*ボイコネに載せていたフリー台本を、サービス終了に伴って移転したものです。
ボイコネ時から微妙に台詞を修正し、また新しく3話分を追加した全9話の掛け合い台本となっています。
全話、基本的に利用のルール等はございませんので、アドリブや改変含めてよろしければご自由にお使いください。
■1 老いない魔女と揺り椅子の連れ合い
◆老人の部屋。軽くノックして魔女が入って来る。
◆老人は若干後ろめたそうに苦笑しながら。魔女は静かに微笑みながら。
◆老人
ああ……来てくれたか。
◆魔女
うん。久しぶり。
元気そうだね。
◆老人
思ったよりは、だろう?
◆魔女
うん。思ったよりは。40年ぶりだっけ。
◆老人
そうとも。40年だ。
君の方は……相変わらず、少しも変わらない。
◆魔女
変わりたくても、ね。これでも化け物だから。
◆老人
そうだったな……。
こうして面と向かって、実感したよ。君は、本当に老いない。
◆魔女
ふふっ、なんだねなんだねー? 信じていなかったのかねぇ~?
◆老人
いやいや、ははっ……。そうであったら、私はもういくらか健康だろうよ。
ああ、座ってくれ。酒が……酒があったはずだ。
◆魔女
取るよ。
へえ、蒸留酒……こんな強いの飲むんだ?
◆老人
師匠の影響か……それとも、歳を食ったせいかな。
味がわかるようになったよ。
足が動かない分、舌は肥えなきゃならんからね。
◆魔女
自分で言うかな。
◆老人
説得力は増したろう?
◆魔女
そうかもね。……あそこの写真。
◆老人
うん?
◆魔女
まだ飾ってるんだ?
◆老人
ああ。記念だよ。
写真嫌いの連れ合いが、唯一撮ってくれた。
◆魔女
40年前に、たった1枚だけね。
あの子が今や、ねえ……。
一緒にお酒飲む日が来るとは、思わなかったよ。
◆老人
君には退屈かもしれんが。
見ての通りだ。
すっかり、くたびれてしまったから。
◆魔女
それがいいんじゃない。
老いの渋みは、定命の特権。
私じゃ、真似したくても出来ないよ。
◆老人
だが、未練があればまた別だ。
……見てみろ。
これで連れだって外を歩けば、老人と孫だ。
◆魔女
ははっ、いつから人目を気にするようになったの?
◆老人
そういうわけではないよ。
だが……すまないなぁ。
◆魔女
なぁーに謝ってるのさ。
◆老人
謝るとも。
私は……僕は、約束を守れなかった。
不老不死の呪い……君のそれから、君を解くと。
約束したのに、この有り様だ。
◆魔女
手あたり次第、呪物の解析なんかするからだよ。
40年経っても、無茶なのは相変わらずか。
学習してるんだかしてないんだか…。
◆老人
どこぞの世捨て人と違って、社会常識程度は学んださ。
……すまんな。
◆魔女
謝んないでってば。
◆老人
いや……また別の話だ。
孫たちには会ったろう?
◆魔女
……それ込みで、謝ることじゃないんだって。
けど……奥さんは、いつ……?
◆老人
去年の秋だった。
見抜かれていたよ。
私も、もう長くないのだから……君に会っておけ、と。
未練は残さず、遺産を残してやりなさい。
そんなことを言われたよ。
ああ、出来た人だった。
◆魔女
……そっか。
◆老人
何か、変わっただろうかな。
◆魔女
ん?
◆老人
君が街を出た日……私も、君と共に行っていれば……。
そうしたら、今とは、何かが……。
◆魔女
変わらないよ。
あの日の旅が一緒でも、いつか、私は君を置いて行った。
そしてきっと、君は誰かと結ばれて……だから、変わらなかったよ。
◆老人
そうか。ああ……そうだろうな。
そうだろうと思う。
君は、これからどうする?
◆魔女
さあねぇ……。
根無し草なのは変わんないよ。
でも、そうだな……。
家でも建ててみようかなって思う。
歩き回るのは、少し疲れたから。
湖のそばで、小さな木の家で……。
朝は釣りして、昼はひなたぼっこして……。
あっ、絵でもやってみようかな。
◆老人
ははっ、魔女の描いた絵か。
そういうのもあるんだったな。
いいな、それは。
◆魔女
うん、いいでしょ。
だから、ってわけじゃないんだけどさ。
……私にとっても、旅はここで終わりなんだ。
最後が君で、本当に嬉しかった。
◆老人
ああ、私もだ。
……あの写真、持って行ってくれ。
◆魔女
……いいの?
◆老人
私より君に必要だろう?
◆魔女
うん、ありがと。
……私さ。
今日、また会えて……よかった。
また来るから。
きっと、きっとまたいつか……!
◆老人
いいや。
いつか、は……もう言わないことにしたんだ。
◆魔女
……そっか。
じゃあ、さよならだね。
◆老人
ああ、さよならだ。
とはいえ……。
◆魔女
わかってる。
高いお酒を残して、帰るわけにはいかないでしょ。
乾杯しよっか。
◆老人
ああ……湖畔の魔女に。
◆魔女
初恋の……。
◆老人
うん?
◆魔女
初恋の終わりに。