老いない魔女9(完結)
■9 老いない魔女のおとぎ話
◆8の何十年か後。バス停で出会った一人の少女と少年の話です。どちらも十代後半くらいになります。一応、魔女と青年とは別キャラですが……同じ感じだと思います。
◆少女
ふぅ……疲れたぁ。
えっと、次のバスは……。
◆少年
二時間後だよ。
◆少女
ん?
◆少年
次のバス。ここ、田舎だから。
一本逃しちゃうと長いんだ。
◆少女
ってことは、あなたもバス待ち?
◆少年
うん。明日のお祭りに備えて。
◆少女
お祭り?
◆少年
あれ? 違った?
てっきり、君も観光なのかと思ったんだけど。
◆少女
ああうん、観光客ではあるけどね。
お祭りなんてあったんだ?
◆少年
まあ、マイナーだから。
魔女のおとぎ話って聞いたことある?
◆少女
不老不死の魔女のこと?
◆少年
そうそう、昔この辺に住んでたっていう。
街のはずれにある湖に、何百年って生きる魔女が住んでいた。
ある時、魔女は親友の魔法で家族を得た。
一人の恋人と、一人の娘を。
◆少女
あれ、恋人っていうかなぁ……?
◆少年
あはは、弟子だったって説もあるからね。
◆少女
あ、うんうん、そういうこと。
◆少年
それで、その恋人……というか弟子と娘の助けを借りて、魔女は研究を続けた。
そして何十年か経った頃に、ようやく呪いを解く魔法薬を作り出す。
◆少女
……あれ作ったの、9割方パパだった気がするけど。
◆少年
え?
◆少女
や、なんでもないっ、あはは……。
それで?
◆少年
ああ……魔女はようやく、呪いを解いた。
家族と同じ時間の中で過ごし、もう年を取っていた恋人は先に亡くなった。
でも魔女は彼を想いながら時間を重ねて、やがて静かに眠りについた。
◆少女
湖のほとりの小さな家で、思い出の紅葉を眺めながら……。
◆少年
なんだ、知ってたんじゃん。
◆少女
あはは、そこだけね。
でも、それがお祭りと関係あるの?
◆少年
ああ、うん。
魔女とその家族は、街の人を何度も助けてくれたんだってさ。
そんな魔女様たちに感謝を、っていうことで。
この季節に、お祭りするようになったんだ。
ほら、魔女様が好きな、紅葉の時期だし。
◆少女
そっか、そういう……ふふっ、おとぎ話だねぇ。
◆少年
まあね。自分でも信じられないし。
◆少女
信じられないって、何が?
◆少年
いや、家系図によるとさ。魔女の恋人兼助手だった人は、僕の先祖なんだって。
◆少女
……!
そうなの?
◆少年
半信半疑だよ。言い伝えは聞いてるけど、ずっと昔の話だし。
◆少女
そっか。……それでか。
◆少年
え? なにが?
◆少女
ううん。詳しいからさ。
◆少年
でもこの話って、途中で娘がいなくなるんだよね。
その子も不老不死だったらしいんだけど。
魔女と一緒に、魔法薬を飲んだとか飲まなかったとか。
◆少女
んー……少しだけ飲んだんじゃないかな。
◆少年
少し? どうして?
◆少女
思ったより苦かったから……とか?
◆少年
えぇ? ははっ、いやまさか。
◆少女
わかんないよ~?
実際、めちゃくちゃ苦ったのかもしれないし。
それか……憧れたんじゃないかな。
◆少年
魔女に?
◆少女
っていうか、旅に。
湖に落ち着く、ずっと前。
旅の魔女として、あちこち歩き回った話を聞かされてさ。
背中押されたんじゃない?
チビ魔女ちゃんも旅を経験してみたら、って。
◆少年
チビ魔女って、そんな呼び方するかなぁ。
でも、それで少しだけ薬を飲んだってこと?
◆少女
うん。旅が出来る年齢まで、年を取れるように。
魔女にとってのたったひとつの紅葉を、いつか自分の目でも見つけたくて。
◆少年
……見つかったのかな。
◆少女
どうだろ。だってただの想像だし、おとぎ話だから。
よっ、と。
◆少年
あれ、バス待たないの?
◆少女
うん。歩こうかなって。
歩けない距離じゃないから。
◆少年
そっか。……ところで、君はなんで街に?
お祭りが目当てじゃないんだろ?
◆少女
んー、里帰り?
紅葉を見に来たの。
ずっと前、私もあの街に住んでたから。
って言っても、街はずれだけどね。
◆少年
……気になってたんだけど、君がかけてるそのペンダントって薬瓶だよね?
◆少女
そうだよー。めちゃくちゃ苦くて、いつか飲み干す秘伝の薬。
◆少年
じゃあ、君って……。
◆少女
ん?
◆少年
……いや。
聞きたいんだけどさ。
たくさんの綺麗がある中からでもわかる、たったひとつのような……そんな人。
君はもう見つけられた?
◆少女
ううん、まだまだ探してる途中。
見たいもの、知りたいこと……。
魔女様、なんて呼ばれてたあの人には、全然届かないよ。
ね? あなたも、一緒に来る?
◆少年
……驚いたな。
魔女様は一人旅をするものなんだと、思ってたのに。
◆少女
誰かと歩くのって、きらいじゃないからね。
ああ、でも一応言っとくかぁ。
◆少年
ん? 何を?
◆少女
ふふっ、惚れてもいいけど、無茶はすんなよぉ?