ショート台本集 6月3~9日
■のじゃ神
ほほぉう…なぁんじゃ、ずいぶん久しい顔じゃのう。
ふふん、そりゃわかる。
だって神じゃもの、わし。
前に会ったのは…そうさなぁ。
二〇年とか三〇年とか、そんなじゃったか?
寂しかった、とは言わんよ~。
おぬしだって人じゃものな。
移ろい、変わり、転じて散って、また浮かぶ…。
生きとる証拠じゃよ。
泡沫の夢とは、よく言ったものよな。
にしても、久しぶりに見せたと思うたら…なんじゃあ、その顔はぁ?
辛気臭い顔しとるのぉ~。
…悩みごとか?
それとも…わしに叶えてほしい願いでも出来たんか?
…ふふっ、図星じゃよなぁ~。
あー、よいよい、気にするのは無しじゃ。
都合がいい、などと思っとらんよ。
だってほら、困った時は神頼みじゃろ?
わしとおぬしの仲じゃもの。
ほんとはダメなんじゃけどな。
せっかく会いに来てくれたんじゃ。
ひいきしてもいいじゃろ。
…ふふっ、内緒じゃぞ?
■助っ人
いやぁ、どうもどうも。
すみませんねぇ、こんな格好で。
まさか街の顔役にお呼ばれするとは思わず…ははっ。
まあひとつ、よろしくお願いしますよ。
それでぇ…私にどういった用件で?
ああいやぁ、どの用件で、と言うところなんですかねぇ。
だってそうでしょう?
ずいぶんとまあ、めちゃくちゃに荒されてるらしいじゃないですかぁ。
メンツ丸潰れ。
この街も、いよいよ世代交代の時が来たんじゃないか…と。
酒場でみぃんなが、ウィスキー片手に話してますよぉ。
ああ、いえいえ失礼。
あなたを侮辱するつもりはないんですよぉ。
ただ私は…ははっ、周りの声というやつをね、言ってみただけで。
ところでぇー…そんなあなたが、私に何をやらせるんですぅ?
ああー、やっぱり待った、今のは無し。
シンプルに行きましょうかぁ。
シンプルが一番、他に勝るものはない。
…ちゃんと言ってくれ。
どうか、お力を貸してください…と。
それで一切合切、私が片付けよう。
約束しますよぉ。
さあ、どうぞ…?
…聞こえないなぁ。
もっとハッキリと、もう一度。
腹から声を出して。
…ああ、これでようやく聞こえた。
ははっ、そこまで言われたら仕方がない。
お任せください。
あとは私が引き受けましょう…。
■姐さん
ん…? 目ぇ覚めたかい?
ああ、起きないでいい。
じっとしときな。
また徹夜でもしてたんだろ?
誰もいないんだ。
仮眠室、そのまま使ってな。
本当なら家まで送ってってやりたいんだがね…。
…ん?
ああ、今日は臨時休業だよ。
台風さ。
バスも電車も止まっちまって、会社も休み。
あんたが寝てる間にね。
…あたしかい?
そうさねぇ…お節介ってとこかね。
休業の連絡入れても、よく職場に泊る部下が一人だけ既読つかないもんでね。
まさかと思って来てみたわけさ。
…ふっ、謝るんじゃない。
あんたの性分わかってるのに黙認しちまってた、あたしの監督責任もあるさ。
だから…すまなかった。
…ぷっ、ふふっ、なんだい、その顔は。
珍しいじゃないか。
そんな風にうろたえるとこ、初めて見たよ。
さぁてと…詫びついでに奢るよ。
どうせしばらくは動けないんだ。
いろいろ買い込んできたのさ。
インスタントのラーメンに、つまみに、酒も少々…。
普段から散々、社畜させられてんだ。
宴会場に使ったってバチは当たらないさ。
ちゃんとあんたが目ぇ覚ましたら、一杯やろうじゃないか。
■後輩
んんー…ああ、誰かと思えば先輩っすかぁ。
なんだぁ…。
…別に、なんでもないですよぉー。
むぅ…いいじゃないすかぁ、部室で寝たって。
どーせ幽霊部員ばっかなんだし…。
…拗ねてないっすよ。
…拗ねてないっ!
はぁ…もういいっすよ、拗ねてます拗ねてます。
拗ねてる、っつうか…傷心中です。
…先輩。
先輩って彼女いたこと…いやないっすよね、すんません、ライン超えました。
あだっ!?
女の子の頭叩きますか普通ぅ!
ちぇー…。
…恋人って、なんなんすかね。
だって、大人なら結婚前提に…とか言うんでしょうけど。
なんとなく好きになって、告白して、フラれて…。
なんでこんな想いしなきゃいけないんすかね。
…付き合ったら、わかるのかな。
先輩、試しにウチら…あー、いや、すんません…。
先輩が嫌とかじゃなくて、今のは…。
今のは、ガチめに…失礼すぎました。
ホントすんません…。
もー、ほっといていいんすよ、こんなめんどくさい女。
そんな慰めなくたって…へ?
…ガチで言ってんすか、それ。
う…うぅー…っ、むぅー…っ!
やめてくださいよぉ、もう…!
今そういう台詞言われたら…オチますからぁ…!
■冷ためメイド
む…ご主人様、どうかされましたか?
ずいぶん異様な視線を感じるのですが。
悪寒がはしるというか、総毛立つというか。
まともな男性がしそうにない眼差しと言いましょうか。
…いえ、誰もあなた様の目つきだなどと、言っていませんよ。
偶然、ご主人様がいる方角から。
偶然、ご主人様の目線の高さより。
さらに偶然、そんな視線を感じただけですので。
それとも心当たりがあるのですか?
そんな視線を送る人物に。
…何度言い寄られても、ダメですよ。
私とあなたは主従なのですから。
それとも…駆け落ち、しちゃいますか?
みんなに内緒で、二人っきりで、どこか遠くの誰も知らない土地で…。
…私と、一緒になってくれる?
…ノリノリなとこ悪いですが、冗談ですよ。
はいはい、申し訳ございません。
ご主人様の男心を弄んでしまって。
いつかは駆け落ちしてあげますよ。
ちゃんと勉強して、家督を継いで、みんなが安心できたらね。
…待ってますから。
■騎士とサキュバス
近頃、嫌な噂を耳にする。
この辺りの街道で、夜な夜な人が消えるらしい。
稀に戻っても廃人同然。
しきりに誰かを追い求め続ける。
それは遠く見た貴族の令嬢であったり、死別した恋人であったり…。
はたまた、存在しない理想であったり…と。
…お前が魅せたものだな、夢魔。
人に幻を植えつけ、その夢から生気を吸い取る悪魔。
…わかっている。
お前を斬ったとして、彼らは元に戻らんよ。
そのくらいの知見、私も弁えている。
とはいえ、これ以上の犠牲者は出せんだろう。
人の身にとって、お前の見せる夢は長すぎる…。
…ふん、私にも夢を見せるか。
…それが私の求める体か。
ああ、知っているよ…よく知っている。
今も愛する、ただ1人の顔だ。
…お前の夢に溺れ、私が斬った女の顔だ。
サキュバスよ、もう聞こえていないだろうがな。
…彼女を穢すな。
それは、お前の触れていい夢ではなかったのだ。
■かっこいいと思うお姉さん
■かっこいいと思うお姉さん
全員、よく聞け。
着陸まであと5分。
状況を確認するわ。
ターゲットはアルファチームが確保してる。
ただし回収地点は暴動状態だ。
現地警察の封鎖線も機能していない。
よって陸路で進み、我々だけで防衛線を固める。
予備地点を制圧し、安全を確保したら撤収。
ブラボーチームは私が率いる。
ビル伝いに前進して予備地点に向かう。
チャーリーチーム、別動隊として右側面を固めろ。
念を押すけど、発砲は可能な限り避けること。
目立つ真似もなし。
合流前に暴徒化した民間人に囲まれたら、こっちは成す術がない。
93年のソマリアも、2012年のベンガジも、私はどっちもごめんよ。
…他に動けるチームはいない。
私たちが即応部隊になって、独力でやり遂げなきゃよ。
…よし、行きましょう。
降りろ。
アルファ、こちらアクチュアル(小隊指揮官)、現着した。
ブラボー、チャーリーは地上に展開。
このまま予備地点を確保する。
もう少しだけ我慢なさい、以上。
さて…チャーリー、あの集団を下がらせろ。
前進。