フリー台本 春時雨(女性2人読み)
友利さん、たねまきさんに演じていただいた台本と同じものです。
以前書いてお蔵入りになるかと思っていたのですが…お二人に本当に感謝です…ッ!!!
よろしければ改変・アドリブなど含め、ご自由にお使いくださいませ。
配役
女性A……JK。コミュ障。
女性B……ゆるふわお姉さん。
備考
基本的にAのモノローグと、AB両者の会話劇です。
ラストだけBのモノローグになります。
「春時雨」
<A:モノローグ>
桜の花を落とす、雨の中を。
小走りになって軒下へ駆け込んだのが、二〇分前。
<A>
止まないなぁ……。
<A:モノローグ>
いつも閉まってる古本屋の前で、そんな呟きが、ふと漏れた。
シトシトと落ちる、しずく。
短いひさしから、ちらりと仰いだ空は、それほど分厚い雲でもないのに。
桜並木が、すっかり花を敷いている。
と、
<B>
止みませんね。
<A:モノローグ>
私の独りごとに応じる、誰かの相槌。
突然やってきたそれに、ぎくりとしたまま目を向けると、いつからだろう。
一人の女性が、隣にいた。
<B>
雨宿りですか?
<A>
え、っと……は、はい。
<A:モノローグ>
たどたどしく答えた私の前で、その人はくすっと微笑む。
私より一回り年上だろう。
私服を着ていたからじゃない。
落ち着いた雰囲気が、浮かんだ微笑みが、ずっと大人びて映ったから。
<B>
変な質問。
<A>
え?
<B>
だって、雨宿りしてる人に、雨宿りですか、なんて。
ちょっと間抜けですよね。
<A>
い、いえ、別に……。
<A:モノローグ>
言葉に詰まる。
その人の言い分に納得したからじゃない。
人見知りの、私の限界だ。
<B>
電車で来たの?
<A>
え、えっと……。
<B>
あなたの制服。
それ、二駅くらい向こうの学校でしょ?
友達が通ってたから、知ってるの。
<A>
あ、その……はい。
今日は、えっと……部活が……。
<B>
ああ、早く終わったんだ。
お疲れ様。
<A>
ど、どうも……。
<A:モノローグ>
なぜか照れ臭くなって、はにかんでしまう。
話しやすい人。
いつの間にか敬語が抜けていて、そのおかげで、変に気兼ねしなくて済んでいる。
でも私の方はどうだろう、と。
心の奥で、不安が生まれた。
話しづらい相手に声をかけた、なんて思われていたらどうしよう。
けれど、
<B>
そっかあ、部活かぁ。
日曜日だもんね。
懐かしいなぁ。
学生さんは大変だ。
<A:モノローグ>
私の不安なんて、杞憂だとでも言うように。
その人は、雨に向かって微笑んでいる。
<B>
じゃあ今は帰り道?
<A>
あ、いえ、その……家は、もうちょっと先の駅で……。
友達の、ところに……。
<B>
遊びに行くんだ?
いいなぁ。
……ん?
どうしたの?
<A>
い、いえ、別に……。
<A:モノローグ>
きょとんとした顔に覗き込まれて、迷った。
打ち明けるべきか、どうなのか。
<B>
……もしかしてさぁ。
<A>
え?
<B>
……彼氏の家?
<A>
なっ……ち、違いますよ!
か、彼氏なんて、いたことないし……!
<B>
えー、そうなの?
<A:モノローグ>
クスクスと笑うこの人から、思わず目を逸らした。
耳まで赤くなった様子を見せるのが、恥ずかしくて。
<A>
彼氏、とかじゃなくて……その、喧嘩……しちゃったんです。
<B>
友達と?
<A>
……はい。
<A:モノローグ>
喧嘩の内容は、もうよく覚えてない。
たぶん些細なことだった。
その些細なことが、あの子にとっては大事なことで。
否定されて、私にもそれが許せなくて。
<A>
部活、一緒なんですけど……今日も来なくて。
わ、私……!
人と話すのが苦手だから……あっ!
お姉さんと話すのが嫌って意味じゃ……!
<B>
わかってるよ。
<A:モノローグ>
安心しなさい、と告げる微笑。
促されて、私は言う。
<A>
こんな、私だから……友達、少なくて。
で、でも……!
謝っても……許してくれるのかな、って……。
<B>
うん、許してくれる。
仲直りできる。
<A>
なっ……!
そ、そんな簡単に……!
<B>
簡単じゃないよ。
<A:モノローグ>
今までと同じ微笑み。
安心させてくれる、悪戯っぽい、大人の女性の微笑み。
けれど、今はそこから、あのからかうような雰囲気が消えていた。
<B>
話すのが苦手なのに、ここまで来たんでしょ?
簡単じゃないよ。
あなたにとって、すごく勇気のいること。
そうでしょ?
<A>
それは……そう、ですけど。
<B>
友達がそんなに頑張ってくれたんなら、向こうもわかってくれるよ。
きっと、その友達もきっかけが欲しいんだから。
<A>
……そう、でしょうか。
<B>
うん、きっとね。
お姉さんの言葉を信じなさい。
あ、ほら。
吉兆だよ。
<A:モノローグ>
言われて前を見ると、長かった雨が止んでいた。
雲と一緒に、どこかへ飛んでしまっている。
あとに残ったのは、日差しをはじく水溜まりと、落ちた桜の花びらと……。
<B>
行ってらっしゃい。
仲直り、きっと出来るから。
<A>
……はい!
あ、あの……!
<A:モノローグ>
背中を押された私は、ひさしから出てすぐ振り向いた。
<A>
あ、ありがとうございました……!
その……また、会えますか?
<B>
うん、きっとね。
頑張れ、女の子。
<A:モノローグ>
小走りになる私の後ろで、あの人が、手を振ってくれているのがわかる。
不意に吹き抜けた風が、落ちそびれた花びらと、アスファルトの桜を静かに舞わせる。
きっと出来る。
春の雨上がりとあの人が、そんな想いを信じさせてくれた。
<場面転換。五秒程度の間>
<B>
さーてと。
私も、久しぶりにお店開けるかぁー。
<B:モノローグ>
しばらく触れてないシャッターを開けながら、さっきの女の子が脳裏によぎる。
<B>
可愛い子だったなぁ。
本当にまた来てくれたりしないかな。
……わっ、と。
<B:モノローグ>
ひさしが破れていたらしい。
水が一滴、落ちてくる。
たぶらかす前に店番しろ、と。
この古本屋に小突かれた気がした。