老いない魔女3
■3 老いない魔女と軋む微笑
◆2から一週間後。青年中心の視点。『』内の台詞は独白です。
◆『青年』
祖父の友人だったという魔女様の小屋へ住み始めて、そろそろ一週間
いつの間にか、僕はすっかり助手扱いされている
食事を作ったり、本を探したり、掃除をしたり
助手というより雑用だけど、それでも、誰かに必要にされるのは……
◆青年
あ、そろそろか。
魔女様。起きてください、魔女様。
◆魔女
んー、うぅ……?
あぁー、助手くんかぁ……。
◆青年
ええ。おはようございます、魔女様。
◆魔女
おふぁー、んにゃ……おはよー。
◆青年
顔拭いてください。濡れタオル、用意しておきましたから。
◆魔女
んー、あんがとー……もう三日たったんだぁー?
◆青年
そうですよ。きっちり72時間。
ははっ、ふにゃふにゃですね。
◆魔女
まーねぇー……んん? 今笑ったなぁー?
◆青年
いやだって……ぷっ、そんなふにゃふにゃの顔されてたら……ふふっ。
◆魔女
わーらーうーなーっ。
そんなだと、もーっとじいちゃんに似ちゃうぞー。
◆青年
ああ、祖父にも笑われたんだ。
◆魔女
そーだよー、まったくひどい弟子だったんだからぁー。
ふわぁ、んにゃ……まいっか。
◆青年
コーヒー飲みます?
◆魔女
んー、ありがとー……えへへ。
助手くんは良い子だねぇ、良い子のままでいてほしい。
◆青年
祖父みたいな度胸がないだけですよ。
でも大変ですね、魔女様。魔法を使う度に眠っちゃうんですか?
◆魔女
まあ、うん……反動みたいなもんだよ。
私って魔法が下手だからさ。
◆青年
下手……? 魔女様なのに?
◆魔女
そうそう。魔力とかマナとか、呼び方はいろいろあるけどさ。
私、それが極端に少ないのよ。
たぶん、潜在的には助手くんや助手くんのじいちゃんのがずっと上だよ。
◆青年
またそんな……マジですか?
◆魔女
マジマジ、超マジ。……あ、マジックだけに!
◆青年
……は、ははっ。
◆魔女
さすがに誤魔化す技は覚えたけどねー。
◆青年
あ、流すんですね。
◆魔女
うるさいよっ!
……ま、まあともかく? 総量はホントに少ないのよ。
だから大きめの術やる時は、代わりに生命力使ってるんだー。
◆青年
生命力……そっか、死なないから。
◆魔女
そういうこと。
まあ死なないってだけで、見ての通り反動は来るんだけどね。
回復するまで寝ないと、さすがに連続で使えないし。
◆青年
……あの、本当にすみません。
そこまでしてもらって。
◆魔女
おいおいー、そんな暗くなるとこじゃないぞー?
それに三日なら軽い軽い。
前に魔王さんと殴り合った時なんてさー、100年だよ、100年?
喧嘩して起きたら一世紀過ぎてんだから。
いやぁー、びびったよねぇー。
あの頃は私も魔王さんもやんちゃしてたなぁー。
青春だねぇ。
◆青年
魔王と決戦なんて、青春の1ページには重すぎますよ……。
え、でも魔女様、魔王を倒したって伝えられてましたっけ?
活躍した、みたいな伝説は聞いたことありますけど……。
◆魔女
あー、あれね。正確には倒したわけでもないんだけど……ほら、私は寝てるわけじゃん?
◆青年
はあ。
◆魔女
寝てたら祝賀会もできないでしょ?
◆青年
まあ。
◆魔女
だから、一緒にいた王子とか騎士が倒したことになってんの。
◆青年
詐欺じゃないですか!
完全に手柄横取りされてるじゃないですか!
◆魔女
えぇ~、そんなことないよぉ~。
実際、私あの時は切り札扱いだったからさ~。
魔王さんち行くまでは仲間任せだったし、9割あの人たちの手柄なんだから。
四捨五入すれば嘘じゃないってー。
◆青年
四捨五入で伝説を片付けないでください……。
◆魔女
まあまあ。ともかく、助手くんが気にすることないよ?
でも、ふふっ……ありがとね。
そういうところは、じーちゃん似だぁ。
◆青年
い、いえ……それは、別にいいんですけど。
◆魔女
照れるなよ~。
んー、だけどごめんね。今回は収穫なしだわ。
◆青年
……大丈夫ですよ。最近、ここの暮らしにも慣れてきましたから。
今すぐ腕が治って、じゃあお疲れ様……とか言われても。
そっちの方が困りそうですから。
◆魔女
……親御さんと揉めちゃった?
◆青年
揉めた、というか、なんというか……。
祖父は……魔法のことばっかりでしたから。
僕みたいな孫以外で祖父に接してたのは……たぶん、祖母だけですよ。
だからその、僕は祖父に似てるみたいだし、呪われてるし。
あんまり、顔合わせたくないみたいですね、あはは……。
◆魔女
それ、私の……ううん。なんでもないや。
◆青年
ええ……なんでもないことに、しておくてください。
食事、何か作ってきます。
◆魔女
……うん、ありがと。