フリー台本「ナイチンゲール 1 鷹の夢」 (女性1:性別不問1)

別サイトに載せていて、移転しようと思ってたのにすっかり忘れてしまっていた台本です。
ちょっとしたト書き含めて3500字くらい。
内容は、戦争の後に廃墟で一緒に暮らしてる女の子とロボットのお話になります。
アドリブ・改変など含めて、よろしければご自由にお使いくださいませ!

キャラクター
アイリ:人間の女の子。十代半ば~後半くらい…? 結構明るくて活発。
ホーク:ロボットの兵士。無感情だけどだいぶ過保護。


■本文
■鷹の夢
◆廃墟の片隅。ホークのもとに来るアイリ。
アイリ:ホーク? いるよね?
 
ホーク:ああ。
 
アイリ:わっ!? びっ…くりしたぁ。急に喋んないでよ、暗いんだから。
 
ホーク:私にはティアーがある。
 
アイリ:てぃあー…? なにそれ?
 
ホーク:熱源および光源増幅型の複合センサー。平たく言えば暗視装置の一種だ。
 
アイリ:ねつ…ん? あんし…?
 
ホーク:暗闇でも見える。
 
アイリ:最初からそう言いなよ。わかんないって。
アイリ:っていうか、人間にそんな便利機能ないから。
 
ホーク:人の眼球は、高精度のセンサーだと聞く。違うのか?
 
アイリ:ええと…夜目が効くとかってこと? そりゃ多少は見えるけど…。
 
ホーク:了解した。センサー自体の性能ではなく、処理能力の限界か。
 
アイリ:ん? 馬鹿にしてる?
 
ホーク:ネガティヴ。劣っていると判断しただけだ。
 
アイリ:それを馬鹿にしてるって言うんだよなぁ…!
アイリ:はぁ…まあいいや。使えそうなの持ってきたよ。
 
ホーク:すまない。今日の収穫は?
 
アイリ:全然。誰かいるかと思ったんだけどさ。
 
ホーク:他の生存者がいる可能性は高い。事実、アイリは生き延びている。
 
アイリ:ホークもね。…あーあ、名前通り飛べたらいいのにね。
 
ホーク:動力ユニットに鉄骨が刺さっている。これを抜いた場合、私は20分以内に機能停止する。
 
アイリ:…わかってるよ。
 
ホーク:加えてもう一点。
 
アイリ:ん?
 
ホーク:私をホークと呼ぶのは君だけだ。私はXB2バリスティック・ドローン、製造コードは…。
 
アイリ:いいからいいから、そういうのは。それにさ、胸にタカのマークあるじゃん。
 
ホーク:これはワシだ。私が第101空挺師団に所属することを示す。
ホーク:エンブレムを元に呼ぶなら、イーグルが正しい。
 
アイリ:えぇー? ホークのがかっこよくない?
 
ホーク:不明。アイリの美的感覚か?
 
アイリ:びてき…んー、そうとも言う、のかぁ?
アイリ:…ホークってさ、結構そういうとこ馬鹿だよね。
 
ホーク:同意する。
 
アイリ:え? 認めるんだ?
 
ホーク:私の培養脳は処理装置に過ぎず、加えて私は軍のプロトタイプだ。
ホーク:処理速度を除いた性能は求められていない。知性という点ではアイリに劣る。
 
アイリ:…そういうこと言ってんじゃないんだよなぁ。
 
ホーク:そうなのか?
 
アイリ:うん。ま、いいけどさ。…やっぱあたしたちだけなのかな、生きてるのって。
 
ホーク:先ほども言ったが、他の生存者がいる可能性は高い。諦めるな。
 
アイリ:でもさ…もう三カ月だよ?
アイリ:爆弾も戦闘機も、銃声までしなくなって…この街から、誰もいなくなって…。
アイリ:…ホークだけだよ。誰かいますかって言って、返事してくれたの。
 
ホーク:…私もそうだ。
 
アイリ:え?
 
ホーク:信号は何度となく送った。だが返答はなかった。いや、それ以上に…。
 
アイリ:以上に…?
 
ホーク:…私が生まれたのは、自動化された生産ラインの中だ。仲間は同じ無人兵器だった。
ホーク:生まれた時も戦っている間も、私は人間を見たことがない。
ホーク:アイリだけが私にとっての人間だ。
 
アイリ:え、っと…わ、わかりやすく言うと?
 
ホーク:アイリでよかった。私を見つけてくれたのが、君でよかった。
 
アイリ:あ、そういう…あはは、急に言われると照れるなぁ~。
 
ホーク:だから提案がある。
 
アイリ:…提案?
 
ホーク:ここには食料がある。水もある。まだ動く車両まで残っている。
 
アイリ:え…ああ、うん、そうだけど…。
 
ホーク:他の生存者を見つけられないのは、この廃墟から離れないことが原因と思われる。
 
アイリ:…やめとこうよ。
 
ホーク:私は動けない。だがアイリは動ける。ここに居てもいずれ食料は尽きる。
 
アイリ:…ねえ、ホーク。
 
ホーク:アイリが生存するためにも、ここから離れた方が…。
 
アイリ:やめなってば…!
アイリ:っ…やめてよ、そういう提案は…!
 
ホーク:…賭けではある。しかし、可能性は高い。
 
アイリ:ホークはどうすんの…! あたしがいなくなったら、ホークだって…!
 
ホーク:私はホークではない。私に翼はなかった。だがもう、アイリがくれた。
ホーク:君が、翼を見せてくれた。私をホークにしてくれた。私にとっては望外の喜びだ。
 
アイリ:だけど…!
 
ホーク:頼む、アイリ。明日、ここを出発しろ。
 
 
 
◆前話の翌日。廃墟の中にいるホーク。()内の台詞は独白。
ホーク:(いつもの時間だ。アイリは…もう旅立ったのか)
ホーク:(そうであって欲しい。先ほど聞こえた音…あれは銃声のようだった)
ホーク:(敵か、味方か…何者かがいる。鉢合わせる前に出発できたはずだ)
ホーク:(だが…だがもし、そうでなかったら)
ホーク:(あの銃声が、アイリを狙ったものだったなら…)
 
アイリ:ホーク…?
 
ホーク:…! アイリ? まだ出発して…。
 
アイリ:ああ…うん…ごめん。
 
ホーク:どうした? アイリ、何があった?
 
アイリ:いや…あはは…撃たれちゃ、って…。
 
ホーク:アイリ? アイリ、待て。私のところに来い。傷を見せろ。
 
ホーク:(5メートル。なぜ動かない。なぜ動けない)
ホーク:(センサー起動。熱量が低下している。失血によるものか)
ホーク:(対人弾頭でないなら助かるはず。医療キットはいつも持たせていた)
ホーク:(5メートル。この5メートルさえ動ければ…)
ホーク:(動けば…私は、20分で…)
 
アイリ:ホー、ク…?
 
ホーク:心配するな。大丈夫だ。君は助かる。
 
ホーク:(鉄骨は…外れた。パワー自体は落ちていない。動ける)
 
ホーク:アイリ、聞こえるか? アイリ?
 
アイリ:…聞こえ、てる…。
 
ホーク:落ち着け。大したことはない。今から手当てをする。
ホーク:(傷口は小さい。おそらく徹甲弾。貫通している。充分助けられる)
 
アイリ:ごめん…ごめん、ね…あたし、あいつ…ホークの、仲間だと思って…。
 
ホーク:大丈夫だ。重傷ではない。君は助かる。…アイリ、聞こえているか?
ホーク:…脈はある。呼吸も…大丈夫だ、気絶しただけだ。
ホーク:止血は…完了した。アイリは助かる。助かるはずだ。だが…。
 
アイリ:ホー、ク…。
 
ホーク:(うわ言か。…振動を探知。何かが近づいてくる)
 
アイリ:ホーク…やだよ…傍に、居て…。
 
ホーク:…心配するな。私は、君の傍にいる。少し…様子を見てくるだけだ。
 
ホーク:(自己診断…開始。…駆動系、問題なし。動力…予想より消耗が激しい)
ホーク:(残り、9分)
 
アイリ:ホーク…。
 
ホーク:ああ。すぐに戻る。
 
◆廃墟を出るホーク。目の前に巨大な影を見つける。
ホーク:(目標確認。識別…SZ113、自律戦車。IFFの応答…無し。当然か)
ホーク:(機銃が熱を持っている。ごく最近の内に発砲している)
ホーク:(血を辿って来たか。標的の…アイリの)
ホーク:(自律戦車…相手をするには、私の同型が一個小隊は必要だろう。しかし…)
 
ホーク:…私たちの戦争というのは、どうやらもう終わっているらしい。
ホーク:だから、騒々しくしないでくれ。家族が寝ているんだ。
 
◆数秒の間。
◆戦車を倒した直後。ボロボロのホークが、アイリのもとに戻ろうとする。
ホーク:左脚部…破損。右脚部…反応なし。
ホーク:この程度の損害で…よくも…倒せたものだ。
ホーク:バッテリーは…残り、二分…。
ホーク:帰らなければ…アイリ…待っている…。
 
◆アイリの傍まで辿り着く。
ホーク:もってくれ…あと、少しでいい。
ホーク:ああ…アイリ…脈拍、安定…している…。この子は、助かる…。
 
アイリ:ホー、ク…。
 
ホーク:…ああ、ここに…いる…。傍に、いる…私は、まだ…もっと…。
ホーク:もっと…もう、少しだけ…君を…。
ホーク:…ああ…君で、よかった…。
 
◆数秒の間。
◆朝になってアイリが目覚める。
アイリ:ん…うぅ…ホーク…?
アイリ:あ、れ…あたし、怪我…手当てされてる…なんで…。
アイリ:ホーク…?
アイリ:…っ! ホーク、なんでここに…動いたら…!
アイリ:動いた、ら…。
 
◆一拍置いて、泣くのを我慢してる吐息。
◆その後に笑い泣きのようなイメージで。
アイリ:…馬鹿だなぁ、ホークは…。
アイリ:こんなとこで寝たら、風邪ひくよ…?
アイリ:たぶん、ホークはさ…ロボットが風邪ひくかって…また言うんだろうけどさ。
アイリ:でも…わかってるよ、そんなこと。…ちゃんとわかってる。
アイリ:だけど、やっぱ馬鹿だよ…普通さ、ホークが見送ってくれるとこでしょ…?
アイリ:なのになんで、先に飛んでっちゃうの…?
アイリ:だから…ホークが、そういう馬鹿だから、今だけ…。
アイリ:今だけ、ここに居させてよ…。
アイリ:そしたら、あたしも…ちゃんと飛べるようになるからさぁ…。

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