レガシーな金融業界をぶち壊す可能性を秘めたpaildの戦略を勝手に語る
最近注目しているサービスのひとつがpaildです。まだリリースされる前なのですが、導入前インタビューという斬新な手法を編み出したことで界隈のごく一部の注目を集めています。
とはいえ、Webサイトのタイトルにある「Visaで使える法人カード」といわれたところでよくわかりません。初見では「だからどうした」としか思わなかったのですが、よくよく考えてみるとゲームチェンジャーになり得る可能性を秘めたサービスに思えています。
中の人に話を聞く限りでも非常に面白いサービス(になる可能性がある)だと感心してしまったので、フリーランスのプロダクトマネージャー目線でこのサービスの面白さを語ります。
※ paildの中の人に許可を取って書いています(正確には、許可を取ってるうちに中の人になってしまったので、半分宣伝記事になりました。後述。)
法人カードが作れなかった経験があるからペインは痛いほどよくわかる。
現代の会社経営においてクラウドツールの利用は不可欠であり、それらの支払いはほぼ全てクレジットカードな訳です。つまり、クレジットカードがないと事業自体が進まないんですよね。
それなのに、法人って案外カードを作るのが面倒なんです。そもそも銀行口座がないとカードは作れないのですが、この銀行口座を作るのも一苦労だったり。私が過去に会社を経営していた時も、このペインにぶち当たって、結局個人カードで全てを乗り切ったくらいです。
と、ここが大事なポイントです。
・現代の会社経営においてクレジットカードは創業時から必要
・しかし、一番必要としている創業期のタイミングでクレジットカードを持つことができない
paildの話を最初に読んだときは、「確かにこのペインがなくなると良いよなあ」と思ったりして、「お手伝いしている会社で使いたい!!!」と熱量高く思ったところでした。ちょうど分社化して、クレジットカードがなくてひいひいしていたので。
とはいえ、そのお手伝いしている会社が法人カードを手に入れた後は、paild別にいらないじゃん、、、と手のひらを返したのでした。
法人カードを作ってどうやってマネタイズするんだ問題
手のひらを返して終わってはつまらないので、paildのビジネスモデルについて考えてみます。
Webサイトを見る限り「カード一枚につき300円」という価格が書かれています。ふむ。つまりはSaaSと同じビジネスモデルで展開していくわけですね、と。
ところで、私はBtoB SaaSとの付き合いが長いこともあり、この一人当たり300円という金額はかなり厳しい戦いになるとみています。
私の大好きなSmartHRの利用料金をみてみても、一人当たり600円/月〜と言う価格帯です。これくらいの価格で戦わないと、正直しんどいです。
私自身の過去の経験からで恐縮なのですが、
・クライアント企業内における従業員の利用率をあげられる要素があるか
・アップセルしていける要素があるか
といったことがBtoB SaaSでは大切になってきます。
その上で、ARPUがせめて数万円程度にならないと、かなり辛い戦いになります。CAC数万円でユーザー企業を獲得できるなんてことはほぼ幻想ですし、ARPUが1万円以下だと代理店を利用したセールス活動もかなりハードルが上がってしまいます。
・法人カードを利用する人が企業内にどれだけいるか?
・すでに法人カードを保持している会社で使うメリットは?
この辺りをシビアに考えると、法人カードの発行単体だけではビジネスとして成立しづらいのは当然の帰結かと思います。もちろん、数億枚などのカード発行枚数まで成長させられれば良いのでしょうが、スタートアップの体力でそこを目指すのはあまり現実的ではありません。(あれだけCMしている楽天カードですら2019年3月に1700万人ですから。)
法人カードを切り口とした攻め方は他にあるか?
少し考えれば出てくる攻め方として、他のサービスとの合わせ売りでのアップセルという方法が考えられます。その上で、その会社内でほぼ全員が利用するものと掛け合わせることができれば、会社内での利用率・単価ともに上げていくことができます。
paildの場合、それが経費精算システムとの掛け合わせになります。
この辺りはCoral Capitalの記事に詳細が記載されていましたので詳しくはそちらをご覧ください。
抜粋しておくと下記のような感じです。
経費を使う人数が増えるにしたがって、その手間は余計にかかるばかりです。より多くの費用を追跡する必要があり、より多くの人が立替金の払い戻しを受ける必要があります。コーポレートカードによって手間は軽減されますが、誰がいつ、何にいくら使うことができるかを追跡・管理したい場合には、それほど役に立ちません。
〜〜 中略 〜〜
直感的に操作できるオンライン・ダッシュボード上で、カードの発行、個別の限度額の設定、権限の管理、カードの取り消しが即座にできます。
ざっくりといえば、誰がいつ、何にいくら経費を使ったかを、ダッシュボード上で管理できる未来があるということです。申請/承認を行うためのワークフローシステムと組み合わせていけば、決裁がおりた金額だけをその人のカードに付与し、実際にその費用が支払われたかどうかも一元管理していくことが可能になりそうです。
会社内のお金周りという観点では、これは一つのゲームチェンジャーになり得る形だなと、素直に思います。
経費精算は本命じゃなく、そのあとの新しい金融をどう作るかがど本命?
わかりやすい展開の一つとして経費精算という領域について書いてみましたが、この事業の本命はそこではないと考えています。
個人のウォレット領域と同様に、ウォレット内に預けられた資金を元手に投資商品や保険商品を新しく作ったり、銀行に変わる産業育成のスキームを持っていくことが、長期目線で見たときの本命だと思っています。個人と異なり、攻め方によっては莫大な金額をウォレットに入れることができる可能性を秘めている点が、法人決済領域ならではのポイントかなと思います。
この辺りはKanmuの8makiさんの記事がわかりやすいので、そちらを読んでいただくと良いかなと思います。
もちろんこれらは10年どころか数十年単位で仕込み、実行していく必要がある息の長い戦いではあるので、かなり先の妄想のような未来といった位置付けではあるのですが、面白い戦いになるのだろうなと想像しています。
まとめ
法人決済領域は、個人間の決済よりもまだまだ遅れている領域です。その背景には様々な歴史的経緯や政治的圧力があり、まだまだ誰も風穴が開けられていない状況です。
まずは法人カードが発行できること、そしてその上で経費精算という領域に食い込み、ウォレットとしての機能を厚くしていくこと。さらにはウォレット内の資金を生かした金融商品や独自サービスをどれだけ作れるかといった、開発力と政治力の双方が問われる領域を戦い抜くことで、Handii社はレガシーな金融業界に風穴を開けようとしているようです。(この辺りはお茶を濁されたので、直接CEOの柳さんにでもDMで色々聞いてください)
おまけ
noteで色々書く許可を取る際にpaildの中の人と色々と話していたところ、流れでHandii社の採用活動をお手伝いすることになりました。
いわゆるプロダクトマーケットフィットさせていくための人を熱い気持ちで探していますので、我こそはという方、お気軽にご連絡ください!
おまけその2
気が向いたら他のサービスも勝手に語ります。語って欲しいサービスがあればTwitterでDMでもしてください!
まいにちのご飯代として、よろしくお願いします。