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日本政府の「核兵器禁止条約」会議不参加――核抑止と独立の狭間で
2025年3月に米国で開催される「核兵器禁止条約(TPNW)」の締約国会議に、日本政府はオブザーバーとしても参加しないことを正式に決定した。岩屋毅外相は、「日本が会議に出席することは適切とは言えず、誤ったメッセージを発信する可能性がある」と述べた。
この決定を受け、日本国内では賛否が分かれている。公明党や被爆者団体である「日本被団協」は、政府に対しオブザーバー参加を求めていた。しかし、日本政府は最終的に「核抑止力の重要性」「外交的な影響」を理由に、不参加を選んだ。
本記事では、この決定の背景にある安全保障の現実と外交的な戦略、そして日本の核政策の今後について考察する。
日本が「核兵器禁止条約」に慎重な理由
1. 安全保障環境の変化
日本政府がTPNWへの関与を避ける最大の理由は、安全保障環境の厳しさにある。岩屋外相の発言にもあるように、日本周辺では核戦力の増強が進んでいる。
中国:急速な核戦力増強を進め、弾道ミサイルの精度と射程を向上させている。
ロシア:ウクライナ侵攻後、核の脅威を強調し、西側諸国へのけん制を強めている。
北朝鮮:核開発を加速し、「日本を射程に収めた核戦力」を持つことを明言。
この状況下で、日本は米国の「核の傘(拡大抑止)」に依存しており、TPNWへの参加がこの抑止力に悪影響を及ぼす可能性を懸念している。
2. 「核兵器禁止」と「核軍縮」の違い
TPNWは、核兵器の「完全禁止」を目指す条約であり、核保有国は一切参加していない。一方で、日本政府は「核兵器の削減・管理」を目指す「核不拡散条約(NPT)」の枠組みを重視している。
この点で、日本政府の立場は一貫している。TPNWに関与すれば、核抑止力の必要性を訴える日本の主張が矛盾を抱えることになり、外交的な影響が出る可能性がある。
3. 同盟国の対応
日本と同じく米国の核抑止力に依存する国々の対応も、今回の決定に影響を与えた。
NATO諸国(ドイツ・フランスなど):オブザーバーとしての参加はしたものの、正式な条約加盟には否定的。
韓国:TPNWには関与せず、むしろ米国との「核シェアリング」の可能性を模索中。
日本がオブザーバー参加を選択すれば、米国や他の同盟国との足並みが乱れ、抑止力の信頼性が低下する可能性がある。
日本の核政策の今後
1. 被爆国としてのジレンマ
日本は唯一の被爆国であり、「核兵器廃絶」を求める国内世論は強い。一方で、国際政治の現実は厳しく、日本単独で核廃絶を推進するのは難しい。
そのため、日本政府は「核軍縮の推進」と「核抑止の必要性」の両立を図ろうとしている。しかし、この立場が「どちらつかず」と見なされる可能性もあり、今後の国際社会における核政策の発信力が問われることになる。
2. 米国との抑止力強化
今後、日本が選択できる道としては、
米国との核抑止協力をさらに強化(核シェアリングの議論を含める)
独自の防衛力強化(ミサイル防衛・通常戦力の増強)
国際的な核軍縮への関与を強める(NPT体制の強化)
といった選択肢が考えられる。
まとめ
今回の「TPNW不参加」の決定は、安全保障と外交の現実を考えれば合理的な選択といえる。しかし、日本の「核なき世界を目指す」という理念との間にあるジレンマは解決されていない。
今後、日本がどのように「核抑止の維持」と「核軍縮の推進」のバランスを取るのか、国際社会の中でどのような発信力を持つのかが問われることになるだろう。