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文庫本・たんこぼん

おしいれの片隅に一つ、段ボールがあった。

母所蔵の、文庫本の山だった。

海外ものが多かった記憶がある。

「嵐が丘」「若きウエルテルの悩み」「エミール」・・・

そして「戦争と平和」。


すべて、日にやけていて、めくるとめりめりと音がする本もあった。

そして、どれもこれも、独特な香りがした。どのページの間からも、本でパッキングされた空気がぽわりぽわりと浮かび出てくるのだった

なので、いわゆる海外の文学小説は、すべてこの香りと茶けた紙とめりめりという音のイメージがついてくる。


わたしが物心ついたころにはアガサ・クリスティがどんどん増えていった。わたしの読書のルーツは、母の好みで揃えられた本の山にある。


ところで、単行本というものがある。わたしの中では「ぶんこぼん」に対応しての「単行本」。

たんこうぼん、とは、思っていなかった。

「たんこぼん」だと思っていた。

今もわたしの口は「たんこぼん」と発音している。たんこーぼん、はちょっと違う。あくまでも「たんこぼん」なのだ。なんともかわいらしい響き。小さいものを連想する。

まさか文庫本より大きい本が「たんこぼん」とは思わなんだ。この混乱はおかげさまで今も続いている。


ロシアもの 長編小説 黴臭し

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