モンコレTCG同人誌「賢者の遺産」感想
モンスター・コレクション非公式短編集「賢者の遺産」/サークル「同時攻撃」(https://x.com/moncollegoudou)
BOOTH
https://nanamitohgarashi.booth.pm/items/6310896
メロブ
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2675232
読了。
というか私は一度読んでるからね、校正を兼ねて。
しかし、こうして本になっているのを手に取るのは全然違います。
万感の思いです。
本としての重み、紙の質感。
何よりバラバラだった個々人のデータが一つの本にまとまっている。
合同誌って素敵だな、って思います。
幕間/<牙と鎖>(https://x.com/kivatokusari)
主催ともあろう人が一行目からいきなり脱字をやらかしている。
しかし、脱落した文章が文章なので気付かない人が気付かないのは幸いか。
全体的な本全体の雰囲気を損なわないですんだのは僥倖であろう。
クレオン師の懐かしさは皆の思い出補正に助けられているとはいえ、各話の始まりに合わせて幕間を書き分けている努力は感じられる。
また、できるだけ本文の仕様を懐かしい富士見ファンタジア文庫のモンスター・コレクション短編集に似せようとしている。
カバーイラスト/石楠(https://x.com/i_ishigusu87)
本作の表紙はモンスター・コレクションブシロード版、ブロックⅣより黒狐ムラクモを採用されている。
全体的に色味を暗めにしたイラストでムラクモの表情にも影がかかるような構図にしてある。
剣を頭上に構えたこの姿勢と軽くうつむきつつ前を見据える斜めの上目遣いと影の妙を感じる。
ムラクモの複数の尾や背後の壁にかかる影にもさまざまな想像を馳せられる、実に味わい深い一枚。
カラー口絵/ササリ ヒノエ(https://twitter.com/littleharlot)・橘ゆら(https://x.com/leo_r_t)
本文モノクロの本誌だがカバーイラスト、カラー口絵に関してはフルカラーであるためモノクロより一層美麗なイラストを拝むことができる。
それがモンコレTCGの二次創作なら嬉しさは格別のものだ。
小生は編者であるため二人が本文のモノクロ挿絵も担当していることを把握しているためそちらに関しても感想をお伝えする。
地形:寒気(1ページカラー口絵)/ササリ ヒノエ(https://x.com/littleharlot)
スノー・ホワイト三姉妹の一人とスノー・フラウのイラスト。
「きっともうすぐ、氷は溶ける!」の一文が印象的なイラスト。
少し驚いたように目を見開いたフラウといたずらっぽく笑うホワイトの表情がとても生き生きと描かれている。
寒々しい周囲や背景と対照的にとてもエネルギッシュで元気をもらえる一枚。
モノクロ挿絵(P267)/ササリ ヒノエ(https://x.com/littleharlot)
カバーイラストがこの本の顔ならこのモノクロイラストはこの物語一冊を締めくくるにふさわしい一枚だろう。
賢者の遺産の最後に収録されているのは「星を掴める距離」だが偶然にも本文イラストはカラーイラストの「地形:寒気」に始まりモノクロイラスト「星を掴める距離」で終わっていることになる。
物悲しいタッチの星を掴める距離のわずかばかりな救いを上手く表現し、読者に何とも言えない寂しさと同時に報われたであろう月に咲く天使の思いを、上昇していくクラウド・ドラゴンで描いた見事な一枚であろう。
アルラウネ/橘ゆら(https://x.com/leo_r_t)
地形:寒気と対照的に明るい暖色系のタッチで描かれる一枚。
アルラウネとカーマインがともに描かれている。
アルラウネと言えば人気カードであり、モンコレの歴史の中で何回か再録されている。見返り美人の、背中の美しい構図が眩しい。
本人は全年齢同人誌にこのイラストはどうなのか? と心配しておられたがモンコレTCGをやってきた人間にはちょうどこのくらいの下品になりすぎないセクシーさはむしろ懐かしさも相まって好きであろう。
小生も例外ではない。
舞う花びら、カーマインも含めて青空や足元の植物の葉の部分の青や緑とのコントラストが美しい。
少しはにかんだようなアルラウネの表情もとても可愛らしく、そこはかとなく妖艶な雰囲気を醸し出してただの人間の少女ではなく、モンスターである雰囲気が表れている。
モノクロ挿絵(P107)/橘ゆら(https://x.com/leo_r_t)
金剛神アルゴスの首をフェンリルが噛み千切るシーン。
カラーページとは違い、今度はモノクロでありながら迫力を感じさせるシーン。
疾走感と白黒絵でありながらラノベの挿絵ページを思わせる塗りが非常に戦いの雰囲気を出している。
個人的には鎖の質感や逆立った毛の感じ、前脚の爪と指の間の形がとても完成度高く感じている。
フェンリルのマニアなので。
もちろん、フェンリルの背中にいるラミアの少女とモンブラン型のぬいぐるみもいい雰囲気を出している。
うりぼーとロシオッティ/<牙と鎖>(https://x.com/kivatokusari)
例の如くFFTのウィユベールから題名を取っている筆者のシリーズ。
小生が筆者なので特に感想は不要だと思われるがせっかくなので。
いつものメンバーの冒険譚の、少年時代の冒険という体を取っている作品。
子供だけで事件を解決する、というスタイルは引き続きながらも頼れる年長者を出し、アドバイスを出すという形をしている。
しかしながらそのアドバイスが十分に活かされているか? という点で構成にはやや疑問が残る。
最後はキキーモラのほうきでの力技の解決という、メタ的な手段を使っているのがやや乱暴であろう。
主催だから許されたともいえる。
ただ、文章や言葉のやりとりのテンポはラノベ的で悪くない作品だと思う。
賢者の遺産/けにひ(https://x.com/kenihi0927)
表題作。
まさかのモンコレTCG×モンコレナイトという意欲作。
一見する得意合わせが悪そうな組み合わせをラノベ的な文脈や王道展開を盛り込んで綺麗に昇華している。
これは非常に構成の技量が高い作品だと感じた。
その上で場面場面で見せ場もしっかりあり、テンポよく物語が進む。
最後の結末に関しては伏線が少ないんじゃないかな? とも思ったがちゃんとあるのだ。
タイトル。
うーむ、これは一本取られた。
とても読んでいて楽しい一作。
復讐者の踊り方/雨漏そら(https://x.com/syoujounoao)
作者の過去作、「復讐者の作り方」のリメイク、あるいは続編。
自分は前作を知っているうえでコメントすると非常にいいつなぎ方だと思う。
「踊り方」という言葉のチョイスをどうとらえたものだろう、と読んだ後で考えた。
当然ながらこの作品に照らし合わせて「dance」ではないのは明白だ。
アスモデウスとの剣戟を「踊る」と捉えるのもいいし、片腕を失ったラウニがエミリアに支えられて生きる様子を「踊る」と捉えてもいい。
あるいはアスモデウスとウァプラの関係性かもしれない。
社交ダンスのような意味での「踊る」には相手が必要なのだから。
鉄と鋼の掟/ガッツ(https://x.com/Gutsjukaryoku)
恒例ともいえるグルメ枠小説。
モンコレTCG×グルメ小説という二次創作枠の先駆者だけあって今回も非常に美味しそうな作品に仕上がっている。
骨付き肉にかぶり付くのはやはりロマン。
酒の描写もあり、飯テロ枠、また本人の言う「箸休め」として本全体を盛り上げ、「スパイスを効かせる」役割をしっかり担ってくれている。
特にこの前に最長の「復讐者の踊り方」があり、このあとに「星を掴める距離」が控えており、その意味でもこの作品が本全体における役割も大きい。
「鉄と鋼の掟」という題名にして本作最大の謎の解明についてもそこに「くすっとできる楽しさ」と「なんだそりゃという苦笑」とが同居していて何とも言えない素敵な読後感を出している。
星を掴める距離/土地人Mk-2(https://x.com/Tochihito_Mk2)
同名の地形カードが存在する、この短編集最後に収録されている作品。
穏やかな始まりから一転、暗く悲しい展開へと進みつつ、最後に救いもあり、きちんと読者にもカタルシスが残るようになっている。
また、この作者の作品では毎回ながら参加者最多レベルのモンコレのカードを作中に登場させ、実に「モンスター・コレクションTCGの小説」としての必然性を演出している。
カード名を覚えていない者にはやや難しいところもあろうが、逆に覚えている者にはたまらない。
そしてこれは作者の功績であると同時に挿絵担当の実力でもあるが作者の文章、挿絵と相まって最高のラストになっている。
これは実に「挿絵あり小説」だからこそできることに違いない、と思う。
小説に挿絵は必須ではないが文章を書く者と絵を描く者とがタッグで生み出せる芸術に思う。