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地獄の番犬の話

 スーパー戦隊が好きな人は、だいたいデカマスターも好きではないだろうか。もちろん、見たことがないという人は別にして。

 「特捜戦隊デカレンジャー」の20周年記念作品がもうすぐ公開ということで、メインキャストが厳選した「オススメ回」が、3月いっぱいまでYouTubeで無料公開されている。
 この無料公開期間中に記事を書こうと思っていたのだが、気が付けばあと一週間まできてしまった。

 というわけで、デカマスターの話である。

 デカレンジャー13話「ハイヌーン・ドッグファイト」は、デカレンジャーの司令官である「地球警察署長ドギー・クルーガー」が、ストーリー中初めて変身するエピソードであり、ドギーの声を担当する稲田徹氏が、「収録が愉しみすぎて前夜眠れなかった」「初変身に気合入れ過ぎて喉から血が出た」という微笑ましい逸話でも有名な回だ。
 なもんで、ファンは「稲田氏なら13話を選ぶだろうな」とみんな思っており、稲田氏も「どうせ稲田徹はコレ選ぶと思ってたんでしょ?そりゃそうだよ!で、みんなが見たいのはコレでしょ?」とコメントしている。

 「ハイヌーン・ドッグファイト」の詳細をかいつまんで話そう。かつて「伝説の警察官」ドギーに逮捕された宇宙犯罪者が脱獄し、彼にとって大事な女性を誘拐、おびき出して恨みを晴らそうとする。
 敵は関東一円を吹き飛ばすような地中爆弾を用意し、ドギーの部下であるデカレンジャー達を足止め。ドギーはデカレンジャーに爆弾を止めるよう命令して、ひとり、敵の指定した場所へ向かう。

 いま見返すと、ストーリーの文脈は極めてシンプルだ。
 でも、このドギー/デカマスターのデザイン、言動、アクションの全てがとにかくカッコよく、当時高校生だった僕の脳を強烈に焼いた。特に100人の戦闘員をナマス斬りにするシーン、卓越した剣技で窮地を切り抜け、同時に人質となったヒロインを救出するシーンなどは格別である。

 ドギーのキャラクターは、一言で表すなら「格の高い正義漢」だ。常に落ち着いており、部下たちを信頼し見守っているが、その心中には正義の炎を絶やさず燃やし続けている。
 どのよう場面でも決して油断をしないが、その情の厚さが仇となる場面もしばしばで、かつての剣術の兄弟子が敵となった際、命乞いされて躊躇した隙を突かれるといったこともある。そこも含めて彼の魅力だ。

 そうしたドギーの「頼れる警察署長」としてのキャラは1話から丁寧に描写されており、そのドギーが変身してヒーローになるというのだから、放映当時はかなり沸いた。
 これまで戦隊には「戦える司令官」は何人かいて、怪人をタイマンで倒すような活躍もないではなかったが、変身までするというのは初めてだった。「6人目の戦士」というよりは、あくまで「戦える司令官」のスタンスを崩さなかったのも特別感があった。着ぐるみキャラが変身するというのも、実質初めてで、デカマスターの登場には「そんなことまでやっていいの!?」という、掟破りのワクワクとドキドキがあったのだ。

 そうした先駆者的な要素も、デカマスターの魅力のひとつだし、また、そのデザインと名乗り口上にも、「特別感」を演出するための手が尽くされている。
 デカレンジャーのスーツは、胸に数字の「1」から「5」をあしらったデザインが施されている。そしてその数字に沿って、桃太郎侍のような口上を犯罪者に突き付けるのが特徴だ。「ひとつ、非道な悪事を憎み!」「ふたつ、不思議な事件を追って!」ってな具合である。
 そして、デカマスターの胸には、堂々と「100」と書かれている。口上は「百鬼夜行をぶった切る!」ときたもんだ。「この男は規格外ですよ」と言われているようなものである。

 そしてデカマスターの「特別感」は、今なお、歴代戦隊戦士の中にあって健在だ。ドギーの持つキャラクターの魅力に、先述したパイオニア的な要素が加わり、さらに声優の稲田氏の役柄に対する熱意などが合わさって出来上がっているモノだろう。
 35周年記念作品のゴーカイジャーにゲスト出演したことを皮切りに、以降何度か、スーパー戦隊に「ドギー・クルーガー/デカマスター」として登場しているのは、その特別感もあってのことには間違いない。

 この記事が遅れたのには理由がある。
 デカマスターの「特別感」は、再現性が低い気がしたのだ。要素としてアンコントローラブルなものが多くて、純粋にキャラの真似をしようとすると、火傷しかねないと思っていた。

 だが、そうした特別感を言語化することで、純粋な「ドギー・クルーガー」というキャラへの魅力もまた言及できそうである。
 ドギーの魅力はなんといってもその真っすぐさだ。上に立つ人間としては、やや若々しさと荒々しさが目立ち、時として肩を並べて戦ってくれる。「父親」というよりは「兄貴」のような存在感を持つ司令と言えるだろう。
 強い信頼関係で結ばれているスワンが人質に取られて、やや感情的になったり、劣勢に追い込まれたりする部分も、彼の若さを表している。
 その上で、「ボスならなんとかしてくれる」という視聴者の期待を裏切らない安定感。格の保ち方も上手い。このあたりは、圧倒的な戦闘力の描写が裏打ちしているだろう。

 記事を書いて安心したのは、「僕はデカマスターの特別感に惑わされているのではなく、やはりドギーというキャラが好きなんだ」と再確認できたところだ。これからも安心して推していける。

 今回ヘッダーに使用したのは、現在は展開終了している「レンジャーズ・ストライク」というTCGのデカマスターだ。出てきただけで、敵の盤面にいる戦闘員を一掃できる、まさに13話の名シーンを再現するカードだった。

 特捜戦隊デカレンジャー13話「ハイヌーン・ドッグファイト」。
 今見るとやや古典に入りつつある作品だが、キャラのカッコよさは色あせない。おすすめです。


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