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「悪党の末路」の話

 思いついた「好きなもの」について片っ端からアウトプットしてきたわけだが、ある種の傾向のようなものが掴めてきた。すなわち、好きな「悪党の末路」があるということだ。
 アシュラマン、ロックウェル、ワルズ・ギル。彼らの辿った結末にはうっすらとした共通点のようなものがある。言語化しようと必死に頭をひねってみたが、どうにもわからん。「業」とかいうふわっとした言葉でくくることしか、今のところできていない。
 この中で「哀しき悪役」とでも呼べるのはⅡ世のアシュラマンくらいなもので、僕は別に悪党に哀しい過去や正当性を求めているわけではない。ただ、「悲劇」は求めている。

 ま、ごちゃごちゃ言っていても仕方ない。
 僕は、この「業」と「悲劇」を持つ悪党について思いを巡らせた結果、とあるキャラに思い至った。なので今回はそいつについて話す。

 相剣軍師 龍淵。
 手を伸ばしたものに焦がれ、すべてを失った男だ。なお今回は妄想成分多めである。

 相剣軍師 龍淵は、遊戯王OCGに登場するカードの1枚だ。アニメに登場したことは一度もない。ただ、カードにもそのテーマごとに背景ストーリーがあって、龍淵のストーリーは、カードの性能やイラスト、そして公式から供給される断片的な情報によってのみ考察することができる。
 龍淵は、「烙印ストーリー」と呼ばれる大きな物語の中に登場する。壮大なJRPGを思わせる王道ファンタジーで、その中の「相剣編」が龍淵の登場するシナリオだ。

 悪の教会に追われる主人公とヒロインは、とある霊峰を訪れる。竜化して戻れなくなってしまった主人公を元に戻すために、霊峰の地下にある霊水の精たちの力が必要だった。
 その霊峰の守護者として存在していたのが、「相剣師」と呼ばれる武狭集団である。龍淵は、その首魁である「相剣大公 承影」と最も古い付き合いが古く、彼から最も信頼されている軍略家だった。

 承影に認められ、主人公とヒロインは、霊峰地下へと向かうことを許される。ここに、悪の教会が襲撃を仕掛けてくるのだ。そして、黒幕に唆された龍淵は、相剣師たちを裏切る。

 龍淵は、なぜ相剣師たちを裏切ったのか。
 龍淵と承影は、そもそもどんな関係であったのか。

 このあたりは、具体的な説明は一切ない。だが、考察と妄想が一番捗るのはここだ。少なくとも龍淵は、相剣師の頂点に立つ承影に不満があった。
 ファンの間には龍淵自身が野心家であった、というのは前提条件としたうえで、「承影へのクソデカ感情説」と「霊水の精へのクソデカ感情説」がある。論拠が充実しているのは後者の方だが、僕が好きなのは前者の方だ。なので前者について話す。

 龍淵のキャラクター性について、公式で語られているのは「死と力による覇道を望んでいた」ということだ。そんな龍淵もまぁまぁな年齢のはずなのだが、相剣軍師として長いこと働いていたことを考えると、野心を秘めつつも、承影のことは認めていたのではないか? という考察ができる。
 そしてもうひとつ公式で語られている設定は、龍淵の目的が「霊水の精の女王を抹殺すること」である。霊水は相剣師たちの力の源であり、その精霊と相剣師たちは共存関係にあった。にもかかわらず、その女王を抹殺しようと考えている。

 これらを総合した時に浮かび上がる龍淵のキャラクター性。「過去、承影と共に力による覇道を歩んでいた」「しかし承影は霊峰の守護者としての使命に目覚めていった」「梯子を外された龍淵は鬱屈とした感情を抱えていた」「黒幕に唆され、承影が堕落するキッカケとなった霊水の精の女王を殺そうとする」というものだ。
 要するに、「キン肉マンを殺してアシュラマンの目を覚まさせようとしたサンシャイン」である。

 承影強火オタクおじさん概念としての龍淵。「お前はそんな弱い男ではなかったはずだ!」「蹂躙し、君臨し続けろ!」「いつから、そんな穏やかな顔で笑うようになった……!?」みたいなことを言う奴だ。たまらん。

 さて、裏切った龍淵は、「相剣大邪 七星龍淵」となって、霊峰の地下へと向かう。そこで、女王を殺そうとするのだが、そこに立ちはだかるのが承影だ。
 七星龍淵と承影は、カード性能で言えば承影の方が上だ。攻撃力の差が2900と3000というのが絶妙で、本気を出した龍淵も、ギリギリ承影には届かないということを示唆している。
 だが、この戦いにおいては、龍淵が勝つ。
 龍淵には、相手プレイヤーのライフポイントに1200ダメージを与える効果がある。これは、「相剣軍師」「相剣大邪」どちらの龍淵も持っているので、龍淵本人の能力と見るべきだろう。
 龍淵自身は承影に勝てないながら、プレイヤーのライフを削り切る=軍師としての知略で戦略勝ちする。おそらくこの場においては、承影の虚を突いて女王を殺したのではないか。

 ここで承影たちと合流するのが、「烙印」ストーリーの主人公だ。承影と、朽ちかけた女王は、彼に力を託すことを決める。
 公式設定によると、龍淵はこの後、承影たちに力を託された主人公に敗れている。龍淵を倒したのは承影ではなく、彼からしてみれば何の積み重ねもない、ポッと出の少年だった。
 「承影強火オタクおじさん」からすれば、何もかもが納得いかない場面のはずだ。承影が自身の負けを認めたのもそうだし、その力をポッと出の少年に託すのもそうだ。おそらく、ヒムが「ハドラーの力を受け継いだ」と言った時のミストバーンのような気持ちだっただろう。

 敗れた龍淵がどうなったのかと言うと、巨大な怪物と融合して、「深淵の相剣龍」として登場する。アイデンティティだった「1200ダメージ効果」を失っており、龍淵としての自我を失っている可能性もあり、何より、攻撃力と守備力は高いものの効果がクソ弱い。
 彼は、一族を滅ぼした霊水の精、新たな女王となった少女に討たれ、物語の舞台から退場する。

 この後、「新たな女王と龍淵の間には親交があった」という匂わせがあり、龍淵考察界隈をざわつかせた。精霊の少女に「おじさま」と慕われる龍淵概念が発生し、それはそれでかなり味わい深い。
 また龍淵には弟子がおり、彼女も相剣師と精霊の性質を両方持っているため、「承影へのクソデカ感情説」を支持する者には、「弟子は承影と女王の子だったりしない?」とも言われている。

 龍淵は、彼をデッキから抜くと、承影を召喚することが不可能になるほどには、「相剣デッキ」に無くてはならない存在だ。また、「相剣大邪 七星龍淵」は、承影に勝てないものの、彼と並べることで強いシナジーを発揮する。
 こうしたカードの能力デザインが、相剣師における龍淵というキャラクターを表しているように思う。つまりロックウェルと同じだ。「ずっと肩を並べて戦い続けることができたら」というIFに、ついつい想いをはせてしまう。

 龍淵もまた、悪の業に流されてしまい、その業に相応しい末路を遂げた。
 彼を表現する言葉として、「お労しい」が用いられることがある。鬼滅の刃において、縁壱が黒死牟に向けたセリフだ。たぶん、黒死牟と龍淵は、そう遠い存在ではない。

 「憧れ」というのは残酷な感情だ。老いや変化を許容できなくなる。過去の煌めきに脳を焼かれ、その幻影を追い続けている時点で、彼は前へ進めなくなっているのだ。これは、僕がヒーローに求める「挑む」という性質とは真逆のものである。
 でも、人間の弱さというのはそういうところにあって、すべて否定するべきものじゃない。だからこそ僕は、過去の幻影に囚われ、前へ進めなくなってしまった悪役を愛してしまうんだろうと思った。

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