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「縫製×フリーランス」の現場報告

私は今、自宅で服の縫製をしている。
これだけでご飯を食べている。
副業は無い。
ハンドメイドアプリで自作の服を売っている…ではなくて、オーダーメイドの服を作っている…でもなくて、量産の服を縫う、そういう仕事だ。


3年前に、縫製工場を辞めてフリーランスになった。
その時、参考にしようと"自宅×1人×量産縫製"をしている人を検索したが、あまり出てこなかった。
なので、誰かの参考になれたら良いなという気持ちと、ただ語りたい欲(たぶんこちらが主だ)で今書いている。

以下、現場報告。

年収は204万円
これは2020年の額。
月平均が17万円。
平均というのは…常に違うメーカー、違う形、違う生地なので、作業にかかる時間もバラバラ。なので工賃もバラバラ。
月20万の時もあれば15万の時もある。

去年は、コロナの影響で、ブランドの展示会中止や服の購買意欲減少などなどの理由で仕事が少なかった。
なのでこの金額だ。今年はもう少し増える……かもしれない。なにせ、自分の手次第だ。やる気を起こさずチンタラしているとチンタラなりの収入になる。

報道で見聞きする"低所得者"ゾーンな金額だけれど、私は現在とてもハッピーだ。

支援したい団体にお金を送る。
応援したい企業にお金を送る。
投資信託で極小の運用をする。
貯金用のお金を確保する。
推しのアイドルにお布施をする。
毎日好きなものを食べる。

これが全てできるのだ。204万円でもハッピーだ。


この心持ちの理由
それは、家族と過去の自分のおかげだ。

①親に借金が無い
②親がまだ要介護者ではない
③親自身が貯金をしている
④良好な関係の姉がいる
⑤昔から貯金が好き

これに尽きる。

ハッピーだとかいつまで言っていられるか分からないけれど、こういうのは今のうちに言っておこう。
明日がどうなっているかは誰も分からない。


貯金は大事
話は変わるが、私は過去に結婚していた事がある。自営業の洋食屋さんに嫁いでいたのだ。その時は、お給料が少なくて、貯める事ができなかった。貰った額がキレイに0になるのだ。そしてたまにマイナスになる。
その時お世話になったのが、過去の自分。高校生の時モスバーガーでアルバイトをして貯めた貯金。
まさか24歳になって17歳の自分にお世話になるとは思わなかった。

そして、この時の私は心の平和が崩壊していた。
お金の余裕が無い→未来が不安になる→明日を迎えるのが楽しみじゃない
友達のSNSなんて見た日には大変だ。邪悪な自分がヒョッコリ顔を出してくる。
平和もなにも無い。

お金が全てじゃないとも思うが、少しは無いと心の平和が保たれないと、深く実感した。

今も過去の自分にお世話になっている。
貯金から生活費の足しにする…のお世話じゃなくて、収入が突然0になっても大丈夫だぞ…という心の安定材料としてだ。


ストレスから全力で逃げよう
私は人付き合いが得意じゃない。
人とお喋りするのは好きだけれど、"付き合い"が下手だ。
これは結婚生活(たったの2年だが)を経てこじらせてしまって、悩んだこともあった。
しかし3年前、プツンと糸が切れた。
もっと柔軟に、皆んなのように、上手いこと頑張れ…という、脳みそに巻き付いていた糸が切れた。
そして"逃げる"へ全振りのスイッチが入った。

私のフリーランスデビューは、夢とかじゃない。
ただ全力で逃げた結果だ。
一般的に、会社を辞める前にいろいろと調べて、いろいろ考えてから行動を起こすのだろうけれど、私は辞めると伝えた次の日から焦りだして、調べだすという…会社脱出に集中し過ぎた人間だ。

しかしおかげで、今は1人で仕事をしている。
付き合い上の何でもない会話をしなくて良い。
トイレを我慢する必要がない。
ラジオでせっかく面白い事を言っているのに、笑うのを我慢する必要がない。
イヤホンで音楽を聴きながら仕事ができる。
工場勤務だとどれもできなかった事だ。

"逃げる"のは、良くないことに思われがちだけれど、別にいいんじゃないだろうか。
逃げた先で失敗したら、また別の道を考えればいい。
この国は、今戦争していないし、アルバイトの求人だってあるし、生活保護の制度も機能しているし、本気の善意の支援団体もいる…。
ストレスから全力で逃げるのを、選択肢に加えても、別にいいと思う。


スタート前のおびただしい不安
会社に退職を伝えてから、3ヶ月後に辞めることになった。
その3ヶ月間、不安が波のように来た。


・本当に縫製だけで食っていけるのか
・1人で量産って、儲けはどれくらいなのか
・もし少なかったら、夜間のバイトとか必要になるのか
・アパートの30アンペア…工業用ミシン+職業用アイロン+冷暖房…こんなんで足りるのか
・ミシンの音がうるさくて他の住人から苦情来たりしないのか
・そもそも、あの玄関はミシンの搬入ができるのか
・縫い方が分からない工程が沢山沢山あるが、その場合どうするのか

不安は隙さえあればやって来る。
全ては、"会社脱出に集中し過ぎた"からだ。全然考えていなかったのだ。
なのに、新しいアパートも契約して、職業用のデッカイ高いミシンとアイロンを購入している。

未知な未来はとても怖い。
Googleで検索しても参考になるものは出てこない。
脳みそがどうしよう!で溢れるのだ。


結果…
始まってみれば何とかなった。
勢いにまかせて行動するのは"少しだけ"オススメだ。
少しだけ。


何とかなったの具体例
私は服を丸々1着縫う経験が2回しかない状態でフリーランスになった。
2つの工場勤務を経て、縫製キャリア7年目。
まっっっったくもって知らない縫い方が沢山ある状態だ。


例えば
【縫い方が分からなくてYouTubeに教わったもの】
両玉縁ポケット
片玉縁ポケット
フラップ付き玉縁ポケット
箱ポケット

【3回位しか縫った事がなかったもの】
折り伏せ縫い
パンツのファスナー明き
シャーリング
手作業のギャザー寄せ
(ギャザー寄せミシンを持っていないので、距離が長かろうと、今の仕事は全て手で寄せている)

【とても好きじゃない工程】
アイロン作業
左右寸法合わせ
ベルトループ付け
平行さ垂直さを求める全てのもの

調べても分からない縫い方や、自力で工夫できない仕様の物は、お取引きしている会社に聞いて教えてもらう。(やり取りの全てはLINE)
丁寧に教えてくれて、何度も何度も助けてもらった。


会社を辞める前にするべき事
欲しいクレジットカードがあれば作っておく。
住みたい所があれば引っ越しておく。
1ヶ月生きるのに必要なお金を把握しておく。

今思いつく限りこれだけ。
会社に勤めていないと、無職のカテゴリーに分けられることがあるのだ。
とても不便だ。

最後に…
仕事は楽しいか?と聞かれたら、私は楽しくないと答える。
なにせ…
納期がある。
駄目な縫製は全て自分の責任。
良いも悪いも評価がされない。
自分の甘えとの戦いが辛い。
もっとチンタラ縫いたい。
加工賃変更してもらう時、相手にストレス与えてる感が辛い。
どうしても縫えない工程がある時めちゃくちゃヘコむ。
誰かと比較できない、ヘコむ。
取引き会社に隙あらば嫌悪感を抱いてしまう、ヘコむ。
裁断者やパタンナーに文句言いたくなる、ヘコむ。


ぁぁ……溢れる溢れる。


しかし、私は工業用ミシンを踏むのが好きだ。あの音とゴツい機械感が好きだ。
だからやっぱり、これを仕事に選んでしまう。

以上、現場報告でした。

※仕事内容の補足
お取引きしている会社は1社。(仮にA社とする)
仕事の流れは…
LINEで依頼が来る

A社から、裁断物・パターン・仕様書・糸・資材・必要であればバインダーなど貸し出し
などが段ボールで来る

自宅で縫製・ボタンホールの印付けまで行い、段ボールに入れてA社に送る

ボタンホール・ボタン付け・手縫いのまとめ作業は、全てA社が行う

送料は全てA社持ち。
全力で、依頼時に提示された希望加工費(所要作業時間)内で縫い上げる。
それをオーバーした時は、LINEでこちらの希望加工費を提示して検討してもらう。

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