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「パスワードが間違ってます」シナリオ

【テーマ】
世那さんの『パスワードが間違っています』

【シナリオ】
○ミクシィ社・会議室
  面接官の前で受け応えをするサキ(27)。
サキ「――以上のことから御社で働きたいと思っています!」
面接官「ありがとうございました。合否はすぐにご連絡させていただきます」
サキ「はい!よろしくお願いします!」
  頭を下げるサキ。
サキ(声)「なぜ私がこんなことをしているかと言うと1カ月前に遡る――」

○サキの自宅・リビング・1か月前(回想)
  婚約者の幸司(30)とサキが朝食を食べている。
幸司「来月の結婚式楽しみだね」
サキ「はい……」
幸司「じゃあ、仕事行ってくるよ!サキは仕事辞めたばっかりだし、しばらくゆっくりね」
サキ「うん」
  幸司、席を立ち外出する。
  サキ、扉が閉まる音を聞き次第急いで自室に向かう。
サキ「今日こそは絶対……」

○サキの自室
  サキ、パソコンを開いてミクシィのログイン画面を開いている。
  横にはこれまで試したパスワードが書かれた紙を持っている。
サキ「昨日はペットの名前までやったから今日からは……」
  紙にはまだ試していないものとして『元彼の誕生日』『元彼との記念日』『元彼との初デートの場所』等、元彼との○○が続いている。
サキ「元彼ゾーン……」
  サキ、1つずつパスワードを試し始めるがログインできない。
サキ「そういえば幸司さんとの初デートの場所とかってどこだっけ……」
  手が止まってしまうサキ。
サキ「……やだ……元彼どっかいってよ……私は今は幸司さん一途なの……あなたなんて……」
  再度、パスワードを入れ始めるサキ、しかしログインできない。
サキ「幸司さんにあの人のことを知られるわけにはいかないの……。私の黒歴史なんて知ったら幸司さんきっと私なんか捨てて……」
  再びパスワードがはじかれる。
  サキ、バン!と机をたたく。
サキ「こうなったら最後の手段……内部から消すしかない……それであなたともおさらばよ裕貴……」

○ミクシィ社・会議室(回想戻り)
  サキ、頭を下げている。
サキ(声)「こうして私は万万が一にもボロが出ないようにミクシィ社員になって中からアカウントを消すことに決めたのだ」

○ミクシィ社・執務室・数日後
  サキ、デスクで仕事をしている。
社員「サキさん、この資料のコピーお願いできる?」
サキ「はい!もちろんです(笑って)」
  首からは社員証がぶら下がっている。
サキ(声)「うまく潜入成功!あとは一目を盗んでアカウントを削除するだけ!」

×    ×    ×
  時計12時を指す。
社員「サキさん良かったらお昼食べにいく?」
サキ「あ、すみません、私これなんで……」
  サキ、自分の持っているお弁当をみせる。
社員「流石結婚式マジかの花嫁!花嫁修業真っ最中だね(笑って)」
サキ「……(少し照れて)」
社員「了解!そしたらまた午後もよろしくね!」
  社員、ランチをしに部屋を出る。
  周りの席には誰もいなくなりサキだけが残される。
  サキ、急いで会社のIDを打ち込みアカウント管理画面を開いて自分のメールアドレスを探す。
サキ「あった……」
  サキ、ついに自分のアカウントをみつけ消そうとする。
サキ「一応……どんなこと言ってたんだろ……」
×    ×    ×
  プロフィールを思わず読み込んでしまうサキ。
  『◯since.2009/1/23〜◯裕貴の奥さん♡◯男の絡みいらなーい◯裕貴に手ェ出したらマヂ許さないカラ!』等が書かれている。写真もギャルの社員が多くタバコお酒の写真も平気であげている。
サキ「(小声で)やば……痛すぎる」
  プロフィール削除のところにカーソルを移動させるがその途中にアルバムをみつける。
サキ「……」
  アルバムをクリック。
  と、裕貴と近所の海でデートした時の写真をみつける。
サキ「この日って……はじめて彼と……」
×    ×    ×
  フラッシュ。
  ベッドで抱き合っている男女。手を握り合っている。
×    ×    ×
サキ「……」
  と、社員が何人か戻ってくる。
  サキ、慌ててアカウントを消してしまう。
サキ「あ……」
社員「あれ?お弁当まだ食べてないの?」
  社員、サキのお弁当箱がまだ机に置かれているのをみる。
サキ「あ、これは(慌てて)ちょうど今食べ終わってしまおうとしてたとこです」
社員「そっか、ならよかった!じゃあ午後のお仕事の説明をするね!」
サキ「……」

○サキの自宅(夜)
  晩御飯を食べる幸司とサキ。
サキ「……」
幸司「いよいよ明後日だね結婚式」
サキ「うん……」
幸司「サキが急に働くって言ったときは驚いたけど、充実してそうでよかった」
サキ「……幸司さん」
幸司「ん?」
サキ「明日ちょっとお出かけしてきてもいい?」
幸司「いいよ!僕も夜は家族が止まっているホテルのとこに行かなきゃだし……そしたら次は当日か……」
サキ「うん……」

○海(写真に写っていた場所)・翌日夕方
  サキ、1人で海をみている。
×    ×    ×
  フラッシュ。
  ミクシィの元彼との海デート写真をみているサキ。
×    ×    ×
サキ「これで良かったんだよね……(海をみて)」
  と、サキの後ろに人影が。
  サキ、振り返って。
サキ「!!!」
   波の音だけが響き渡る。

○結婚式場・翌日
  慌ただしい、会場。
  サキの両親、必死に何度も幸司の頭を下げている。
幸司「サキが今日来てないって……どういうことですか!!」

○とあるホテルの一室
  ベッドには日差しが差し込む。
  ガウンを着た裕貴(27)がコーヒーを入れている。
  サキ、裕貴に背を向け窓の外を裸でベッドに包まってみている。
×    ×    ×
  フラッシュ。海。
  人影がサキのもとにあらわれるとそれは裕貴だった。
サキ「!!」
裕貴「!!」
×    ×    ×
サキ(声)「ダメだ……細胞が……身体中の細胞1つ1つがこの人のことを覚えてる」
  サキ、ゆっくりと起き上がって裕貴の方を見る。
  裕貴、先に向かってニコッとする。
  サキ携帯、音は鳴らないが大量の通知が入っている。
サキ(声)「幸司さん、お母さん、お父さん……ごめんなさい……気持ちが寄り道しました……」

(つづく)