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「コーヒー牛乳を飲みましょう」

【テーマ】
柴田百合子さんの『テレビ東京#100文字ドラマ(案)』

【シナリオ】
○シェアハウス
  イケメンの男性に抱きつくりほ(20)。
りほ「大好き……」
  男性がそっと抱きしめ返す。
  りほ、涙を流す。
監督の声「はいカットーー!!」
  りほ、男性からすぐに離れる。
  人がぞろぞろと集まってくる。
監督「じゃあ本日はここまで!りほちゃん、また来週よろしくね!反響もう凄くて!(興奮気味に)」
  監督、手には『恋愛リアリティーショーザ・リアル・ハウス』の台本。
りほ「はい!来週もお願いします(愛想笑いで)」
  と、マネージャーがやってくる。
マネージャー「りほちゃん、次の収録時間迫ってるからタクシーで移動ね」

○タクシー・中
  りほは後部座席、マネージャー助手席で移動している。
マネージャー「この後14時からはこの番組の収録で、その後16時からは……」
  マネージャー、説明を続ける。
りほ「……」
  りほ、説明を上の空で聞きながら、自分のSNSをみている。
  『りほちゃん本当にかわいい!』『来週ついに結ばれるのかな!』
  『毎週楽しみにみてます!』
  投稿された写真にはどれも大量のイイネとコメントの数。
りほ「(小声で)しょーもな」
   りほ、スマホを置いて窓の外をみる。
 ×    ×    ×
  フラッシュ。
  監督が持っていた台本。
 ×    ×    ×
りほ(声)「全部台本通りなのに……嘘に躍らせれてみんな興奮しちゃってバカみたい……」
マネージャー「そうだ!これ」
  マネージャー、『アド街ック天国 都内銭湯編』の企画書を渡す。
マネージャー「今度決まった看板番組の銭湯の回!前も裏番組で大人気の映画が放送してたんだけど、こっちのほうが『ありのまま』をさらけ出してたって視聴者から大反響だったんだよ!」
りほ「……」
マネージャー「収録近いから、悪いんだけど事前に銭湯とか下見したほうがいいと思う!よろしくね!」
  りほ、ページをめくる。
りほ「ここ……うちの近所だ」
  昭和の雰囲気の銭湯の外観写真『大黒湯』をみつける。

○大黒湯・外観・夜
  りほ、1人で大黒湯の前に立つ。
りほ「ぼっろ……」
  自販機やコインランドリーが並び入り口のネオンが光っている。
りほ「どうせじじばばばかりでしょ……」
  俯きながら暖簾をくぐる。

○大黒湯・脱衣所
  りほ、脱衣所でゆっくりと服を脱いでいく。
  髪の毛を掻きあげ、タオルを身体に巻き、浴場のドアをあける。

○大黒湯・浴場
りほ「え……」
  浴場には20代、30代の女性が髪を洗い、湯舟でもくつろいでいる。
  りほ、困惑しながらも湯舟に入る。
りほ(声)「へえ……思ったより若いんだ……けど……」
  周りをチラッとみる。周りも少しりほのことを気にしている。
りほ(声)「若いってことは多分私顔バレしちゃってるだろうな……どうせ意識高い系の女子ほどミーハーなんだろうし」
  と、浴場のサウナの部屋から女性の楽しそうな声が聞こえる。
  りほ、サウナの部屋をみて。
りほ(声)「ほらやっぱり……どうせサウナブームのってみました!『#ととのう』とかでイイネを稼ぐのが目当てでしょ…… 」
  サウナの部屋から声が聞こえなくなる。
りほ「……」
  りほ、気になってサウナの部屋に入る。

○大黒湯・サウナ
  サウナの中では20代のOL女性2人でしゃべっている。
  りほのことをチラッと見る女性達。
  女性達と少し離れて座るりほ。
  会話している女性達の肌には汗が滴る。
女性①「こないだの合コンの人いるじゃん?あの人とデート行って」
女性②「嘘!前言ってた大仏似の人ですか?(冗談ぽく)」
女性①「(笑って)そうそう大仏さん!その人とあそこ、ほら今話題のリアリティーショーの番組……」
女性②「リアハですか?ザ・リアル・ハウスの」
りほ「……」
女性①「そうそれ!それでカップル達が行ってた場所に行ったんだー」
女性②「あそこよさげですよね……あの番組も本当に好きで毎回キュンキュンしちゃいます」
りほ「……」
  りほ、徐々に汗が吹き出し始める。
  と、そこに若いJKが扉を開けて入ってきて。
JK「やっぱりここだー!」
  女性達振り向く。
JK「ビッチ先輩!(女性①をみて)」
ビッチ「おいこら、JKだからってその呼び方は……(笑って)」
JK「まな板先輩!(女性②をみて)」
まな板「ひどーい!(笑って)ビッチ先輩がまな板っていうからですよ!」
  まな板、タオルの上から自分の胸を触る。
まな板「JKよりはあるから!(胸をみて)」
JK「ない方が部活で邪魔にならないからいいんです!」
  JK、りほをみて。
JK「お姉さんもこっちで話しましょうよ!」
りほ「いや……私は……(慌てて)」
JK「いいからー!」
  JK、強引にりほを連れてくる。
りほ(声)「やばい……ばれる……」
ビッチ・まな板「こんにちはー」
りほ「こんにちは……(ばれないように俯いて)」
JK「あれ?なんかお姉さんって……(ビッチ・まな板の顔をみる)」
  ビッチとまな板、頷く。
  りほ、目をぎゅっと瞑る。
女性達「朝ドラみたい!」
りほ「へ?(拍子抜けして)」
ビッチ「やっぱりそんな感じしたよね!すごい綺麗だし、どことなく素朴で」
まな板「JKちゃんよりもずっとヒロイン感ある。牧場で牛乳作ってそうな感じ……その透明感うらやましい……」
JK「ちょっとまな板さん!私ディスるのやめてください!(笑って)」
  笑い合う3人に困惑するりほ。
りほ「……あの、皆さんお名前はなん言うんですか?」
ビッチ「名前?そう言えば知らないわねあなた達の(まな板とJKをみて)」
まな板「確かにー!ビッチ先輩が勝手に人のこと変に呼ぶからですよ!」
ビッチ「けど、名前なんて知らなくても仲良しなんだよね、私達」
JK「ここでしか会わないけど、なんかホッとするんです」
りほ「なるほど……(困惑して)」

○大黒湯・外のベンチ
髪は少し濡れて、顔は少し赤くなっていてベンチに座っている。
りほ「へんな人達だったな……一応SNS用に写真をっと……」
  外観の写真を撮るりほ。
男性の声「銭湯初めてですか?」
  振り返ると爽やかな男性ユウスケ(25)が立っていた。
  軽装で今から銭湯に行く様子。
りほ「……はい」
ユウスケ「お姉さん、サウナ入りましたね?(笑って)」
りほ「……(頷く)」
ユウスケ「サウナ大国フィンランドでは『女性が一番美しいのはサウナを出てから1時間』て言われてるくらいなんですよ。だからお姉さん、今すごく綺麗です」
りほ「え……(照れる)」
ユウスケ「あ、すみません!いきなりこんな……写真はSNS用ですか?ここ雰囲気ありますもんね……」
りほ「……はい」
ユウスケ「僕、銭湯って実はSNSの真逆にあるものなんじゃないかなって思うんです」
りほ「真逆?」
ユウスケ「SNSって名前は知っているけど会ったことない誰かとつながる場所じゃないですか?けど銭湯は会ったことはあるけど名前は知らない誰かとつながる場所だなって」
りほ「会ったことはあるけど名前の知らない誰か……」
 ×    ×    ×
   フラッシュ。サウナ。
ビッチ「けど、名前なんて知らなくても仲良しなんだよね、私達」
 ×    ×    ×
りほ「(小声で)だから……居心地がよかったのか……」
ユウスケ「え」
りほ「あ、いや(慌てて)自分って世の中の大勢のうちの1人なんだなって実感できたのがなんかよくて」
ユウスケ「(微笑んで)日々の暮らしの余白をつくるのが銭湯ですから」
りほ「……(キュンとする)」
ユウスケ「じゃあ、僕はこれで」
ユウスケ、銭湯の入り口に歩きだして。
りほ「あの!」
  ユウスケ、振り返って。
りほ(声)「やばい!さっきからやたらエモいこと言ってくるからとっさに声が出てしまった……そしてくそ!やっぱりかっこいい……タイプだ……リアハの男性陣の何倍もいい……」
ユウスケ「どうかしました?」
りほ「あ……えっと……(周りをキョロキョロする)」
 ×    ×    ×
   フラッシュ。サウナ。
まな板「――牧場で牛乳作ってそうな感じ……」
 ×    ×    ×
りほ「牛乳!」
ユウスケ「え?」
  りほ、自販機を急いでみて。
りほ「コーヒー牛乳……お風呂からあがったらコーヒー牛乳……一緒に飲みませんか?」
  りほ、恥ずかしさで顔がどんどん赤くなっていく。
  間。
ユウスケ「いいですよ(ニコッと微笑む)ではまた後で」
  ユウスケ歩いて銭湯に向かう。
りほ「やばい……銭湯……ハマっちゃうかも……」

(つづく)
※実際に代々木上原にある『大黒湯』という銭湯に足を運んで書きました。