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「月がきれいですね」 シナリオ

【テーマ】
大麦こむぎさんの『月がきれいですね』

【シナリオ】
○とあるイルミネーション・夜
  イルミネーション会場の人気のないところに立っているミツル(20)。
  モデルのような見た目のナツ(20)がやってきて。
ナツ「ごめん!待った?」
ミツル「別に全然。俺もさっききたところだから」
ナツ「じゃあ撮ろっか」
ミツル「おう」
  ナツ、スマホを持って二人で自撮り。
  デートっぽくお互いを写した動画も撮る。
  周りの人々、絵になる二人に見入る。
  ミツル、イルミネーションの横に立ちポーズを撮る。
ナツ「イルミネーションの後ろに立って!そのほうが顔に光が当たって盛れるから!」
ミツル「流石、映え写真にはお詳しいこと(笑って)」
  ナツ、写真を撮る。
ナツ「これでよしっと……」
  ナツとミツル、お互い写真の加工をする。
  インスタを開いて『今日はミツルとイルミネーション見にきました!本当に最高の彼氏です!大好き!#彼氏好き#大好きカップルの日常 』などの言葉を加えて写真をアップロード。
  投稿直後からイイネがつき始める。
ナツ「明日はどこだっけ?」
ミツル「最近できたばかりの渋谷の展望台!現地集合でいいよね?」
ナツ「もちろん。じゃあまた明日!」
ミツル「じゃ」
  立ち去る二人。

○ナツの自宅・深夜
  ベッドの上でくつろいでいるお風呂上がりのナツ。
  SNSを開くと投稿した写真に
『ミツナツCP大好きです』『毎日デートして本当に仲良しなんですね』等のコメント。
ナツ「みんなチョロいなー。簡単に騙されてイイネしてくれる」
  ナツ、机の上の本に目を向ける。
『令和のビジネスカップルの稼ぎ方』と書かれた本が置かれている。
ナツ「明日も写真とったら帰ろーっと。それ以外別にミツルといる意味ないし」
  ナツ、電気を消してベッドに入る。

○展望台・翌日夕方
  展望台からは綺麗な月が見え始めている。
  撮った写真を加工しているナツとミツル。
ミツル「ごめん、今日俺用事あって、先行っていい?」
ナツ「イイよー。あとで写真送るね」
  出ていくミツル。

○ナツの自宅・夜
  ナツ、ベッドの上でスマホをいじっている。
  『大好きな彼と私の好きな展望台デート!#好きなものだらけ#彼氏大好き』とつけて投稿。
ナツ「もう疲れたし、早めに寝よっと」
  ベッドで眠りにつくナツ。
  スマホの通知が大量に鳴るも、寝ているナツ。
  スマホの画面には『展望台イイですね!ところで“好き”って何ですか?』『“好き”って二人の何かの隠語ですか?』などのコメントがされている。

○大学学食・翌日
  サークルの同級生がいる席にいくナツ。
ナツ「おはよー、1、2限サボっちゃったー」
同級生「ナツ!ミツルくんと何かあった?」
ナツ「え?何で?」
同級生「だって昨日の投稿なんか変だったから……」
  同級生、ナツの投稿した写真をの『好き』の文字を指す。
ナツ「いや、好きは好きでしょ」
同級生「だからそれが知らないんだって!何『好き』って?」
ナツ「え……」
  とミツルがやってきて。
ミツル「ちょっと昨日のあれどういう意味?変な意味ないよね?」
ナツ「ミツルももしかして『好き』の話してる……?」
ミツル「そうだけど……ほら、周りに変に思われたくないからちゃんとわかる言葉にしてくれな」
ナツ「うん……」
  ミツル、立ち去る。
同級生「ミツルくん怒ってそうだったけど大丈夫?」
ナツ「うん……あ、あいつは昨日なんて投稿したんだろ」
  ナツ、ミツルの投稿写真を見ると『月がきれいですね』と書かれている。
ナツ「は?……ねえ『月がきれいですね』ってどういう意味?」
同級生「何言ってんの(笑って)惚気?」
ナツ「?」
同級生「それは……ミツルくんの愛の言葉よ」
ナツ「え」
同級生「何よ今更。これ以上は恥ずかしいから言わせないでよ(笑って)」
  ナツ、『月がきれいですね』を調べると夏目漱石が愛を表現した言葉と出てくる。
ナツ「なんじゃそりゃ……好きって言えばいいじゃん」
  ナツ、続けて『好き』と検索する。検索結果0件。検索候補に『すき焼き』『鈴木』と出てくる。
ナツ(声)「何これ……『好き』が消えてる……」
同級生「どう?わかった?(笑って)早くナツもミツルくんに答える形で返信しなよ!じゃないとミツルくん人気だし不仲のチャンス!とか思ったミーハー女子にとられちゃうよー(冗談ぽく)」
ナツ(声)「別の言葉別の言葉……やばいうちら本当は薄っぺらいから『好き』以外思い浮かばない」
  ナツ、試しに『月がきれいですね 類語』と調べると。『海がきれいですね』を見つける。
ナツ(声)「これだ!」
  ナツ、『海がきれいですね』の表現に打ち直して再度投稿。
ナツ「ふー……これで何とか」
同級生「ナツ!すぐ消したほうがいいよ!」
ナツ「え(慌てて)」
  ナツ、すぐに投稿を削除。
同級生「海はやばいって!」
ナツ「だって『月がきれいですね』と同じ意味じゃ……」
同級生「本当に何もわかってないの?あれは本人に強い思い入れがあるものじゃないと意味がないの!彼はもともと天文学部だったじゃない!」
ナツ「え、そうなの?」
同級生「彼女なのにそんなことも知らないの?それに海は彼が昔家族を海難事故で亡くしたからタブーでしょ!」
ナツ(声)「知らないよ……」
同級生「とにかくミツルくんとあなたの思い入れがあるものでうまく言わなきゃ!」
ナツ(声)「ないよ……そんなの……」
  と、ミツルからメッセージを受信する。『周りが疑ってる!早くなんとかして!』
ナツ「そんな……」
  ナツ、周りを見渡す。
  と、学食の端にいる幼馴染のワタル(20)を見つける。
ナツ(声)「あいつなら……」
  ナツ、ワタルに近づいて。
ナツ「ねえ!」
ワタル「!!」
ナツ「あなたから見て私とミツルのイメージって何?」
ワタル「いきなりやめてください……」
ナツ「相変わらずなよなよした男ね……だからいつまで経っても友達できないのよ」
ワタル「……」
ナツ「で?早く答えてよ!あなたなら私のこと長く知ってるから何かわかるでしょ?ミツルと別れるわけにはいかないのよ……」
ワタル「……『君を夏の日に例えたい』」
ナツ「え」
ワタル「君を夏の日、つまり彼と過ごす日は夏の1日のようにあっという間に過ぎていったっていう意味です……」
ナツ「……」
ワタル「……それに夏がナツさんの名前に掛かっていますし、二人が付き合い始めたのって確か去年の夏でしたよね……」
ナツ「それだ!!」
  ナツ、その場ですぐに『君を夏の日に例えたい』と投稿。すぐにコメントがつく。『二人が破局危機かと思っちゃいました!ラブラブそうで何よりです!』『二人とも素敵なお言葉!!応援しています!』『また素敵な言葉楽しみにしてます!』
ナツ「何とか……(ホッとする)」
ワタル「じゃあ、僕はこれで……」
  ワタル、立ち去ろうとして。
ナツ「ちょっと待って!」
ワタル「……」
ナツ「私のゴーストライターになって!」
ワタル「え?」
ナツ「なんか知らないけどフォロワー達はあんたの言葉に期待している。だから写真はいつも通り私が撮る。けど言葉はあんたが考えて。いい?」
ワタル「待って……」
ナツ「あなたに拒否権なんてないから!ちなみに毎日だからよろしくね!」
ワタル「……」
  ナツ、その場を立ち去る。
 ×    ×    ×
  フラッシュ。高校生のナツとワタル。
  英語の課題でシェイクスピアの詩『ソネット』を略しており、『君を夏の日に例えたい』と書いている。
  ワタル、課題に取り組むナツを見つめている。
 ×    ×    ×
ワタル「……やっぱり……覚えてないか」
  ワタル、ナツの後ろ姿を見つめる。

(つづく)