ショートショートを書いてみた ~短編よりもっと短い小説~
今月のメモ魔塾Mリーグ課題は
「ショートショートの乱」
各クラスが1つだけ投稿しています。
初めてのショートショートは苦悩の連続でした。
ストーリーを創るって難しい。。。
そんな中で初めて生まれた作品です。
コメントなどいただけるととても励みになります。
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不便家族
ショウタはモヤモヤしていた。
自分が満足しているのか不満なのか、わからないからだ。
ショウタは今年で38歳。同い年の妻ミユキと15歳の長女ユリと三人家族。
大手電機メーカーの課長として勤務している。
ショウタ「よし、仕事が終わった。帰りに今度発売される初芝製のスマート家電をチェックしに行こう。」
ショウタは仕事柄、電化製品への関心が高い。特に時短に繋がる家電や
様々なツールへの探求に余念がない。
その熱量は当然家族にも伝播しており、家族も
様々な便利で時短に繋がる電化製品を愛用している。
「ピコン♪」
ショウタの胸から通知音が鳴る。iPhoneが今日も与えられた役割をこなす。
ショウタ「通知か・・・。そうだ!明日は美容室と歯医者の予約を入れていたんだ。忘れてたよ。スケジュールに入れておいてよかった。」
ショウタは便利で快適な生活を送る為に、様々なツールを活用している。
ショウタ「ただいま!」
家の中から返事はなかった。こちらにゆっくりと歩み寄ってくるのはいつも我が家を自主的に掃除してくれている、お掃除ロボットのルンバだ。
リビングのドアを開けると妻のミユキがキッチンで夕飯の支度をしている。
ミユキ「あっ、おかえりなさい。(小声で)帰ってきたからまたね。」
イヤホンを外しながら笑顔で迎えてくれた。ママ友とオンラインツールで
会話をしながら料理をする。いつもの見慣れた光景だ。
ショウタ「ただいま。ユリは部屋?」
ミユキ「そうよ。ご飯が出来たら来ると思うけど。」
ショウタ「(娘のユリがリビングに居る日を全く見なくなった。部屋にこもりっぱなしだ。何をしているかもわからない。何故だろう。ここ最近ずっとモヤモヤするなぁ・・・。)
ショウタはモヤモヤしていた。自分が満足しているのか不満なのか、わからないからだ。
とある日の社員食堂。ショウタは会社の同僚に心情を打ち明けた。
同僚「どこも似たようなもんだよ。その類の話しを聞くの、何回目かわからないくらい。」
ショウタ「そっか。という事はみんなモヤモヤしてるのかな?
もしくはどうやって折り合いをつけてるのかな。」
同僚「諦めて慣れることが一番だよ。」
同僚からはそう言われたが、ショウタの心は動かなかった。
ショウタは家族と一緒に過ごす時間がとても好きだったからだ。
家族で過ごす時間が増えるように、家事の負担が減るようにと願いながら、最新家電を取り入れ、買い替えも小まめにしていた。
家族全員がすぐに連絡が出来るよう、娘のユリには中学生から携帯電話を与えていた。
更には、仕事で留守にしている時にも、楽しい時間を過ごして欲しいという思いから、便利なツールを家族が使えるように整えていたし、観たい番組を見逃しても観られるように、全番組を録画する機能付きレコーダーも、発売後すぐに購入していた。
ショウタ「(けど・・・、今、自分は満たされているのか?)」
気持ちは晴れないまま、モヤモヤした日々を過ごす。
とある日、ショウタは商店街に居た。
初芝製の自動洗浄機能が付いたトイレの新作をチェックしていたショウタ。
店を出ると、同じ商店街の通りにある八百屋の前に見掛けた顔があった。
その男は白い年季の入った軽トラの荷台から、段ボールいっぱいに入った
野菜を下ろし、八百屋の店主に渡していた。
店主「オサムちゃん、いつもご苦労さん!」
男「今年も良い出来の物が採れましたよ!」
その男は同じ部署の部下、オサムだった。
オサムの服は段ボールの底に付いていたであろう黒い土で汚れていた。
会社でのオサムの印象は、積極的に発言や行動をするタイプではなく
どちらかといえば、控え目で受け身なタイプだった。
自分とは違うタイプだと思い、正直関心が湧くことはなかった。
だが、今は違って見えた。
八百屋の店主と笑いながら会話をしているオサムが、キラキラと眩しく見えた。
自分と違う世界にいるように思えた。
何故そう見えるのか、理解ができない。
けど、理解したい、話しを聞いてみたい。
湧き上がる気持ちを抑えられず、思わず声を掛けた。
ショウタ「オサム! ・・・ぐ、偶然だね。」
オサム「あっ、こんにちは・・・(自分の服を見ながら)すみません、こんな恰好で・・・」
ショウタ「別にいいんだよ。・・・あのさ、忙しいかもしれないけど、ちょっと話しを聞かせてもらえないかな・・・。」
オサム「えっ?・・・もちろんです。良かったら乗っていきますか?少し汚れていますが。」
ショウタ「全然構わないよ。ありがとう。」
ショウタは軽トラの助手席に乗った。足元にはオサムの服についている色と同じ土が落ちている。
ショウタを乗せてオサムは車を走らせた。
どこに向かうかの話しもせず、ショウタはすぐさま口を開いた。
ショウタ「あのさ、あの野菜ってもしかしてオサムが作った野菜?」
オサム「そうです!畑を借りて自家菜園しています。」
ショウタ「そうなんだ。会社勤務もあるのに大変じゃないの?」
オサム「そうですねぇ。出社前に農作業をしているので少し早起きですが、 妻と高校生の娘も一緒に手伝ってくれているので、大変じゃないですよ。楽しくやってます。」
ショウタは驚きを隠せなかった。
何故畑作業をしているのか?
家族みんなで?
年頃の娘さんも畑を手伝ってる?
自分の家族に置き換えて考えていると、また気持ちがモヤモヤし始めた。
ショウタ「(オサムの思考はきっと自分とは違う。自分の悩みを打ち明けてみよう。オサムならこのモヤモヤを晴らしてくれそうな気がする。)」
ショウタはオサムに自分の想いを打ち明けた。
家族と一緒に過ごす時間がとても好きだという事。
一緒に過ごす時間を増やす為、便利で効率的に時短が出来る環境を整えている事。
だけど、自分が満足しているのか不満なのか、わからずモヤモヤしている事。自然と全てを打ち明けていた。
オサムはショウタの話しを聞きながら、何度も頷いた。
ショウタの家族への想いに深く共感していたからだ。
信号が赤に変わり、停車と同時にオサムが話し始めた。
オサム「参考になるかわかりませんが、私の家庭で大事にしていることをお伝えします。
それは家族と幸せに過ごす為、【あえて不便を選ぶ】ことです。」
【あえて不便を選ぶ】
その言葉はショウタの頭にアップデートされた事がなかった。
信号が青に変わった。運転しながらも、オサムは話し続けた。
オサム「ドンドン便利になっている今の世の中で、気付いた事がありました。それは便利過ぎる事で大切な何か失っている、そしてそれは実感しにくい、という事でした。」
ショウタは驚きながらも、湧き上がる気持ちを抑えつけることなく、ありのままの想いをぶつけた。
ショウタ「あえて不便を選ぶなんて考えた事がなかった。今まではいかに便利で効率良く出来るか、そればかりを考えていた・・・。それが家族と幸せに過ごせる時間が作れるとばかり思っていて・・・。」
ショウタの伏せた目がハッとするようにオサムの横顔に向いた。
ショウタ「気付いたきっかけはなんだったの?」
オサムは路肩に車を寄せ停車した。
一呼吸おき、フロントガラスの向こうを見ながらゆっくりと話し始めた。
オサム「昔、家族で海外旅行をしたのですが、その旅先の酒場がきっかけです。店に入ると空のグラスがテーブルの上にドン、と出されていただけで・・・。
空のグラスを手に店内の奥の部屋に行くと、そこには巨大な酒樽があってどうやら酒樽から直接お酒を注ぐようですが、蛇口から出てくるお酒の勢いが凄くて、お酒をグラスに注ぐには【お酒を受けとる人】と【蛇口をひねる人】の二人が必要でした。
それを妻と共同作業して、お酒を注ぐ事が出来た時に気付いたのです。
あえての不便が家族との楽しい時間を創ることを。」
それからオサムは家庭に取り入れた「あえての不便」をショウタに話した。
その続きはまた次回に。
続く
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