ひらがなの罠
私が3歳くらいの時の話。
家族で中華料理屋に行った。
工場地帯の一画にあるこじんまりとしたお店で、仕事終わりのおじさんたちがたくさんいたのを覚えている。
座敷に座り、好奇心旺盛な私はキョロキョロしていた。厨房からは中華鍋を振る「カンカンカン」という音が子供心を踊らせる。
メニュー表が無く、壁に書かれている文字を見ていく。「麻婆豆腐」「青椒肉絲」「酢豚」「餃子」たくさんの漢字が並んでいる。3歳の私には読めるわけもなく、一番端に唯一読めるひらがな2文字が書いてあった。それが何なのかは分からなかったが、それにしようと決めた。
両親が順番に注文していく。
“よっちゃん、何食べたい?”
と聞かれたので
『よっちゃんはね、《めし》がいい』
と答えた。すると、爆笑が起こった。意味がわからなく、何がおかしいのか聞くと、
“めしって何か知ってる?”
と聞かれた。もちろんわからない。
“めしって白ご飯のことだよ”
と言われた。パニックだ。ご飯はご飯だ。そんな2文字のひらがなでご飯が出てくるわけがない。そう思った。しかし、あんなに笑われるのは3歳としても恥ずかしい出来事ということはわかる。結局、めしという食べ物を頼むことはなく謎に包まれ、いまだにこの話は笑い話としてされ続けている。
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