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【短編小説】むち打ち治療の日

 どうも、昨日っから首が痛い。痛いっていうか、ヘンな感じ。違和感、だな。
「どうしたんです?ヘンな顔して」
 うーん、と首を捻ったりぐるぐる回したりしてたら、同僚に心配された。
「なんか、ヘンな感じがしてさ。違和感っつーか……あ、イっ!…てぇー」
「ええー、何したんですか。寝違えでもしました?」
「いや、寝違えじゃない、と思う、昨日っからだし。んー……ああ、そういや、昨日の夜、息子と一緒に柔道の稽古にいったわ」
 週2でやってる、地域の柔道教室に昨夜も行った。学生時代にやってたのとまだ体格をキープしてるのもあって、そこのコーチから是非にと手伝いを頼まれてる。小さい頃から一緒に通って、最初のうちは見学だけだった息子も、小学生にあがってから一緒に稽古をつけるようになった。昨夜は、その柔道の稽古の時に、コーチと二人で技の見本を見せた。その時の受け身が、まずった、んだろうな。
 思い出したそれらを同僚に話すと、それでしょうと。だよなぁ。
「自覚したらじわじわ痛ぇ…やっちまったなぁ」
「ちゃんと医者行ってきた方が良いですよ。自然治癒もしますけど、へんなとこ痛めてたらヤバいですし」
「そーだなぁ」
 むち打ちの大変さは競技者ならきっと誰しも知ってるだろう。頸椎を痛めたりすれば生涯にわたって響く可能性があるし、それでなくても、痛めた箇所があるなら軽視せずにきちんと専門家に見てもらった方が良い。
「それを知ってるってことは、そちらさんも昔なんかやってた感じ?」
「いえ、僕は身内が交通事故にあったことがあって」
「あー、それはやばい」
 交通事故は、軽いものでも軽視しない方がいいというのは定説だろう。事故直後は興奮状態やパニック状態になっていて気が付かなくても、後から痛みが出て来たりする。事故の程度によって差はあれど、大体がなんらかのむち打ちを患うものだ。
「そうなんですよ、ちょっとぶつかっただけだと思ってたら、段々痛みだしてきたって言ってて。レントゲンとったら靭帯を損傷してたみたいです」
「おっふ、こえぇ」
 うんうんと神妙な顔で頷く同僚に、思わずぶるりと身震いする。
「午後休、まではいかなくとも、今日は早めに上がるわ。近場で遅くまで見てくれるとこあったはずだから」
「そうしてください。何かあってからじゃ遅いですし、何もなければそれでいいですから」
 今度は自分がうんうんと頷いて見せる。
「それな。ほんと、何もなければそれでいい。何かあってからじゃ遅いんだよ……」
 何年だか前に急死した、祖母の事が頭を過ぎる。前日までなんにもないような顔をして元気に暮らしてるって電話をしたところだった。電話口で少しけほけほと咳込む感じはあったけど、それでも元気そうに振舞ってたから、まさか肺炎でその後すぐに二度と会えなくなるなんて夢にも思わなかった。
「……おし、そんじゃ、今日早めにあがるためにも、こっちの仕事ちょっと手伝ってくんね?」
「しょうがないなぁ…珈琲一杯でお手伝いしましょう」
「安くて助かる。……ってぇ、くっそ笑うのも駄目かよ」
「早めに治してから、豪快に笑ってください」
「だな」
 笑うのさえ気を遣うのなんて、ストレスがたまってしょうがない。息子にもこんなふうになったらすぐにお医者さんへ行くんだぞと見本をみせるためにも、姿勢を正して仕事を早く終わらせるために、目の前の画面へ向き直った。


 本日は「むち打ち治療の日」だそうです。日本記念日協会様より。

 むち打ちというと、真っ先に思い浮かぶのが交通事故です。よく聞く気がしますが、もし事故にあったら小さくとも病院へいって検査をしてもらえと。少しぶつかられただけでも結構な衝撃が加わりますし、知らぬ間に痛めている、なんてこともよくあるそうですから。文章中にも書き込みましたが、「何もない事が確認できればそれでいい」ですし、「もし何かあってからでは遅い」ですからね。早期発見大事です。きちんと治療すれば治るものだそうですので、皆さまももし何かあったら、早期の治療を心掛けてください。

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ぺん
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